702話 冬はどこで?
ソラの治療の2日目。
凄くやる気を見せるソラに、木の魔物がちょっと引いている。
「ぷっぷ~!」
「ぎゃぅ」
ソラの力強い鳴き声に、不安そうな木の魔物の鳴き声。
あまりの違いに、小さく笑ってしまう。
ソラのやる気が空回りしないといいな。
ソラの治療が始まると、木の魔物がホッとした様子を見せた。
治療中のソラは、静かだからね。
傍の岩に腰掛けているお父さんを見る。
「大丈夫? 無理をするから」
お父さんが大丈夫と言うので、今日は大通りを歩いて村を出た。
途中で何度も、「脇道を歩こう」と提案したけど「大丈夫」と押し通された。
その結果、顔色が悪く息が荒い。
「無茶をするんだから」
「ははっ。でも、早く慣れないと旅に出られないだろう?」
確かに、気配で体調が悪くなっている状態では旅は不可能だ。
秋が深まるこの頃は、冬の事を決める時期でもある。
冬をどこで過ごすのか等。
今のお父さんの状態では、この村で冬を過ごす事になりそうだけど。
「この村で冬を過ごすのは、俺にとってつらいと思うんだ」
冬は森に出ていく冒険者が減り、宿に留まる冒険者が増える。
宿「あすろ」も、冬になると問題の無い冒険者も泊めると聞いた。
人の気配で体調を崩すお父さんには、冒険者が多いこの村はつらいよね。
「王都に向かう道からは逸れてしまうんだけど、小さな村があるんだ。そこで冬を越せないか、相談しようと思っていたんだよ」
この村周辺の地図を見た時、森の奥にあった村の事かな。
「この村の半分ぐらいの大きさの村だったよね」
ただし、地図に載っている大きさが合っていたらだけど。
ときどき、驚くほど違う事があるからな。
「そこまで小さくは無いと思うんだが」
地図の大きさは当てにならないのか。
「昨日の夜に相談しようと思ったんだけど、寝てしまったから」
昨日のお父さんは、宿に戻ってすぐに寝てしまったもんね。
「お父さんがつらくない場所で冬を越すのは賛成。でも、旅は大丈夫?」
今の状態で旅は出来るの?
森の中にも、色々な気配がある。
人が溢れかえった場所よりは、楽そうだけど。
「強制的に慣れさせる。あと、店主のチャギュにお願いして医者を紹介してもらう事にした」
お医者さん?
「急に気配を感じられるようになった原因を知っておこうと思って」
お父さんの言葉に、ソラとフレムを見る。
この2匹のポーションが原因だと思うけど、違うのかな?
「ソラとフレムのポーションが原因だと俺も思う」
私がソラとフレムを見ると、お父さんが頷く。
やっぱりそうだよね。
「ただ2匹のポーションが、どう作用したのか分からないんだ」
ソラとフレムのポーションが、お父さんのどこを治したのか分からないという事か。
それは、これからの為にも知っておかないと駄目かな。
「分かった。お医者さんには、いつ頃見てもらうの?」
すぐに見てもらえるのかな?
「今日か明日のはずだ」
「えっ、今日か明日?」
今日だったら、どうしようかな。
洞窟でのんびりしているわけには行かないよね。
「焦る必要はないから、今日だったら仕事の終わりに『あすろ』に回ってくれるらしい。だからちょっと遅い時間になるそうだ」
そうなんだ。
それなら、昨日と同じぐらいで大丈夫かな。
あっでも、お父さんは大丈夫なのかな?
「帰ってから寝ないようにしないとな」
そう、そう。
昨日は本当にあっという間に寝ちゃったもんね。
夕飯に起こしたけど、全く起きなかった。
それほど疲れたからなんだろうけど。
「頑張って起きているよ。寝ていたら起こして欲しい」
お父さんの言葉に、曖昧に頷く。
起こせるかな?
昨日も頑張ったんだけど。
「どうした?」
「昨日の夜、私が起こした事を覚えている?」
一瞬だけ起きてくれたんだけど、すぐにまた寝てしまった。
「えっ? 昨日? ……寝ないように頑張るよ」
「うん」
そうして欲しい。
私も、お父さんが寝ないように頑張ろう。
何を頑張ったらいいのか、全く分からないけど。
一緒に料理でも作る?
