718話 お手伝い
「ん? この周辺は、果実の生る木が異常に多いな」
お父さんが周りを見回して首を傾げている。
鞭を諦めた日から4日目。
そろそろお父さんの疲れが、症状で出る頃なのでちょっと心配。
「本当に多いね」
周りを見渡すと、全ての木に果実が生っている。
これはちょっと異常だ。
「人の手が入っていないと、ここまで果実の生る木が集まる事は無いな」
そうだよね。
「ん~、この果実も隣の果実も……薬になるんじゃないか?」
お父さんの隣に立って果実と葉っぱを見る。
確かに、薬になる種類の果実みたいだ。
「そうなると、やっぱり人が植えた事になるね」
「そうだな。もしかしたらマーチュ村が近いのかもしれないな」
あぁ、その可能性が高いか。
ん?
こっちに来る気配がある。
「人の気配が近付いてくるな」
「うん。……えっ? お父さん、区別が出来るようになったの?」
少し前までは、気配を感じてもそれが何か区別が出来ていなかったのに。
「皆、ごめんね。バッグに隠れて!」
遊んでいたソラ達が、私の前に来るとぴょんと腕の中に飛び込んでくる。
それを受け止めバッグに入れながら、お父さんを見る。
「人の気配で正解か? 自然の気配とは全く違うし。動物や魔物とも異なっていたから人だと判断したんだけど」
「うん。正解」
この短期間で区別が出来るようになるなんて、やっぱり凄いな。
「完全に区別が出来るの?」
「判断するのに時間が掛るけど、とりあえずは出来るようになったと言えるかな。でも、実戦では時間が掛り過ぎるから、役に立たないだろうな」
時間が掛るのか。
でも、お父さんの事だから一気にその時間を短くしそうだけどな。
「来たぞ。そろそろ姿が見えるんじゃないか?」
お父さんの言葉に、気配を感じる方へ視線を向ける。
ジッと待っていると、木々が揺れるのが分かった。
気配の数は3人分。
警戒しているのか、少しピリピリした気配だ。
「何者だ?」
木々の間から3人の姿が見えた。
「すみません。マーチュ村に行くところなんですが、少し道から逸れてしまって」
「本当に?」
3人の中で一番年上の男性が、怪しげに私とお父さんを見る。
格好から冒険者だろうか?
ただ、冒険者にしては鋭さを感じない。
一緒に来た2人は、薄い緑色の髪を持つ男性と茶色の髪を持つ女性でどちらも後ろで髪を1つに縛っている。
「この果実は、マーチュ村で管理しているのですか?」
お父さんの言葉に、一番年上の男性が頷く。
やっぱり、そうなのか。
でもどうして森の中で育てているんだろう?
村の中の方が、魔物や動物に取られる心配がないと思うけど。
それに収穫する時だって、安全に出来るのに。
「本当にマーチュ村に来た者達か? この果実を採りに来たんじゃないのか?」
「はい、違います。たまたまこの場所を見つけて、驚いていたんです。果実の生る木が、森の中で自然に集まるには多過ぎたので」
お父さんの説明に、まだ少し警戒を見せる一番年上の男性。
その様子にどうしようかとお父さんを見る。
お父さんも肩を竦めている。
「悪いな。最近、勝手に盗んでいく奴らがいるんだ」
そうなんだ。
でも、こんな森の奥に?
周りを見回す。
果実を盗みに来るには少し危険度が高いような。
それともここに生っている果実には、それだけの価値があるんだろうか?
「なんだ、知らないのか?」
「「えっ?」」
お父さんと私が不思議そうに一番年上の男性を見ると、ちょっと困った表情をしていた。
「まぁ、そのなんだ。ちょっと、な」
あっもしかして、この果実の中に凄い価値のある果実があるのかも。
それだと、説明は出来ないよね。
お父さんを見ると、私を見て頷いた。
たぶん、同じ意見なんだろうな。
「すみませんが、マーチュ村に行く道を教えてくれませんか?」
お父さんが地図を出すと、一番年上の男性がホッとした様子を見せた。
あれ?
