695話 どうやって?
木の魔物に質問を続けて分かった事は、もう1つ魔法陣があった事。
その魔法陣は既に無効化してある事。
そして、今のところ他には無いという事だった。
その事を知ったガバリ団長さんが、かなり険しい表情をしていた。
まさかもう1つ魔法陣があったとは、思わないよね。
木の魔物が魔法陣の存在に気付いたのは、大地に流れる魔力に違和感が出たからだそうだ。
魔法陣を無効化した理由を聞くと、なぜか木の魔物から困惑した気持ちが伝わって来た。
そのあと色々質問を変えてみたけど、答えは分からなかった。
「この村周辺ではよく木の魔物が見つかっている。魔法陣の影響なのか?」
ガバリ団長さんの質問に「ぎゃっ」と答える木の魔物。
その返事を聞くと、ガバリ団長さんの顔色が悪くなった。
聞けば、かなりの頻度で木の魔物の目撃情報があるらしい。
「どれくらいの頻度で木の魔物が目撃されているんだ?」
お父さんの質問に、ガバリ団長が肩を落とす。
「以前は2年に1度くらいだったんだけど、ここ5年は年々目撃される回数が増えているんだ。去年は1年間で5回も目撃された」
そうだったんだ。
というか、それだけ洞窟の何処かに魔法陣が刻まれているという事だよね。
いや、全てが魔法陣のせいとはいえないのでは?
「魔法陣以外の理由で、木の魔物がこの村に来る事もあるよね?」
さすがに年に5回は多過ぎる。
元々2年に1回程度なんだから。
それなら、他の事が原因で木の魔物がこの村に来ている可能性があるのでは?
「……」
えっ!
返事が無い。
つまり全部、魔法陣が関係しているという事?
これは、ちょっと予想外だったな。
ガバリ団長さんをちらりと見る。
「アイビーが申し訳なく思う必要はない。それは、知っておかなければならない事だから。それにしても、去年は5回も魔法陣の脅威にさらされそうになっていたのか。いや、今回のように2カ所に魔法陣があったかもしれないから5回以上か。さすがに何か対策が必要だが」
対策か。
魔法陣を完成させない事が重要だよね。
「そう言えば、この洞窟は出入りが管理されていたよな? あの魔法陣を刻んだ者が、誰なのか分かるんじゃないか?」
お父さんの言葉に、この洞窟の決まりを思い出した。
初心者用で、洞窟内で夜を過ごすための訓練用。
確かに、出入りする者は全て管理されていた。
ガバリ団長さんを見ると、首を横に振られた。
「えっ? 分からないのか?」
「あぁ、昨日のうちに出入りした者を全て調べたが、怪しい動きをした者はいなかった」
そんな。
だったら、どうやってあの空間に魔法陣を描いたんだろう?
「他に出入り出来る場所があったりしないのか?」
お父さんの質問に、私達が入って来た方とは逆の方を見るガバリ団長さん。
「非常時に使う出入り口があるが、そちらにも自警団員がいるんだ。だから密かに潜り込むのは不可能だ。魔法陣が描かれたと予想できる時間に警備をしていた者に探りを入れたが、問題は無かった」
内緒で入るのは、不可能そうだな。
入る時間をしっかり管理していたから、出てこなかったらすぐにばれるだろうし。
ほんとうに、どうやってあの空間に魔法陣を描いたんだろう?
魔法陣の大きさや描かれていた文字と絵柄から考えて……1日で完成させるのは無理じゃない?
「お父さん、あの魔法陣はどれくらい時間が掛かると思う?」
「そうだな。魔法陣は洞窟の壁一面を使って大きく描かれていたよな。そして、その魔法陣に使われていた文字や絵はかなり多かった。数日は必要かもしれないな」
そうだよね。
もっと小さい魔法陣だって、凄く時間を掛けて描いていた。
1ヶ所でも間違ったら、魔法陣が発動しないからと。
「2日以上は掛かると思う。ただし、人手があれば半日でも可能だろうけどな」
お父さんの言葉に、アリラスさん達も頷く。
そうか、1人で描いたとは限らないのか。
2人?
