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684話 落ちてきた

バゴン。


不意に聞こえた音に、急いで雷球を握り音がした方を確認する。

視線の先には地面に転がる大きな塊。

よく見ようと少し近付くと、それは私の頭ほどの岩だった。


「岩だよね?」


「みたいだな。どこから転がって来たんだ、この塊?」


リーリアさんの言葉に、アリラスさんが周りを見回す。


「天井だ」


お父さんの言葉に、天井を見上げる。

薄暗いので見えにくいが、どうやら天井の一部が落下したようだ。

そしてそこから、細長い何かが出て動いていた。


「魔物だよな?」


お父さんが私を見る。

それに少し困ってしまう。

細長い物はバタバタ動いているので生き物なのは間違いない。

でも、目の前にいるのに魔力を感じない。

そして、気配もとても薄い。

というか、ほとんど無いと言える。


「たぶん」


バタバタバタバタ。

バタバタバタバタ。


「ねぇ、もしかして抜け出せなくなってない?」


リーリアさんの言葉に、全員が頷く。

どう見ても、一生懸命穴から抜け出そうとしている様に見える。


「にゃうん」


シエルがその細長い物に近付くと、天井を見上げた。

しばらく見た後、ソラ達の下へ行きソラの体を私たちの方へ押した。


「ぷっぷ?」


「にゃうん」


会話なのだろうか?

