708話 準備開始
「本当に行っちゃうんだね」
リーリアさんをみると、悲し気な表情で私を見ている。
「はい、行きます」
お父さんの為にも、1日も早い方が良いだろうからね。
それに、村に着いたら冬の準備もあるだろうし。
冬か。
私はこの冬に、決めないといけない事がある。
それは占い師との約束、光の森に行くか、行かないか。
お父さんには、行きたいとは言った。
でも、迷っている。
占い師との約束は、私を光の森へ行かせるため。
でも、占い師とのやり取りを思い出してみたけど……彼女は、本当に行かせたいのかな?
何度考えても、行って欲しいのか、行って欲しくないのかよく分からないんだよね。
「王都の隣の町に行って欲しい」とは言われた、でも「行かなくてもいい」とも言われた。
思い出して気付いたんだけど「行かなくていい」の方が多く言われているし、隣の町と言ったけど光の森とは言っていないんだよね。
あと、占い師が教会と繋がっていた事も忘れちゃ駄目だよね。
私を光の森に行かせたいのは、教会の者なのかな?
やっぱり、分からないな。
「アイビー?」
「はい」
あっ、物思いにふけってしまった。
「実は……アイビーと初めて会った時、私……夢でアイビーを見たの」
えっ?
それってもしかして未来を?
「あの……」
言いにくい事を見たんだ。
「教えて下さい。何を見たんですか?」
「泣いていたの。白い建物の中で、1人で泣いていた」
白い建物の中で泣いていた?
それは、悲しくて? 悔しくて?
「どんな表情をしていましたか?」
「悲しみだったわ。それと一瞬だったけど、赤い色が見えたの。ただ、あれが何かは分からなかったわ」
赤と悲しみで思いつくのは、血。
誰かを失うの?
駄目、駄目。
悪い方に考えちゃいけない。
今知る事が出来たんだから、これからは白い建物を注意すればいいという事じゃないか。
「それは未来の1つだと思います。私は今、『白い建物で何かが起こる事』を知る事が出来ました。という事は白い建物を回避出来るかもしれないし、私を悲しみに追い込む者と戦う準備だって出来るはずです」
「えっ?」
「きっと別の未来だってあるはずです」
そう、きっとある。
「良かった」
良かった?
「私が見た未来を聞いて、苦しむんじゃないかって」
私が心配だったから、言いづらそうだったのか。
「昔は、見えた未来は変わらないものだと思って来た。でも今は、違う。だって、私が昔に見たアリラスの未来は変わったもの」
アリラスさんの未来が。
「昔、10回ぐらいかな、見続けた夢があるの。それは、ガルスが私をかばって死ぬ未来だった」
ガルスさん?
前の名前だよね。
今は、アリラスさんだから……未来が変わったんだ。
「私が見た未来の事で、アリラスやタンラスには言ってない事が色々あるの。言えなかったのは、酷い未来ばかりだったから。でも、最近は少し違ってきたの。まるで……今、未来が変わり続けているような感じと言えばいいのかな?」
未来が変わり続けている?
それは、誰かが未来を変える行動をとっているから?
