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686話 木の魔物と魔法陣

淡く光る魔法陣を見ていると、なぜか不安な気持ちに襲われた。

何だろう。

この魔法陣は、危険な気がする。


「不味いな。精神に影響を及ぼす魔法陣のようだ」


お父さんの言葉に、慌てて魔法陣から視線を逸らす。

精神という事は、さっきの不安に襲われたのも魔法陣のせいなのかも。


「アリラス、あまり見るな。見ていると、影響を受けるかもしれない」


「…………」


「アリラス?」


お父さんの言葉に反応を返さないアリラスさんを見る。

彼はじっと魔法陣を見つめていた。


「アリラス!」


お父さんの大きな声と、バチンと頬を打つ音が洞窟に響く。


「えっ? あれ?」


ハッとした表情で頬に手を当てるアリラスさん。

何が起こったのか、わかっていない表情をしている。


「タンラスさんとリーリアさんは?」


「大丈夫よ。何となく不気味に感じて、見ていないから」


リーリアさんの言葉にホッとする。

でも、タンラスさんは?


「俺も大丈夫だ」


良かった。

2人の声がした方を見ると、リーリアさんを介抱している……いや、リーリアさんに抱き付かれて困った表情をしているタンラスさんの姿が見えた。

うん、大丈夫ならなんでもいい。


「大丈夫か?」


お父さんに叩かれた頬が薄ら赤くなっているアリラスさんは、事情を聞いたのだろう。

顔色がかなり悪い。


「すみません。魔法陣を見た後は、よく覚えてなくて。ん? なんでリーリアはタンラスに抱き付いているんだ?」


あっ、やっぱり気になるのか。


「あの魔法陣を見たら、不気味な怖さを感じて。気付いたら抱き付いてた」


リーリアさんにとって一番落ち着ける人が、タンラスさんだったという事なんだろうな。

あれ?

リーリアさんの手を見ると、まだ微かに震えている事に気付いた。


「俺が一番影響を受けたんだな」


アリラスさんが少し落ち込んだ表情をする。

確かに一番に影響を受けたのはアリラスさんだろうな。

でもリーリアさんも、私よりは強く影響を受けたみたい。

大丈夫かな?


「あっ、トロンと木の魔物は大丈夫かな?」


精神に影響があるなら、魔法陣の前にいては駄目なはず。


「トロン、危ないからこっちにおいで。木の魔物も」


トロンたちに視線を向けると、どうしても魔法陣が視界に入ってくる。

それに少しドキドキしながら、2匹に声を掛ける。


「ぎゃっ、ぎゃっ、ぎゃっ」


木の魔物は、少し後ろを振り返ると枝を揺らした。

でもすぐに、魔法陣に向きなおると根っこをくねくねと動かしだした。

根っこは、壁で淡い光を発している魔法陣へと向かう。


「何をしているの?」


リーリアさんの言葉に、お父さんが首を横に振る。


「分からない。でもあの様子からは、魔法陣の影響は大丈夫みたいだな」


確かに、トロンも木の魔物も魔法陣を見ても動きに変化が無い。


「木の魔物は、魔法陣の影響を受けにくいのかな?」


「どうかな? 俺の知っている木の魔物の常識はトロンと出会ってからは、役に立っていないからな」


お父さんの言葉に、魔物についての本を思い出す。

確かに、本に載っている木の魔物は「木に擬態して人を襲う厄介な魔物」という事と「洞窟にいる木の魔物の気配や魔力は非常に察知されにくいため、木の魔物がいる洞窟には十分な装備が必要」と書いてあっただけだよね。


ふわっ。

ん?

今、甘い香りがしたような気がしたけど、何の香りだろう?


「木の魔物の実が落下しているな」


お父さんの言葉に木の魔物に視線を戻すと、丁度複数の実が落下した瞬間だった。


「本当だ。結構な数の実が、落ちているね」


落下した実を見ると、なぜか割れている物が多い。

割れるほどの衝撃は無かったと思うけど、どうして割れているんだろう?


「あの甘い香り、なんだか気持ちが落ち着くね」


リーリアさんの言葉に、アリラスさんが頷く。

私は感じなかったけど、気持ちを落ち着かせる成分でも入っているのかな?


「なぁ、魔法陣の光、さっきより暗くなってるよな?」


えっ?

暗く?

