692話 あれ? 解決?
「王都の教会が、リーリアを捕まえに動き出したという情報が入った。真意を確かめていたところ、指示を受けた追っ手が動き出した事が昨日の夜に確認された」
ガバリ団長さんの言葉に、リーリアさんの顔色が変わった。
「教会の奴らは、確実にリーリアを手に入れたいようだ」
「なぜ、そう思ったんだ?」
お父さんの質問に、ガバリ団長さんはチラリとリーリアさんを見た。
なんだろう?
彼女と何か関係があるんだろうか?
「教会が抱える占い師の1人が、リーリアを捕まえるために教会から出て来た。奴が動く時は、教会が本気の時なんだ」
えっ?
占い師が関わっているの?
「王都の教会には、要注意の占い師が2人いる。この2人は、無理矢理ではなく積極的に教会に貢献している奴らだ。今回動いている占い師は、30代の男でスキルは不明だが人探しに有利なスキルだとこれまで奴が関わってきた事件から判断できる。ただこいつのスキルは、距離が重要みたいなんだ。離れている場合は、かなり大雑把な方向が分かる程度のようだ。正確な場所を把握するには、目的の人物に近付く必要がある」
そんな人物が、リーリアさんを捕まえるために教会から出て来た。
教会は、本気でリーリアさんを手に入れるつもりなんだ。
「やっぱり逃げられないんだね」
リーリアさんが諦めたように笑う。
「まだ逃げられる」
アリラスさんの力強い声に、リーリアさんがハッとした表情をする。
「ごめん、そうだよね。まだ占い師はこの村に来ていないんだから」
「いや。占い師が動き出した以上は、逃げ切るのは難しいだろう」
そんな。
ガバリ団長さんの言葉に、アリラスさんもタンラスさんも顔を強張らせる。
「ただ、逃げる事は難しいだろうが、ぶっ潰す事は出来るぞ?」
「ぶっ潰す?」
ガバリ団長さんの言葉にリーリアさんは眉間に皺を寄せ、アリラスさんとタンラスさんは首を傾げた。
「せっかく向こうから来てくれるんだ。手厚くお出迎えするのが礼儀だろう?」
手厚くお出迎え?
「えっ?」
首を傾げるリーリアさんに、ガバリ団長さんが不敵な笑みを見せる。
「相手がどう動くのか分かっていて、ただ見ているわけがないだろう? 俺たちは守るためにいるんだ。そうやすやすと、あんな屑どもにリーリア達を渡すわけがないだろうが」
「でも、相手は教会です。この村にも教会がありますよね」
大通りの結構いい場所に、教会の建物を見た。
もちろん、近付かなかったけど。
「あれか。器だけはあるな。中身は空だが。いや、今は冒険者達の子供たちが遊び場に使っていたかな」
ガバリ団長さんの言葉に、リーリアさんも私も首を傾げる。
教会としては空で、子供たちの遊び場?
つまり教会としての役目は果たしてないと。
「教会に人がいた時もあるが、全員が奴隷落ちになったからなぁ。王都の教会からは何度も色々な奴らが送られて来たけど、不思議な事に2年もしない内に全員が奴隷落ちになるんだよ。本当に不思議だよ」
それって、確実に何かしているよね?
「そうなるように、仕向けているのか」
やっぱり、そういう事だよね?
お父さんの言葉に、笑って頷くガバリ団長さん。
「まぁな。奴らは面白いぞ。この村の教会に来る奴らは、自信がある奴らばかりなんだ。前に来た者達のように、自分はやられたりはしないという自信がな。でも残念ながら、そんな奴らの方が罠に嵌りやすかったりするんだよ。毎回見事に嵌ってくれるからな。で、そういう事を繰り返していたら、教会からは誰も来なくなっちまった。自警団が処理していたから、待っているんだけどな。結構いい練習になるんだよ」
しかも練習台にされていた。
「凄いですね」
ガバリ団長さんが私を見て、にこりと笑う。
「教会の奴らだから、心置きなくやれるのが決め手だな」
はははっ。
教会の関係者に、ちょっとだけ同情しちゃった。
「話を戻すが、占い師はまだこの村にリーリアがいる事を特定できていない。そのため、この村を含めた3つの村に追っ手を送る事にしたようだ」
追っ手が来るまで、まだ時間があるという事か。
「そうだ、この村の事は教会でも知れ渡っているから、この村には来たくないと追っ手に選ばれた奴らが押し付け合ったみたいだぞ。報告では、かなり長い時間揉めたそうだ」
本気で嫌がられているんだ。
いったいどれだけの教会関係者が、奴隷落ちになったんだろう?
