710話 のんびりと
マーチュ村へ向かって、森の中を歩き出して5日目。
なぜかソラ達が川で水遊びを始めてしまった。
既に季節は秋。
少し涼しくなってきている。
と言うか、水はかなり冷たくなっている。
「皆、大丈夫? 寒くない? 風邪を引かないでね?」
「アイビー。スライムが風邪を引くなんて聞いた事が無いから、大丈夫だと思うぞ」
そうなの?
でも、冷たい水に長時間浸かれば、冷えるでしょう?
そもそもシエルはスライムではないし。
「アダンダラも風邪を引かないの?」
「どうだろう? アダンダラの事ではないけど、テイムした魔物が風邪を引いたという話は聞いた事が無いから、魔物は風邪を引かないんじゃないか?」
「そうかな? それだったらいいんだけど」
「まぁ、実際のところは分からないけどな」
ん~、やっぱり心配だ。
「にゃうん」
ん?
鳴き声に視線を向けると、ソラ達を背中に乗せたシエルが川から上がって来た。
「皆、寒くなかった?」
「ぷぅ?」
私の質問に首を傾げるソラ達。
首を傾げるのは、質問が分からない時か答えづらい時だよね。
「えっと、体は冷えてない?」
「……」
皆、反応なし。
つまりあれだけ冷たい水に浸かっていたのに、冷えてないのか。
魔物の体って、凄いなぁ。
「いっぱい遊んで疲れただろう。休憩場所を作ったからこっちにおいで。体も拭こうか」
お父さんの言葉に、シエルから下りたソラ達は用意しておいた布の上に乗った。
お父さんが、順番に濡れたソラ達を拭いていく。
「つるんとしているから、そんなに濡れないよな」
「水滴は落ちるからね。汚れは残ったりするけど」
「ははっ」
ソラとフレムは綺麗に拭かれると、まだ遊び足りないのかお父さんの周りで飛び跳ねだした。
ソルは、疲れたのか拭かれた時には既にウトウトとしていた。
「寝たな」
お父さんの言葉に、ソルを見る。
「本当だ」
ソルは既に夢の中みたい。
頭をそっと撫でても、起きる気配はない。
そうとう疲れたんだね。
「お休み、ソル」
「にゃん!」
シエルのちょっと興奮した鳴き声に、慌ててシエルを探す。
シエルは、川の中を覗き込んだ状態で、尻尾を激しく揺らしていた。
「シエル、どうしたの?」
「何かあるのか?」
お父さんと私が立ち上がった次の瞬間。
パシャン。
えっ!
「シエル!」
シエルが、勢いよく川の中に飛び込んでしまう。
急いでシエルの下へ走ると、ちょうど川から出て来るところだった。
「あっ、魚?」
「そう、みたいだな。と言うか、大きいな」
川から出て来たシエルは、口に魚を銜えていた。
パシャパシャ、パシャパシャ。
「大きすぎない?」
川から引きずり出されている魚は、ほぼシエルと同じ大きさをしている。
よくこんな魚を捕まえられたね。
川から完全に魚を引きずり出すと、魚の隣にちょこんと座って私とお父さんを見るシエル。
「なんだか、自慢されているみたいだな」
「ははっ、本当だね」
シエルの様子からまるで「どう? 凄いでしょ?」と言われているような気がする。
「にゃ」
少し澄ましたような表情のシエルに、つい笑ってしまう。
本当に、行動が可愛い。
「シエル。こんなに大きな魚を捕まえてきて、凄いね」
魚に近付くと、大人しかった魚がバタバタと少し暴れ出したのでちょっと驚く。
すぐにシエルが、前脚で魚の頭を押さえつけてくれた。
「ありがとう、シエル」
大人しくなった魚を見る。
「お父さん、この魚は食べられるの?」
「にゃうん!」
えっと、お父さんに聞いたんだけど。
なぜかシエルが、嬉しそうに尻尾を揺らす。
「もしかしてシエル、この魚を食べたいの?」
あっ、尻尾の揺れが激しくなった。
「分かった。頑張ってその魚をさばくね」
大きいからちょっと大変だろうけど、シエルが食べたいみたいだし。
頑張ろう。
「手伝うよ」
「ありがとう」
お父さんの言葉にホッとする。
さすがにここまで大きな魚をさばいた事が無い。
だから少し不安を感じていた。
「ちなみに、この魚は食べられると思うぞ」
それは、やる気が出るね。
えっと、まずは包丁で。
ん?