いや、最低4人ぐらい必要かな。
4人いれば、半日で完成させられるかも。
「半日は無理だ。もっと短い時間で、魔法陣は完成していると思う」
ガバリ団長さんの言葉に、視線を向ける。
「ドルイド達がこの洞窟に入った1時間前に、洞窟に異変は無いか細かく調べられているんだよ」
「調べている?」
ガバリ団長さんの言葉に、お父さんが首を傾げる。
「そうだ。初心者用の洞窟は、冒険者が来る前に見回りで異変が無いかを細かく調べているんだ。夜も洞窟内で過ごすから、かなり入念に調べる。ドルイド達が来る1時間前には、魔法陣があった空間は見つかっていない。洞窟を調べるのに役立つスキルを持っている者がいるから、見逃すとは思えない」
調べたあとからだとすると……約5時間かな。
5時間で、あの魔法陣を完成させるとなると、最低でも6人?
いや、もっと人手が必要かな?
多くの人を誰にも見つからないように、洞窟内に入れるなんて……絶対に無理だね。
「あ~、さっぱり分からない!」
リーリアさんが、叫んでため息を吐く
叫びたくなる気持ちはわかる。
かなり頭の中が混乱しているもんね。
たった5時間。
しかも、人がどうやって出入りしたのか不明。
どうやったら、壁に魔法陣を描けるだろうか?
遠隔操作とか?
「……そうだよ、遠隔操作だ」
これだったら、この洞窟内にいなくても魔法陣が描ける。
どうしてもっと早く思いつかなかったんだろう。
「遠隔操作という魔法はあるけど、制限があるから無理だぞ」
えっ?
お父さんを見ると首を横に振っている。
「あれは、自分の目で実際に見える範囲でのみ使える魔法だ」
そうなの?
まさかそんな制限があるとは思わなかった。
他の方法は……。
「そう言えば、私達が来る1時間前には、魔法陣があった空間も見つかっていなかったんですよね?」
ガバリ団長さんを見ると、頷いた。
つまり、あの空間も5時間の間に出現したという事だよね。
でも、洞窟内では急に空間が出来る事があるし、別に気にする事は無いか。
でも魔法陣か描かれたあの空間を、この洞窟の傍に移動させる事が出来たとしたらどうかな?
ふふっ、さすがにありえないか。
空間を移動させるなんて。
「どうした?」
不思議そうなお父さんに、首を横に振る。
「ちょっとありえない想像をしちゃって」
「んっ?」
「完成した魔法陣が描かれた空間を、この洞窟の傍に移動させる方法なんだけど」
「ん~、さすがにそれは無いだろう」
そうだよね。
無理があるよね。
お父さんと一緒に笑ってしまう。
「まさか」
んっ?
ガバリ団長さんの小さな声に視線を向けると、呆然とした表情のガバリ団長がいた。
どうしたんだろう?
「ガバリ団長、どうしたんだ?」
「えっ? いや、なんでもない。そろそろここから出ようか」
ガバリ団長さんのちょっと焦っているように見える態度に、お父さんが首を傾げる。
「あの、明日もここにきていいですか?」
「えっ? 明日もここに?」
私の言葉に、ガバリ団長さんが驚いた表情をする。
「木の魔物の黒く変色した部分がまだあるんです」
私の言葉に、全員の視線が木の魔物の幹に向く。
「そう言えば、まだ残っていたな。明日は……アバル、頼めるか?」
「はい、大丈夫です」
ガバリ団長さんは用事があるのか。
忙しそうだもんね。
今回の報告とかあるだろうし。
「アバルさん、明日も宜しくお願いします」
「ぷっぷ~」
「ぎゃっ」
私がアバルさんに頭を下げると、ソラと木の魔物が鳴いた。
まるで一緒に、お願いしているみたいだな。