714話 ゆっくり作ろう
テントを張った場所まで戻ると、ソラは目を覚ました。
そして、ポーションの入ったマジックバッグの上で飛び跳ねると私を見た。
これは、ご飯が欲しい時にする、行動の1つ。
「ちょっといつもより早い時間だよ。この時間に食べちゃうと、明日の朝に我慢する事になるよ?」
私かお父さんが、起きるまで待つ事になるからね。
「ぷ~」
私の言葉に不服そうに鳴くソラ。
「ぺふっ」
「てりゅ」
「えっ?」
ソルとフレムも、ソラの乗っているマジックバッグに飛び乗って私を見た。
もしかして、皆でご飯の要求?
「明日の朝ご飯は、いつもの時間だよ?」
ソルとフレムを見る。
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ! ぺふっ!」
分かったとは言ってくれたけど、明日の早朝に起こされるような予感がする。
……しょうがない。
マジックバッグから、青と赤のポーションとマジックアイテムを取り出していく。
「どうぞ」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
「ゆっくり食べてね」
と言っている傍から、凄い勢いで消えていくポーションとマジックアイテム。
相変わらず、凄い勢いだね。
「アイビー。今日使う漬けダレは、どれだ?」
お父さんを見ると、漬けダレが入っている瓶を前に首を傾げている。
「えっと……ポン酢ソースは……どれだろう?」
同じ色が3個もある。
どれもベースがポン酢だから、同じ色になってしまうんだよね。
瓶の蓋を開けて香りを確かめる。
分からない。
ちょっと舐めて……。
「あれ?」
微妙な味の違いだ。
何が違うんだっけ?
……あっ、甘味の強いのと、ポン酢味の濃さだ。
ちょっと舐めたぐらいだと、ポン酢の濃さの違いが分かりにくいな。
作った時は、結構味を変えたつもりだったけどな。
「トトポの肉って、臭みはどうなの?」
「凄くうまい肉」と言っていたから、大丈夫だと思うけど。
でも、少しぐらいはあったりするのかな?
「臭みは全く無いんだ」
「そうなんだ」
全く無いんだ。
それならポン酢味は薄い方で……たぶん……こっち。
臭み消しの薬草は、今日はいらないかな?
「お父さん、ポン酢ソースの味を確かめてみて。どう?」
お皿にポン酢ソースを少し出す。
お父さんは小指にポン酢ソースを付けて舐めると、頷いた。
「これでいいと思うぞ。ポン酢味も優しいし」
それなら、それで決定。
まずはお肉を大きめに切って漬けダレに入れて、少し置いておこう。
その間に、付け合わせの野菜は……野菜ゴロゴロのスープにしようかな。
お肉にしっかり味を付けるから、さっぱり味にしよう。
「よしっ。作るぞ~」
「お~」
お父さんに向かって言うと、お父さんも一緒に乗ってくれる。
それに2人で笑ってしまう。
「今日はスープを作るんだな」
「うん。野菜ゴロゴロのスープ。あとは、そうだお肉を包む葉野菜も洗わないと駄目だね」
「それは俺がするよ。洗うぐらいなら簡単だ」
お鍋に、下ごしらえしておいた骨をマジックバッグから出して入れ水から煮込む。
灰汁が出たら綺麗に取って、洗った野菜の皮や根っこを足して中火で煮込んでいく。
時間は、だいたい1時間。
ちょっと煮込み時間が少ないけど、しょうがない。
煮込んでいる間に、スープに入れる野菜の準備。
葉野菜はお肉を包む時に食べるから、根野菜を5種類。
煮込む時間を考えると、少し小さく切った方が良いよね。
一口大の半分ぐらいかな?
……ちょっと小さすぎる?
「皆、今日の夜を楽しみにしているんだな」
「えっ?」
お父さんの指した方を見ると、食事が終わったソラ達が固まって寝ていた。
いつもなら、跳びはねたりして遊んでいる時間なのに。
「夜、起きておくためなんだよね?」
ソラがシエルの口の中で熟睡したのも、それが原因みたいだし。
というか、凄く楽しみにしているよね。
「今日、飛ぶといいな」
「そうだね」
飛ばなかったら、凄く落ち込みそうだよね。
特にソラ。
一番、楽しみにしているみたいだから。
出汁が取れるまで、ちょっと休憩。
これから向かう村の情報をお父さんから聞く。
でも、あまりお父さんも詳しく無いみたい。
そんなに小さい村なのかな?
