表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
771/1147

712話 難しい?

テントを張り終わると、次は焚き火の準備に取り掛かる。

最近は雨が降っていないので、拾った枝はどれもしっかりと乾燥している。

これなら火付きもいい。


「ただいま」


「おかえり」


シエルと、周辺を確認していたお父さんが戻ってくる。

その手には、灰色の毛の塊?


「トトポと言う魔物だ。凄くうまい肉だから、シエルと一緒に狩ってきた」


あぁ、それで戻ってくるのが少し遅かったのか。


「すぐに解体の準備をするね」


「あぁ、この花畑から少し離れた所に川があったから、そこでやろうか」


「うん」


「血抜きはマジックアイテムで既にしてあるから」


「分かった」


となると、血抜き用のマジックアイテムは必要ないから、皮をはぐ道具と切れ味のいいナイフだね。

お肉を切り分けて入れておくカゴと、お肉を包むバナの葉もまだあったよね。


「用意できたよ」


「行こうか」


お父さんと一緒に、川を目指す。

先導してくれているシエルの前脚を見ると、少し血で汚れている。


「シエルは既に食べてきたの?」


「にゃうん?」


「前脚に血が付いているよ? もしかして怪我をしたの?」


シエルが、自分の前脚を見る。


「……にゃっ」


不服そうになくシエルに、つい笑ってしまう。

シエルは綺麗好きだから、前脚の状態が気に入らないんだろうな。

すごく丁寧に、毛づくろいするもんね。


「美味しかった?」


毛づくろいがちょっと疎かになるぐらい、美味しいのかな?


「にゃうん」


あっ、声が嬉しそう。

トトポか。

今から期待しちゃうな。


「あそこだ」


お父さんの視線を追うと、少し大きめの川が見えた。

傍に寄って、川の中を覗き込む。


「深い川だね」


水が澄んで綺麗なので、川の底がよく見える。


「ソラ、駄目だよ」


川の中を覗いていたソラを、そっと抱き上げて川から離す。


「ぷっ!」


不服そうに鳴くけど、川に流された事が何回もあるから要注意なんだよね。


「今までの事があるから、ソラは川に近付いたら駄目」


「ぷ~!」


私の言葉に、悲しそうな声で鳴くソラ。

まぁ、ちょっとぐらい……いやいや、そう考えて何度ソラが流されたか。

うん、もう水もかなり冷たいし、助けに行く私達も大変だから駄目。


「水も冷たいし、絶対に駄目」


「ぷっ!」


不服そうに腕から飛び出すソラ。


「はははっ。不服そうだな。でも仕方ないだろう? ソラは川に流されやすいんだから」


お父さんの言い方に、ちょっと笑ってしまう。

まるでソラが、川に流されやすい体質みたいに聞こえる。


「ぷっぷ、ぷっぷ」


お父さんに向かって体当たりをするソラ。

この行動にちょっと驚く。

今まで、不服だと鳴いても攻撃はしなかったのに。

まぁ、攻撃にはなっていないけど。


「可愛い攻撃だな。まっ、今までの事があるからな。自業自得だぞ」


お父さんがぶつかって来たソラを抱き上げる。


「ぷ~」


全く納得してない様子で鳴くソラは、お父さんの腕から抜け出そうともがく。


「……ぷっ?」


抜け出せない事に不思議そうなソラ。

ジッとお父さんを見上げると、お父さんがにこっとソラに笑った。


「ぷっ!」


腕の中でジタバタと暴れ出したソラに、お父さんがばれないように笑っている。

おそらく笑っていた振動に気付いたのだろう、珍しく目を吊り上げるソラ。


「ぷぅっ!」


「あはは、ごめん。ごめん。可愛くて」


お父さんの言葉にプルプルと腕の中で震えると、また抜け出そうともがきだした。

体をギュッと細長くしてみたり、その状態でバタバタ暴れてみたり。

しばらく頑張っても無理だったのだろう、

今度は、腕の中からお父さんを睨んでいる。


「睨んでも可愛いだけだぞ」


「ぷ~」


確かに、可愛いだけだね。

それにしても、腕の位置を微妙に変えるだけでソラをしっかりと捕まえている。

凄いな。

私がソラを捕まえても、すぐに逃げられてしまう。


「さてと、解体しようか」


「あっ、そうだった」


解体道具を並べ、まずは皮についている汚れを川の水で綺麗にして。

次に内臓を処理、必要ない部分を切り落として皮を剥いで食べやすい大きさに切る。


「よしっ」


ふ~、肉だけだと20㎏かな?