タンラスさんの言葉に、視線を魔法陣に向ける。

確かに目に見て分かるほどに、暗くなってるみたい。


「そうみたいだな。あっそれと、魔法陣の力も弱まっているみたいだ」


今はまだ淡い光を発している魔法陣だけど、お父さんが言うように、不安な気持ちにはならない。

それにほっとしながら魔法陣の全体を見る。


ぺたぺた。

ぺたぺた。


「ん?」


微かに耳に届いた音が気になり正体を探すと、木の魔物が魔法陣の中心部分を根で叩いていた。

何をしているのかは不明だけど、魔法陣の力を弱くしているのは木の魔物だよね?


「お父さん、木の魔物が魔法陣の力を弱めたと考えてもいいんだよね?」


「たぶん、そういう事だと思う。魔法陣に触ったのは木の魔物だけだからな」


そうだよね。

あっ、叩くのを止めたみたい。

そう言えば、ソルも魔法陣の力を無効化してくれたよね。

いつもなら魔法陣に自ら近付くのに、今日は……いない。

なんでだろう?


「なんだあれ」


えっ?

タンラスさんの不審な声に、魔法陣に視線を向ける。


「魔法陣の中心部分。あれって、絵だよな? 細長い……棒?」


タンラスさんが首を傾げる。

確かに、魔法陣の中心部分に、棒のような絵が浮かんできた。

と言うか、あの場所はさっきまで木の魔物が根っこを使って叩いていた所だよね。


「棒じゃなくて、ヘビじゃないか?」


アリラスさんの言う通り、絵がはっきりしてくるとそれがヘビだと気付いた。

しかもそのヘビの体には、模様が描かれている。

模様のあるヘビという事は。


「これ、サーペントさんじゃないかな?」


お父さんを見る。


「そうだな。彼らの体にある模様にそっくりだ」


「ぺふっ」


ソル?

不安そうな鳴き声に視線を向けると、シエルの体の影からそっと顔を出しているソルが見えた。

そんな場所に隠れていたのか。


「ソルの態度から、いつもの魔法陣。この言い方もどうかと思うが、俺達が関わって来た魔法陣とこの壁の魔法陣は少し違うみたいだな」


「うん」


それもソルにとって悪い方に違うみたい。

もしかしたら、ソルに悪い影響でも及ぼすのかな?

それに、


「あの絵は何を意味するんだろうね」


中心に浮き出た絵を見る。


「サーペントの絵か」


お父さんが首を横に振る。


「魔法陣の事は分からない事が多すぎるな。とりあえず、アバルに言っておくか」


「そうだね」


そう言えば、仕事が忙しいみたいでアバルさんに全然会えてないな。

時々、宿に私たちの様子を聞きに来るみたいだけど、いつもすれ違いになっている。

そろそろ、顔を見て話したいな。


「あっ、お父さん。絵が消える」


魔法陣が消えていくと同時に、中心に浮かび上がった絵が消えていく。


「お父さん、魔法陣を覚えた?」


影響を受けなくなってから、覚えるために見たけど……不安だな。


「ある程度は覚えているはずだ。アイビーは?」


「大丈夫と言いたいけど、抜けてる部分があるかな」


紙が欲しいな。


「ぎゃっ」


あっ、木の魔物が戻って来た。

トロンも一緒だね。

良かった。

そうだ。

魔法陣に触れていた木の魔物は、大丈夫なのかな?


「あっ、木の魔物の幹の部分が黒くなってない?」


リーリアさんが指す方を見ると、確かに木の魔物の幹の一部が黒くなっていた。

それを見て、前に見た黒くなった木の魔物を思い出した。

あれは部分的ではなく、全身が真っ黒になっていたけれど。


「その部分だけど、大丈夫?」


木の魔物に、黒くなった幹の部分を指して聞く。


「ぎゃっ、ぎゃっ」


鳴き声が変わっていないから、痛くはないのかな?

と言うか、全く気にしていないみたい。

それは、大丈夫だからだよね?


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― 新着の感想 ―
[一言] 悪い魔法陣を木の魔物が身を挺して浄化する様子と特殊な魔法陣の存在をアイビーちゃんに見せ知らせる為にこの場所に誘ったのかも知れませんね。 そうで無ければ、シエルが黙っていないと思いますので。…
[良い点] アイビーと個性溢れる従魔達がほのぼのしている所 [気になる点] 人間が作り出した悪いものを木の魔物達が身を挺して浄化してくれているんでしょうか…。 [一言] 悪い貴族とか魔方陣絡みで…人間…
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