1時間たったら、スープから骨と野菜の屑を綺麗に取り出す。
そこに切った野菜と、ほんの少しトトポのお肉。
「いい香りだな。んっ? 骨を使ったのか?」
「うん。骨をいつでも出汁として使えるように、下処理してマジックバッグに入れておいたんだ」
「この骨って、肉屋で貰ったモウの骨か?」
「そうだよ」
モウの骨を捨てそうになっていたから、慌てて止めて「譲って下さい」ってお願いしたんだよね。
酪農で育てるモウは、下処理をしっかりすれば臭みの無い良い出汁が取れるから捨てるのは勿体ない。
スープに使用した骨は、しっかりと下処理をしてあるので、臭みは無し。
というか、やっぱりスープの出汁と言ったら骨!
野菜の屑だけでも十分な出汁は取れるけど、骨があるとまた違った味が楽しめるからね。
「お父さん。そろそろ、肉を焼こうか」
お肉を焼いている間に、スープに入れた野菜は火が通る予定。
あと、ピリ辛味の辛めのソースは作り置きしていた物を使用して、お肉を包む葉野菜はお父さんが準備済み。
「これぐらいか?」
肉を焼いていたお父さんが、肉を網から持ち上げる。
両面こんがり焼かれている肉は美味しそう。
キュルル。
あっ、お腹が鳴っちゃった。
「うん、それぐらいで大丈夫だと思う」
お肉を食べやすい大きさに切って、器に盛って完成。
スープの中の野菜も……あっ、ちょっと小さく切り過ぎたみたい。
まぁ、良いか。
「食べようか」
「うん」
「「いただきます」」
まずはスープ。
あぁ、優しい味。
野菜の食感は……あるような、無いような。
今回使った根野菜は、煮込む時間に注意が必要だね。
次から気を付けよう。
そしてトトポのお肉。
「……美味しい。凄く美味しいね」
ちょっと味見をした時にも思ったけど、本当に臭みがなくて肉の味が濃い。
しかも、柔らかい部分と、コリコリした部分があって、食感まで楽しめるんだから最高。
「やっぱり、うまいな」
お父さんの食べる早さを見て、肉を多めに焼いて正解だったと感じる。
「お父さん、野菜で包んで食べても美味しいよ」
肉の味が濃いから、ピリ辛味に負けてない。
この食べ方も、すっごく美味しい。
「「ごちそうさま」」
美味しかったから、いつもより食べちゃったな。
ちょっと体が重い。
さすがに森の中でこれは駄目だね。
それにしても、お父さんの食べっぷりが凄かった。
「大満足」
ゆっくりとお茶を飲むお父さんは、本当に満足したのか頬が緩んでいる。
「凄く魅力的な魔物だね。ここまで肉が美味しいと、冒険者達もこぞって狙うだろうね」
魔物の肉は、臭みのある肉が多い。
だから臭みの無い肉は、冒険者達の中で大人気なんだよね。
「んっ? 森の奥。最奥に行かないといないから、上位冒険者でも狩るのは難しいと思うぞ。足が速くて、瞬発力も抜群。勘が良いのか、先回りしていると気付かれたりするしな」
トトポは思ったより、狩りにくい魔物なんだ。
「良く捕まえられたね」
「シエルが追っかけまわして、俺の方へ誘導してくれたんだ」
あぁ、シエルか。
それは、逃げられないね。
シエルは逃げると、本当に楽しそうに追うからね。
何度か見たけど、凄い迫力で追い掛け回していたっけ。
「さすがシエルだね」
「あぁ、トトポをあんなに簡単に狩ったのは初めてだったよ」
シエルは楽しく追えて、お父さんは簡単に狩れて。
良い魔物だね。
いつも読んで頂きありがとうございます。
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次回の更新は25日の予定です。
ほのぼのる500