「あまりに揉めるから、この村にはさっき話した占い師と指揮を執っている教会の幹部が来ることになった」
それは、あまり嬉しくない情報だよね。
まさか、占い師が来るなんて。
「占い師がこの村に来たら、私に気付くよね」
リーリアさんの言葉に、ガバリ団長さんが頷く。
「この村に到着する前に気付くだろう。奴らは足の速い馬を使って移動しているから、15日後にはこの村に着くはずだ」
15日後。
「教会の内情にも詳しいみたいだけど、仲間を送り込んでいるのか?」
お父さんの言葉に、確かにと頷く。
追っ手の人達がこの村に来たがらなくて揉めたとか、教会内部にガバリ団長さんの仲間がいないと知る事は出来ないよね。
「当然。俺達の仲間が数人、教会にお邪魔しているよ。頑張ってくれて、幹部になっている者もいる」
村の団長になったり、教会の幹部になったり大変だな。
「さすがだな」
お父さんが感心したように言うと、ガバリ団長さんが肩を竦める。
「あの、私はどうしたらいいですか?」
リーリアさんの真剣な表情に、ガバリ団長さんはポンと頭に手を置いた。
「何もしなくていい。というか、この村に奴らが入ってくる事は無いと思うから」
……ん?
15日後にはこの村に着くんだよね?
なのに、入ってくる事は無い?
「ジナルから『ありがとう。これで奴らを潰せるよ』と伝言を預かった。奴らというのは占い師と指揮を執っている教会の幹部の事だ」
「まさか、ジナルが狙っている奴らだったのか?」
お父さんが少し驚いた表情をする。
もしそうなら、凄い偶然だよね。
「その通り。特に占い師の方はずっと探っている奴だ。だが、教会の奥にいて守られていたから手が出せなかった。それが今回、その強固な守りから出てくるんだ。ジナル達は、絶対にこの機会を逃さないだろうな。既に占い師を追って動いているから、占い師達がこの村に着いたら奇跡だな」
凄いな。
危険を感じてドキドキしたのに、ジナルさんが動いていると分かったら落ち着いた。
「俺達が相手にするのは、占い師達より先に来る追っ手達だ」
あっ、この村に追っ手は来るんだ。
「おそらく10人前後。そこそこに強い奴が集まっているらしいけど、特に手ごわい奴はいないそうだ」
本当に情報が筒抜けなんだ。
「この追っ手については、この村のすぐ傍の森の中で対処する事になっているから。なんでも上位冒険者になるための試験に使うらしいぞ」
あっ、彼らも利用するんだ。
練習台よりはましなのかな?
あれ?
占い師達だけでなく、追っ手達の事もこの村の人達が対処するなら……教会から来る追っ手の問題は解決なのかな?
「逞しい村だな」
お父さんの言葉に、ガバリ団長さんが嬉しそうな表情をする。
「あの、俺達を組織に勧誘したのはどうしてですか? 今回の追っ手の事は、問題になっていないみたいですし」
そう言えば、アリラスさん達は裏の組織に誘われていたね。
途中までは、教会の追っ手から守るためかと思ったけど、それは問題ないみたいだし。
それなら、どうして誘ったんだろう?
「それは、教会の事を知っていて、戦ってきたからだ」
ガバリ団長さんの言葉に、アリラスさん達が顔を見合わせる。
「戦って来たわけではないです。ただ、逃げていただけで」
アリラスさんの言葉に、ガバリ団長さんは首を横に振る。
「敵に立ち向かうだけが戦いじゃない。逃げる事で生きられるなら、それも1つの戦い方だよ」
戦い方か。




