690話 ミッケさんのお父さん?
「そんなに笑わなくてもいいじゃないですか」
目の前で大笑いするミッケさんをジト目で見る。
「ごめん、ごめん。でも、入る洞窟全てで問題が起きるとか、凄い確率だよ?」
100%です。
あっ、チャギュさんまで笑っている。
実はミッケさんには、3か所目の洞窟へ行くのを止められた。
2ヶ所の洞窟に入って両方で問題が起きたので、次もあるかもしれないと心配されたのだ。
それを「大丈夫」「何かあったらすぐに戻ってくる」と皆で説得して、納得してもらった。
そして今日の朝、ミッケさんが朝食を食べようと思って食堂に来たら、洞窟に泊ったはずの私達がいた。
少し呆然としたミッケさんは、私達に問題が無いと分かった瞬間、なぜか笑い出してしまった。
彼女曰く、安心したら面白くなったそうだ。
「それにしても、何があったの?」
ミッケさんの言葉に、お父さんを見る。
木の魔物とか魔法陣とか、言ったら駄目だよね?
「悪いな、話していい事なのか分からないから」
「ん? あぁ、そうか」
お父さんの返答に少し不思議そうな表情をしたけど、納得してくれたみたい。
良かった。
「ドルイドさん達にお客様が来ているけど、大丈夫かしら?」
朝食も終わりゆっくりお茶を楽しんでいると、チャギュさんが声を掛けてきた。
「大丈夫ですよ? 誰ですか?」
「俺だよ」
食堂に入って来たのはアバルさん。
そして、その後ろからガバリ団長さんが入って来た。
「よっ。昨日は大変だったのに、今日は朝から悪いな。この時間しか空いてなくて」
「いえ、大丈夫です。アバルが紹介したい人とは、ガバリ団長でしたか」
ガバリ団長さんがお父さんを見ると、なぜかちょっと残念な表情を見せた。
「もう少し驚くと思ったんだが。もしかして、予測していたのか?」
えっ、そうなの?
お父さんを見ると、小さく笑って頷く。
「団長かギルマスだろうなと、思っていたので」
そうなんだ。
でも、何処でそう思ったんだろう?
「分かりやすかったか?」
「問題が起きている洞窟に2人で来たのが決め手ですね。幾ら彼らが強いと言ってもありえませんよ。そして、そんな無茶な指示を通す事が出来る存在は2人なんで」
そうか。
問題が起きている洞窟に、2人は少なすぎるんだ。
洞窟内で、魔物が大暴れしている可能性だってあるんだし。
アバルさんが来てくれた事に安心していたら駄目だったんだね。
「あと、アバルたちの様子が変でした」
えっ変だった?
思い出そうとするが、特に引っかかるものは無い。
「木の魔物を見るまでは、急いでいたけど緊張感はそれほどなかった。でも、木の魔物を見た瞬間、2人の緊張感が一気に上がったんですよ。それに、一瞬だったが2人は狼狽えた様子を見せた。まるで予想外の事が起きたみたいに」
そうだったかな?
あの時は木の魔物に意識が向いていて、近付く気配に気付けなかったんだよね。
近づく気配がアバルさんの物だと分かるまで、木の魔物をどうしようかと焦っていたんだよね。
それで、来ているのがアバルさんだと分かって、安心したのを覚えている。
えっと、合流した時のアバルさんとランキさんは……木の魔物を見て焦っていたのは覚えているけど、他の表情は思い出せないな。
「2人の態度から、もしかしたら洞窟内で起こっている事や危険が無い事を知っていたのではないかと考えたんです。ただ木の魔物を見た時の焦りようは本物だったから、少し疑問は残ったんですけど」
お父さんの言葉に、ガバリ団長さんが苦笑する。
「凄いな、概ね正解だ。実は森の奥で、木の魔物を確認していたから、洞窟内で魔力量が急上昇しても危険は無いと知っていたんだ。それに洞窟内にいる人物が誰か分かっていたから、アバルと補佐のランキを先に行くよう指示を出した。言っておくが、通常は冒険者を数チーム派遣するからな。もしもの事があるから」
えっと、木の魔物を確認していたから、魔力量が急上昇しても危険が無い?