どうしてお父さんは剣を出しているんだろう?
「お父さん、剣で何をするの?」
「普通の包丁では小さいだろう? だからこれで簡単に分けてしまおうかと」
まぁ、確かにいつも使っている包丁では小さすぎる。
でも、剣で魚をさばいて……いいのか?
「えっと、いいの?」
「あとでちゃんと手入をするから問題ないよ」
それでいいのなら、助かるけど。
「内臓はどうする?」
えっと、どうしようかな。
魚自体が大きいから、内臓もきっと大きいよね。
取ったままにしておくと、臭いで魔物を引き寄せてしまうかもしれない。
そうならないためにも、すぐに処理をした方が良いかな?
「燃やすか」
お父さんの言葉に頷く。
一番いい方法だと思う。
「そうと決まれば、まずは内臓を取りだすね」
「俺が切るよ。アイビーはシエルと一緒に、魚を押さえてもらっていいか?」
「分かった」
シエルと私で魚を押さえ、お父さんには私の指示のもと魚を切っていってもらう。
さすが剣に慣れているだけあって、切り口が綺麗だな。
それに、切るのに迷いが無いから、さばくのが速い。
「これだな」
お父さんが、巨大な魚から内臓を取り出し、少しはなれた場所に置く。
「燃やしていいんだな?」
「うん。あっ、ちょっと待って。シエル、魚の内臓はいる?」
「……」
反応なし。
「燃やしちゃっていいよ」
シエルも食べないみたいだし、いらないよね。
「了解」
お父さんが、剣に嵌っている魔石の力を借りて内臓を一瞬で灰にする。
「相変わらず、凄い力だよね」
まだ微かに光っている魔石を見る。
本当に綺麗な魔石だな。
「あとは、適当に切っていくな」
「うん」
適当な大きさに切られた魚を、次々と串を刺して焼いていく。
味付けは、魚の味を際立たせてくれる塩。
こめはマジックバッグに炊いた物があるからいいとして、スープが欲しいな。
お鍋を出して、水と葉野菜と魚を入れて煮込む。
野菜と魚に火が通ったら、ポン酢で味を調えて完成。
「魚、良い感じに焼けてきたぞ」
「うん、凄くいい匂い」
お腹が空く。
「ところでお父さん、これは……お昼は既に終わっているし夕飯には早いし。おやつ?」
おやつにしては、こめまで出しちゃった。
だって魚と言えばこめだよね。
「ん~、早目の夕飯と言う事でいいだろう」
「夜、絶対にお腹空くよね」
やっぱりこめを炊いて、夜食におにぎりでも作ろう。
中身は、もちろん魚で。
「ぷ~」
ん?
ソラもフレムも寝ちゃっているのか。
シエルは……ふふっ。
焼いている魚の番をしてくれているみたい。
「なんだか久々にゆっくりした時間かも」
色々と有って、バタバタしていたからな。
久しぶりに、のんびりしている気がする。
そういえば、何か忘れているような……なんだっけ?
えっと……確か誰か……。
「あっ!」
「どうした、アイビー」
すっかり忘れてた。
確認もしてない。
「アイビー?」
「皆にふぁっくすを送ってない、しかも届いたか確かめても無いよね」
あっ、お父さんが困った表情になった。
「すっかり忘れてたな」
「マーチュ村で、確かめられるかな?」
「どうかな? あまりに小さい村だと、ふぁっくすに対応できないかもしれない」
今、慌てても仕方ない。
だけど、マーチュ村に着いたらふぁっくすが送れるのか確認しよう。
「にゃうん」
「丁度いい焼け具合になったみたいだな」
シエルが、ちょっとソワソワしながら私とお父さんを見る。
そんなにこの魚が食べたいんだね。
「ふぁっくすの事は、マーチュ村に着いてからだな」
「うん」
今は、シエルと魚を楽しもう。




