731話 皆で次も!
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
満足した様子で、ゴミの山から帰ってくるソラ達。
私の傍に来ると、プルプルと揺れ始めた。
それに首を傾げてしまう。
「どうしたの?」
「大満足した報告だったりしてな」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
お父さんの言葉に「まさか」と言おうとしたけど、正解だった。
というか、本当に大満足した報告だったんだ。
「そう、満足したんだ。良かった」
今日はどうしてわざわざ報告に来たんだろう?
いつもは来ないよね?
「満足してくれたみたいだね。次も同じぐらい食べていいからね」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
マルチャさんの言葉に嬉しそうに鳴く3匹。
うん、私にというよりマルチャさんに満足した事を言いたかったのかな?
次の食事の催促をするために。
「おまえら」
お父さんの呆れた声に、ソラ達はスッと視線を逸らす。
「ふふっ、可愛いね。思う存分食べていいからね」
マルチャさんが、楽しそうにソラ達を見る。
催促も伝わったみたい。
良かったね。
「ありがとうございます」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
私がマルチャさんに頭を下げると、ソラ達もちょっと頭が上下する。
挨拶してる、可愛い。
「さて、そろそろ村に戻ろうか」
お父さんの言葉で、帰りの準備を始める。
ポーションが入っていたカゴを見る。
持って来てくれた、青と赤のポーションは空っぽだ。
あれ?
青と赤のポーションは同じ数を持ってきたと言ったよね?
ソラは剣も食べているから……食べ過ぎでは?
「ソラ。ちょっと食べ過ぎじゃない?」
「ぷっ?」
ん~、不思議そうに私を見上げている体が、ちょっとだけ丸いような。
「明日はちょっとご――」
「ぷっぷ! ぷっぷ!」
駄目か。
まぁ、ちょっと丸くなったぐらいなら、明日には元の体形に戻るしね。
「ごめん、そんな事しないよ」
「ぷ~」
あっ、拗ねちゃった。
「すごい」
クラさんが私とソラを交互に見て、何度も頷いている。
そして、笑顔で私を見た。
「俺、アイビーさんを目指します」
「えっ?」
私を目指す?
マルチャさんという、凄いテイマーが傍にいるのに?
「それはいいね」
えっ、マルチャさん?
「アイビーさんを目指すのなら、そうとう頑張らないと駄目ですけど、やり遂げようね」
頑張る?
何を頑張るの?
意味が分からずお父さんを見ると、肩を竦められた。
えぇ~、どういう事?
「クラさん」
やる気を表現しているのか、ぐっと両手を握っているクラさんに声を掛ける。
「はい」
「えっとスライムとの関係だけど、あまりこうあるべきという形を作らない方が良いよ。スライムは自由だから」
私の言葉に首を傾げるクラさん。
どう言えばいいかな?
「あははっ、確かにその通りだね。私がこうして欲しいと思っても、無視されたりするしね。クラ、スライム達はクラの望み通りに動いてくれるとは限らないからね。そういう時は、どうすればいいと思う?」
「お願い。じいがよく、ポポとミミにお願いしてる」
「それでも動いてくれなかったら」
「……別の方法を考える」
「そうだね。他にも、スライム達が協力しなくても出来る方法を探す事も大切だよ」
やっぱり、マルチャさんはいい見本だね。
「嫌がったら、無理をさせない」
「その通り。スライム達の気持ちを大切にすると、いい関係が築けるからね」
「でもじいは、何度もポポとミミを怒らせてる」
「んっ?」
クラさんの言葉に、マルチャさんが首を傾げる。
「酒を飲んで怪我した時、ポポとミミに約束した」
「あ~」
マルチャさんは気まずそうに視線をさ迷わせ、お父さんを見た。
お父さんは楽しそうに笑うと、首を横に振った。
「でも、また酒を飲んで怪我した」
約束は守らないとね。
「ん~、それはね――」
「何度も。3日前も」
「それについては……」
ふふっ。
マルチャさんは、かなり困っているみたい。
「ほわっ」
「……」
あっ、ポポとミミの視線が鋭くなった。
そういえば、ポポとミミは表情が豊かだ。
特にミミの方が、目の印象が随分と変わるみたい。
「ごめん」
「悪い見本」
クラさんの言葉に、マルチャさんが情けない表情をする。
「ごめんなさい。これからは飲み過ぎないように注意するから、許してね」
お酒を止めるとは、言わないんだね。
まぁ、嘘つくのは駄目だもんね。
お酒が止められないと思うなら、言わない方が良いんだろうな。
「はぁ」
「ほわっ」
「……」
呆れた様子のクラさんとポポ達。
口にそっと手を添えて、笑いを我慢する。
「まさか、こんなに皆に責められるとは思わなかったよ」
肩を落とすマルチャさんに、クラさんとポポ達が満足そうな表情を見せた。
「ふふっ、良い関係だね」
テイマーとテイムされた魔物というだけでなく、クラさんともいい関係が築けている。
お父さんと私、そしてソラ達みたいな関係だな。
「そうだな」
「ぷぷっ」
えっ?
ソラの鳴き声に視線を向けると、足元で頷いていた。
その態度に噴き出してしまう。
「ぷっ?」
「なんでもないよ。可愛いね、ソラは」
ソラをギュッと抱きしめる。
「そろそろ帰ろうか」
「うん」
お父さんの言葉に、ソラ達が台車の上に飛び乗る。
「マルチャさん達は、これからどうしますか?」
お父さんが、マルチャさんを見る。
「帰るつもりなんだけどね。クラ、スライム探しは明日でいいかな?」
「うん」
あっ、もしかして捨て場にゴミを置いたら、スライムを探す予定だったのかな?
「マルチャさん達の予定を、狂わせてしまったのではないですか?」
「えっ? あぁ、大丈夫だよ。今日の夕方、私に用事があるんだよね。だからゴミを置いたら、村に戻るつもりだったから」
それなら、予定を狂わせてはいないかな?
「準備もできたし、行こうか」
帰る準備が終ると、マルチャさんが台車を引く。
私はクラさんの隣に移動して、彼と一緒に台車を押した
それに気付いたマルチャさんが、嬉しそうに笑ってくれた。
「ありがとう」
「いえ、マジックアイテムやポーションを貰ったので」
これぐらいはして当然。
「いやいや、あれは村として依頼した仕事になるからね」
えっ?
契約は交わしたけど、村にはまだ何も言ってないよね?
「あっ、依頼の支払いはどうしたらいいのかな? 今日の分は、明日には払う事が出来るけど」
「今日の分は必要ないですよ」
お父さんの言葉に、マルチャさんが首を横に振る。
「ソラ達が食べてくれた分は、きっちり支払わせないと駄目だよ。これは、村の信用にも関わる事だからね」
村の信用か。
お金の支払いに関しては、ギルドでもなるべく早く支払うと言っていたな。
遅くなると、それだけ信用されなくなるらしい。
「そう言う事なら、ありがたく今日から依頼を受けた事にします」
「はい。で、支払方法に希望はあるかな?」
「商業ギルドのカードに、振り込んでもらえたら助かるな」
「それなら、大丈夫だよ。ただ商業ギルドのカードを登録しないと駄目だから、一度自警団に来てもらわないと駄目なんだけどね。今日、これから自警団に来ることは出来るかな?」
「大丈夫だけど、用事は間に合うのか?」
捨て場でも、少し時間が掛っているもんね。
「大丈夫だよ。用事は自警団だからね」
そっか。
それなら自警団まで皆と一緒だね。