こんなに表情が分かりやすいという事は、冒険者ではないかもしれない。
冒険者は表情が読みにくいからね。
「あ~、俺達も村に戻るところなんだ。なんだったら一緒にどうだ?」
一番年上の男性の言葉に、お父さんが私を見る。
それに頷くと、一番年上の男性に頭を下げた。
「宜しくお願いいたします」
私の言葉に、一番年上の男性は頷く。
「俺はママガだ。こっちの2人はティスとカイス」
「初めまして、ドルイドと娘のアイビーです。よろしくお願いしますね」
「あ~、村に案内する前にちょっと収穫をしていいか? それとも、すぐに村に行く用事でもあるのか?」
ママガさんの言葉にお父さんと私が首を横に振る。
「ゆっくり親子で旅をしています。収穫なら、手伝いますよ。人手があった方が早く終わるでしょうし」
「いや。……悪い。いいか? 今日は冬に向けて、ちょっと収穫する物が多いんだ」
ママガさんが断ろうとすると、ティスさんとカイスさんが残念な表情を見せた。
それを見たママガさんは、苦笑して私達の提案を飲んでくれた。
「もちろんです」
お父さんと私が頷くと、ティスさんとカイスさんが嬉しそうに笑った。
もしかしてそんなに多いのかな?
それなら気合を入れて、収穫しないとな。
「こっちの青ですか?」
私の拳ぐらいの青い果実を前に首を傾げる。
どう見ても熟す前の果実だ。
香りも甘く無い。
「うん。その果実は、青いうちに採って使うから。少しでも赤みがある物は使えないんだ」
ティスさんが、青い果実を採って私に渡す。
つまり、少しでも赤みがあったら駄目という事か。
というか、この果実も薬になるのかな?
「何個ぐらい採りますか?」
「えっと、それは……多ければ多いほどいいかな」
「分かりました」
それなら、青い果実は全て採っていいという事だよね。
果実が生っている木を見る。
……これは、大変だな。
「頑張ろう」
青い果実を、借りたマジックバッグに収穫していく。
移動しては、収穫。
また少し移動しては、収穫。
「アイビーちゃん。無理しなくていいからね」
アイビーちゃん?
「はい、大丈夫です」
驚いた。
カイスさんがそんな呼び方をするなんて。
「終わった~」
凄い量だったな。
マジックバッグを見る。
……採り過ぎなんて事はないよね?
「どうしたの?」
「いえ、青い実は全て採ったんですけど、大丈夫ですか?」
「大丈夫。ありがとう、本当に助かったわ」
カイスさんに手を握られてブンブン振られる。
それに驚いてしまって反応できずに、彼女の顔を見上げる。
そういえば、カイスさんは背が高いな。
ティスさんより高いかも。
「何? 何か付いてる?」
ジッと見ていると、カイスさんが顔と髪を手で触って首を傾げる。
「あっ、ごめんなさい。背が高いなって思って」
「そうなの! 女性にしては背が高い方なの」
やっぱり、そうなんだ。
スラっとしていてかっこいいな。
「アイビー、終わったのか?」
「うん。終わったよ。他は?」
お父さんがカイスさんの隣に立つ。
あっ、背がほとんど同じだ。
あれ?
カイスさんの方が少しだけ高い?
「必要な物は収穫したから、終わりだそうだ。それより、どうしたんだ?」
お父さんが、カイスさんとお父さんを見比べている事に気付いたのか、不思議そうな表情をする。
「お父さんとカイスさんの背が、同じくらいだったから驚いて」
私の言葉に、お父さんとカイスさんが視線を合わせ、2人とも戸惑った表情を見せた。
「高いな」
「はい。両親は低いのに、私だけ伸びちゃって」
両親の背が低くても、背が高くなれるんだ。
私も、あの人達より背が高くならないかな?