1回ずつソラとシエルが鳴くと、ソラ達は細長い魔物から離れてこちらに戻って来た。


「もしかして私たちも離れた方が良いの?」


シエルを見ると、「にゃうん」と鳴く。

それを見て、お父さん達も細長い魔物から距離を取った。

ある程度離れた場所から魔物の様子を窺うが、いまだにバタバタと細い何かが揺れている。


「にゃうん」


シエルが魔物に向かって鳴くと、今までバタバタと暴れていたのに、ぴたりと動きを止めた。

何が起こるのか、少しドキドキしていると不穏な音が洞窟内に響き渡った。


ビシビシビシ。

バキ、ボコッ。

……バタバタバタバタ。


「なんだろう。応援したくなるわね」


リーリアさんの言葉に、全員で苦笑してしまう。

彼女の言う通り、なんとなく「あと少し」と声を掛けたくなってしまう。


「あっ、出て来たか?」


お父さんの言葉に、緊張が走る。

いったい何が姿を見せるのか。


バタバタ、ビシビシビシ。

ドン。


「ぎゃっ」


「ぎゃっ?」


聞き覚えがある鳴き声。

でも、良く聞いている鳴き声よりちょっと低い声に、傍にいるトロンを見る。

トロンは興奮しているのか、葉っぱがせわしなくパタパタと動いている。


「木、木の魔物!」


アリラスさん達が、落ちてきた魔物に武器を構える。

確かにその反応は正しい。

洞窟内にいる木の魔物は要注意だ。

音も気配もなく近付き襲う。

そういう魔物だから。


「落ち着け。たぶん、一般的に知られている木の魔物とは違うと思う」


お父さんの冷静な声に、アリラスさん達が戸惑った表情を見せる。


「大丈夫なんですか?」


「あぁ、トロンが大喜びしているし、ソラ達が嬉しそうだ」


お父さんの言葉に、アリラスさん達の視線がトロンやソラ達に向く。

皆、登場した木の魔物に大興奮。

すぐにでも遊びに行きたい様子が窺える。


「あの~、木の魔物って恐ろしい魔物ですよね? 確か魔力が多く上位魔物となる個体までいるって」


リーリアさんの言う通り、木の魔物は恐ろしい魔物だ。

私も、一度襲われて死にかけた事がある。

でも、トロンも木の魔物なんだよね。

だから一概に木の魔物が恐ろしいとは判断できないでいる。


「俺もずっとそう思って来たが、木の魔物は個体によって違うのではないかと思っている。だってトロンも木の魔物だからな」


「「「あっ」」」


アリラスさん達の視線がトロンに向く。


「そうだった。トロンは木の魔物だったな」


タンラスさんの言葉に、リーリアさんが苦笑する。


「木の魔物そのままの姿なのに、言われるまで忘れていたな」


アリラスさん達が武器を仕舞うと、微かに残っていた緊張感が消えた。


上から落ちてきた木の魔物を見る。

高さはお父さんの2倍ぐらいある。

ただ根っこまで入れると、もっと高いが。

枝の数はトロンの5倍はあり、葉っぱが生い茂っているので元気なのだろう。

気になったのは、実。

姿を見せてくれた木の魔物には、淡い緑をした実が付いていた。


「こんにちは」


とりあえず、挨拶をしてみると葉っぱがガサガサと揺れた。

トロンと同じ反応なら、喜んでくれているはずだけどどうなんだろう?


「ぷっぷぷ~」


「てっりゅりゅ~」


足元でプルプルしていたソラとフレムが、木の魔物の方にぴょんと跳びはねる。

どうやら我慢の限界にきたらしい。


「ぎゃっ」


トロンも、珍しく興奮したように鳴くと、ちょこちょこと根っこを動かして大きな木の魔物の方へ行く。

ただし、根っこが短いので、可愛らしい走り方になっている。


「可愛い。何、あの可愛らしい姿」


リーリアさんが、走るトロンを見て興奮している。


「可愛いですよね」


その気持ちは、もの凄くわかる。

なんというか、小さい子が精いっぱい頑張っている姿に見えるんだよね。


「あっ! ソラ! フレム! 木の魔物で遊ぼうとしないで!」


木の魔物に跳び乗ろうとしているソラとフレムに気付きとめるが、遅かった。

2匹は木の魔物から伸びた枝を使って、遊びだしてしまった。


「ごめんなさい。大丈夫ですか?」


木の魔物の傍に寄って、見上げる。

傍に寄ると、やっぱり大きいからちょっと怖いな。


「ぎゃっ、ぎゃっ」


トロンより少し低めの声が、体を揺らしながら答えてくれる。

えっと、何を言っているのか分からないが、雰囲気から楽しそうなので大丈夫なんだろう。


「ぎゃっ」


後ろから聞きなれた鳴き声が聞こえた。

見るとお父さんがトロンを抱き上げて、木の魔物の近くに歩いて来ていた。


「途中で地面に根っこが挟まって、身動きが取れなくなっていたから連れて来た」


あっ、ソラの事に集中し過ぎてトロンの事を見逃していた。


「ごめんね。根っこは大丈夫?」


「ぎゃっ」


ちょっと拗ねた鳴き声だけで、それより木の魔物が気になるみたいだ。

ちらちらと視線が木の魔物へと向いている。

お父さんもそれに気付いたのか、木の魔物の傍にトロンを置いた。


「この子は、トロンをくれた木の魔物とは別の子だよね?」


トロンをくれた木の魔物はもっと大きかったと思う。


「あぁ、別だろうな。あの時の魔物は、この木の魔物の3倍はあったはずだ。それに洞窟全部にあの木の魔物の根っこが張っていた」


そうだっけ?

そこまで細かく見てなかったな。


「じゃあ、この子は……トロンの兄弟とか?」


木の魔物はどうやって子孫を残すんだろう?

やっぱり木だから種?


「トロン、この子とは兄弟か?」


お父さんの腕の中で体を傾けるトロンは、聞かれた事を理解していない様に見える。

木の魔物に兄弟という概念は無いのかもしれないな。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] お父さんがトロンを地面に置いたという描写の後、お父さんの腕の中で…と置いたはずのトロンがまたお父さんに抱っこされてる。 あとリーリアさん達にトロン紹介は自分も疑問に思いつつ、いつかの…
[気になる点] 621話 羨ましくて で、アイビーはソラ、フレム、シエル、ソルをアルスに紹介していて、トロンは寝ていたので起きた時に紹介すればいいや、とあり。 その後トロンはほぼ寝てて起きても紫のポー…
[一言] ソラたちや魔物との戯れは和みますね。
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