と言うか、
「今もやっぱり未来を見てしまうんですか?」
あれほど嫌がっていたのに。
「うん。だって、前ほどこの力が嫌いじゃないから」
「えっ?」
「前は大っ嫌いだった。私の大切な者を次々奪う原因になったスキルだから。でも、今はちょっとだけこのスキルを認めたいと思っているの。ふふっ、私はスキルなんかに負けないわ」
あぁ、本当の意味でリーリアさんは強くなったんだ。
凄い人だな。
「それにね、昔は見た未来は変えられないのだと思っていた。でも、今は違う。アイビーが言うように、私が見る未来は色々ある中の1つに過ぎないって。誰かの行動1つで変わるものだって分かったから」
「はい。私も、そう思います」
誰かが死ぬかもしれない未来なんて、私は絶対に認めない。
私の行動で変えられるなら、変えてみせる。
「ありがとう」
「えっ?」
リーリアさんを見ると、とても綺麗に笑う彼女がいた。
それにちょっと見惚れる。
「アイビーのお陰で、色々変わったような気がするの。アイビーと出会えて良かった」
リーリアさんの言葉に、顔が熱くなるのが分かる。
これは恥ずかしい。
でも、私もちゃんと気持ちを伝えたい。
「私もリーリアさんに出会えて良かったです。ありがとうございました」
「……やっぱり行くの、止めない?」
えっ、話が元に戻ってしまった。
「ごめんなさい」
「そうよね。しつこくてごめんね」
「いえ」
「よしっ、手伝うわ。何をしていたの?」
リーリアさんが、部屋に散らばっているマジックアイテムを見る。
そうだった、旅に出る前にウルさんが持って来てくれたマジックアイテムやポーションを使いやすいように仕分けしていたんだった。
ただ、量が多いから困っていたんだよね。
「大変ですが、大丈夫ですか?」
「……この量がまだあとマジックバッグ2個分、あるんだっけ?」
「いえ、後4個分です」
終ったのはまだマジックバッグ1個分。
本当に凄い量のマジックアイテムとポーションが入っていた。
「分かった、任せて。アリラスとタンラスも呼んでくるから」
あっ、2人も巻き添えになるみたい。
申し訳ないけど、凄く助かる。
リーリアさんが部屋から出ていくのを見送ると、部屋中に広がったマジックアイテムを残っている魔力量で分けていく。
マジックアイテムの大きさと残っている魔力量は比例しないから、ちゃんと残量を調べておかないと。
「でも、この村の冒険者は贅沢な者が多いな」
手に持っているマジックアイテムは、まだまだ残量が残っている。
それよりこれって……、
「鞭かな?」
形は間違いなく鞭。
鞭のマジックアイテムなんて、何に使うんだろう?
「お待たせ。うわっ、珍しい武器を持っているわね」
「「お邪魔します」」
珍しい武器?
鞭型の武器だったんだ。
「来ていただいてありがとうございます」
アリラスさんとタンラスさんに、頭を下げる。
2人は部屋の状態を見て、ちょっと表情を引きつらせた。
まさか、こんな状態だとは思わなかったんだろうな。
部屋中を見回す。
確かに、ちょっと酷いかも。
「ソラ達は?」
タンラスさんの質問に、窓辺を指す。
「可愛いな」
「はい。食べて遊んで、満足して寝ました」
アリラスさんが私の言葉に苦笑する。
「相変わらず、自由だな」
うん、私もそう思う。
「さて、やるか! それより、その武器どうするんだ? 鞭は扱いが難しいぞ」
タンラスさんが私の手に持っている鞭に視線を向ける。
扱いが難しいから、魔力がかなり残っている状態で捨てられたのかな?
「そんなに難しいの? そういえば、今までに1人しかその武器を持っている冒険者を見た事が無いわね」
本当に珍しいのか。
……ちょっと気になるな。
お父さんに扱い方を教えてもらえるかな?
さすがにお父さんでも無理かな?
ん~……気になる。
「くくっ。気になるなら、ドルイドさんに教えてもらったらいいじゃないか。それで扱えたら武器として持つ。無理なら諦める。武器は、『合う』『合わない』があるから、使ってみないと分からないぞ」
そうだよね。
気になるなら、試すぐらいしてもいいよね。
「そうします」
手に持っていた鞭を、他のマジックアイテムとは別の場所に置く。
「ぷ~」
ん?
鳴き声に視線を向けると、ソラがじっと鞭を見ていた。
「どうしたの?」
「ぷ~、ぷぅ」
寝ぼけたのかな?
まぁ、それより部屋中に広がったマジックアイテムをとっとと整理しよう。
そうじゃないと、寝る場所が無い!