これだけあれば色々作れるね。

まぁ、まずは肉そのままを楽しむけど。


「今日の分は、味を付けて。残りは、マジックバッグに入れておくね」


「あぁ、味付けはどうするんだ?」


お父さんが解体道具を川の水で洗いながら、私を見る。


「普通に塩味と……ポン酢ソースを作って、漬け込もうかな」


もう1つ、何か味が欲しいかも。


「ピリ辛味も欲しいな」


ピリ辛味か。

これも、ソースを作って漬ける?

それとも、別の食べ方にする?


「野菜も一緒に食べたいな。そうだ、ピリ辛味は辛めのソースにしようかな。お肉にピリ辛ソースをちょっと付けて、それを葉野菜で包んで食べるの。どう?」


これだったら、お父さんも自然と野菜を食べてくれるよね。


「うまそうだな」


「でしょ? テントに戻って、夕飯作りでもしようか」


「まだ少し早いだろう。そういえば、鞭は持って来てないのか?」


あっ、練習するつもりだったんだ。


「持ってきた」


マジックバッグから鞭を取り出す。


「この場所は血の匂いがするから、少し場所を移動して練習しようか」


「うん」


お父さんが周りを見回しながら、川辺を上流に向かって歩き出す。


「この辺りでいいだろう。ちょうどいい岩もあるし」


お父さんが指す方を見ると、少し離れた場所に、大きな岩があった。


「まずは、鞭の先を目標にぶつける事が大切だ」


お父さんに鞭を渡すと、岩に向かって打つ。


ヒュッ。

パシン。


岩と鞭の先がぶつかると、音が聞こえた。


「力を入れなくていいぞ。まずは、同じ場所を打てるように練習するんだ」


ヒュッ。

パシン。

ヒュッ。

パシン。

ヒュッ。

パシン。

ヒュッ。

パシン。

ヒュッ。

パシン。


凄い、5回とも同じ場所を鞭で叩いている。


「はい」


お父さんから鞭を受け取って、岩に向かって鞭を打つ。

目指したのは、お父さんと同じ場所。


ヒュッ。

カシャン。


「あっ」


結構力を込めて振り落としたけど、岩まで届かなかった。

もう少し力を強めて、


ヒュッ。

カシャン。


「……ん?」


「無駄に力が入っているのかもしれないな。ん~、釣りの時の感覚でやってみようか。糸を遠くに飛ばす感覚」


釣り。

あぁ、糸をなるべく遠くの川に落とす感覚か。

うん、次こそは。


ヒュッ。

バチッ。


「うわっ」


鞭を動かすと、後ろで何かがぶつかる音がした。

慌てて振り返る。


「「……」」


後ろの木の一部が少し傷ついている。

たぶん、鞭が当たったんだろうな。

それにしても、思った以上に難しいな。


「まぁ、初めてだからな。とりあえず、岩に届かせようか。あっ、3歩ぐらい前に出てもいいぞ。腕の長さの違いがあるから」


「分かった」


今立っている場所から3歩、もう1歩だけ前に出る。

そこからもう一度、鞭を岩に向かって振る。


ヒュッ。

パキッ。


「……なんで?」


岩の傍に、落ちている枝にぶつかる鞭。

今日の目標は、とりあえず鞭を岩にぶつける事だね。

うん、多くは望まない。

まずは1歩から。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ムチでバシッとするアイビーみたかった…残念w アイビーは運動神経が…
灰色のトトポって…… 一瞬ト◯ロかと。 シリアスとコミカルを上手く混ぜたこの物語、お気に入りです! …………鞭頑張。
飛び上がって枝を折る程度には攻撃力あるはずなんだけどね。 やっぱ遊び?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