緊張感があった方が寝ないよね。
料理に緊張感?
……無理そう。
あっ、体を動かしたらいいんだ。
でも、気配で弱っているのに運動をさせるの?
お父さんを見る。
寝ないかもしれないけど、倒れるかもしれない。
駄目だね。
「難しいな」
「ん? どうしたの?」
えっ?
リーリアさんの声に視線を向ける。
シエルと川で遊んでいたリーリアさんが、全身ずぶ濡れで私を見ていた。
と言うか、何をしたらあの小さな川でずぶ濡れになれるの?
アリラスさんとタンラスさんを見ると、彼らも全身濡れていた。
「何かあったのか?」
お父さんも不思議そうに、3人を見ている。
シエルを確認すると、全く濡れていない。
リーリアさん達に何が起こったの?
「それが、急に川が変化して深くなったんだ」
川が急に深く?
アリラスさん達と一緒に、川を見に行く。
「あそこです」
タンラスさんが指した方を見ると、確かに川底が深くなっている。
しかも、川幅も昨日より広い。
「昨日とは随分と違うな」
お父さんの言葉に、アリラスさんが首を横に振る。
「昨日ではなく、ついさっきです。最初は、昨日と同じで浅くて狭い川だったんです。それが、急に底が消えて。慌てて川から上がると、川幅も広くなっていたんです」
今の話だと一瞬で、変化したみたいだけど。
そんな事……あっ、ここは洞窟だ。
洞窟の場合は、急に変化してもおかしくないかも。
「洞窟だから、ありえない事でもないが。川に何かが起こっているのかもしれないな」
お父さんが川を覗き込む。
隣で同じように覗き込むと、川底で動いている物を見つけた。
「お父さん、あれ何?」
「あれは、洞窟の川に住む魔物の……大きさからみて子供みたいだな」
「「「えっ!」」」
お父さんの言葉に、アリラスさん達が驚いた声を出して慌てて川を覗き込む。
「さっきまでいなかったよね?」
リーリアさんの言葉に、アリラスさんとタンラスさんが頷く。
これも洞窟だからと言う事なんだろうか?
「洞窟って不思議な場所だよね」
「そうだな。ずっと研究されているが、解明されている事は少ないからな」
洞窟の解明か。
いつか全てが解明される事はあるのかな?
難しそう。
「あの魔物を本では見た事が無いのだけど、どんな魔物なの?」
リーリアさんの言葉に、本で読んだ水中で生きる魔物を思い出す。
確かに、似た輪郭の魔物はいないな。
「本には載っていると思うぞ。水中の魔物では一番有名な魔物だからな」
お父さんの言葉に首を傾げる。
水中の魔物で有名なのは長い尻尾があって、脚は太くて体格もずんぐりむっくり。
水中を泳ぐ魔物の子供を見る。
確かに脚はあるけど細いし、尾は無い。
あの有名な魔物では、ないよね?
「ぷっぷぷ~! ぷっぷぷ~!」
「わっ、驚いた」
不意に響いたソラの鳴き声に、体がビクリと震える。
それにしても、この興奮具合。
「治療は成功したみたいだな」
お父さんの言葉に、全員が頷く。
ソラは嬉しいのだろう、かなり興奮して飛び跳ねている。
あと少しで、洞窟の天井にぶつかりそうだな。
勢いあまって天井にぶつかったりしないよね?
「天井が壊れるなんて事は無いよね?」
「それは無いだろう。でも、洞窟は見えている以上に尖っている場所があったりするからな」
そうなの?
お父さんを見ると、ソラの上にある天井を見上げている。
「木にぶつかっても、怪我をしたことは無いから大丈夫だと思うよ」
「あれは、ぶつかってもいい場所をちゃんと見極めているから」
えっ、そうなの?
気付かなかった。
「今は興奮状態だからちょっと心配だな」
お父さんが、元気に飛び跳ねているソラに近付き片腕でギュッと抱きとめる。
「ぷっ?」
「ごめんな。気持ちよく飛び跳ねているのを止めて」
「ぷっぷぷ~!」
木の魔物に近付いて、幹を見る。
黒く変色していた部分が完全に元に戻っている。
さすが、ソラ。
「おめでとう、ソラ。治療は完璧だね」
「ぷっぷぷ~!」
本当に嬉しそう。
木の魔物も満足そうだね。
良かった。