……どういう事?
「あっ、危険が無いと知っているのは、今までも同じような事が度々あったからだ。つまり経験で知っていたという事だ」
なるほど。
あれ?
じゃあどうして木の魔物を見てあんなに焦ったの?
「アバルが木の魔物を見て焦ったように見えたけど、あれは演技だったのか?」
お父さんが少し唖然とアバルさんを見ると、彼は首を横に振った。
「違います! 木の魔物がいるとは思わなかったんです。今までいた事が無かったので。だから本気で驚いたし怖かったです」
今までに無かった?
昨日の木の魔物は、逃げ遅れたという事?
……もしかして、私達が邪魔しちゃったのかな?
あっ、そう言えば、ガバリ団長さんは洞窟内にいる人物が分かっていたからアバルさんを先に寄こしてくれたんだよね。
つまり、私やソラ達の事を知っているのかな?
「ガバリ団長は、ジナルと同じ組織に属しているんですか?」
えっ、ジナルさんと?
「ジナルと一緒の組織には属していない。彼が属している組織は、一番危険な所だ。俺の属している組織は、補助組織みたいな感じだ。ジナル達が守った者達を保護する場所を作ったり、隠す場所を作ったり。他にも、ギルマスや団長の地位に就く事もある。俺みたいにな。まぁ、色々するのが俺の属している組織だよ」
色々と言うか、凄い事をやってのける組織みたい。
団長だって、なりたいと言ってなれるわけじゃない。
相当な努力をしたんだろうな。
「ガバリ団長が属しているのは、救援を中心にしているという事ですね」
ジナルさんが戦う人で、ガバリ団長さんが守る人。
そんな印象でいいのかな?
どちらも大変そう。
「あっ」
お父さんの視線がスッと傍に座っているミッケさんに向く。
そうだった。
店主のチャギュさんは、この宿の役割から話を聞いても大丈夫だろうけど、ミッケさんは宿泊客だった。
今の話を聞いて大丈夫だったんだろうか?
「ん?」
お父さんと私の視線を受けて、ミッケさんが不思議そうな表情を見せる。
「あっ! 私は大丈夫。私は団長の次女だから。それに、お父さんの属している組織に、私も属しているから話を聞いても一切問題にはならないの」
「えっ! ガバリ団長さんの娘なんですか?」
ミッケさんとガバリ団長さんを交互に見る。
確かに目元がそっくりだ。
「この近くでガバリ団長さんと会ったのは、ミッケさんと会っていたからなんですね」
忙しいはずの団長さんに数回も会うから、ちょっと不思議だったんだよね。
私の言葉に、ガバリ団長さんが笑う。
「そう。嘘の情報に踊らされた屑が、とうとう人を雇ったからどうやって捻りつぶそうかってミッケと相談していたんだよ」
なんだか、恐ろしい言葉を聞いたような気がする。
ミッケさんを見ると、なぜかにこやかな笑顔。
「笑顔が黒い」
リーリアさんの言葉に、無意識に頷いてしまう。
聞こえていたのかミッケさんの笑みが深くなったので、そっと視線を逸らした。
「そうだ。洞窟の話に戻りますが、木の魔物の事は聞いてくれましたか?」
お父さんの言葉に、治療の事を思い出す。
ガバリ団長さんを見ると、私を見て小さく頷いてくれた。
良かった。
これで治療を続けることが出来る。
私の作品を読んで頂き、ありがとうございます。
次回5月8日の更新はお休みいたします。
申し訳ありません。
これからも、どうぞよろしくお願いいたします。
ほのぼのる500