682話 泊る場所を探そう。
洞窟の奥に進むが、全く魔物の気配がしない。
まぁ、私の傍をシエルが本来の姿で歩いているからね。
しょうがない。
「逃げた魔物は、何処へ行ったのかな?」
「洞窟の奥で、怯えているんだろう」
お父さんの言葉に、洞窟の奥で震えている魔物を想像してしまった。
しかも想像したのは、1ヶ所目の洞窟で襲って来た体が大きく凶暴だった魔物。
それが縮こまって震えている姿は、ちょっと面白い。
「どうした?」
笑った事に気付いたのか、お父さんが私を見る。
「魔物が震えている姿を想像しちゃって」
「あぁ、なるほど。……見に行ってみるか?」
「「「「えっ?」」」」
アリラスさん達と私の驚いた声が、洞窟内に響く。
見に行くって。
魔物が怯えている姿をだよね?
それはちょっと、悪趣味では?
それに、見に行く時はシエルも一緒でしょ?
原因を連れて見に行くって、
「いや、いい。さすがに可哀そうだから」
魔物だけど、さすがにね。
「そうか? まぁ、怯えている魔物なんて、アイビーは見慣れているか」
えっ?
見慣れてないけど?
というか、いつ怯えた魔物に出会った……あっ!
シエルと一緒に楽しんだ、洞窟だ。
確かに、魔物達はシエルに怯えていたわ。
当たり前の光景だったから、すっかり忘れていた。
あれ?
最初の頃は、怯えている事に気付かずにシエルと一緒に様子を見にいっていたような。
……まぁ、昔の事だから。
今は、そんな悪趣味な事はしないから。
「これからどうしますか?」
アリラスさんがお父さんを振り返る。
「寝泊まり出来る場所を探そうか」
そうだ。
今日は、洞窟の事を深く知るために泊まるんだった。
で、重要なのがどこに寝泊まりをするかなんだよね。
「アリラス、どういう場所を探せばよかった?」
ん?
いきなりアリラスさんに質問?
でも今の質問は簡単だよね。
洞窟内で寝泊まりする場所の条件は、魔物との遭遇率を下げるために、洞窟の奥に続く主要な道から外れた場所で、魔物が襲って来た場合の事を考えて広さもある程度ある所だったよね。
「えっと、洞窟の奥に続く主要な道から外れた場所ですよね」
「理由は?」
「魔物と出会わないようにするためです。あと、少し広い空間があれば一番です」
やった、正解。
広さも大切なんだよね。
魔物が襲って来たのに狭すぎて戦えなかったら、殺されてしまう。
でも、狭い場所での戦い方もあるから、絶対に駄目という訳ではないけど。
「主要な道は魔物の通り道だからな。体を休めるためには、魔物から少しでも離れた場所を探す事。リーリア、少し広い空間を選ぶ理由は?」
「それは魔物が襲って来た時に、戦うために必要だから」
リーリアさんの返答に、頷く。
こっちも正解できた。
洞窟内で休む時の条件は、いかに魔物と出会わない場所を見つけられるかだね。
「正解。狭い場所での戦い方は、慣れてないと大変だから。まずは、いつも通り戦えるぐらいの広さを確保できたら一番だ」
お父さんの正解という言葉に、嬉しそうな表情をするリーリアさん。
アリラスさんも、安堵した表情だ。
「あっ、道が二手に分かれている」
リーリアさんが少し先にある道を指す。
「どっちがいいかな?」
2つの道の奥へ向かって灯りを向ける、リーリアさん。
「左は駄目だ。すぐに行き止まりみたいだ」
「本当だ」
アリラスさんの言葉に、残念そうなリーリアさん。
でも、すぐに行き止まりだと分かってよかった。
数分歩いてから、行き止まりだと分かると疲れが増すもんね。
洞窟の奥に進むにつれ、地面や壁に何かを引きずった跡が多く見られるようになった。
それにお父さんが首を傾げている。
「おかしいんですか?」
タンラスさんが、お父さんの様子に周りを警戒しているのが分かる。
「あぁ、この跡は最近ついた物みたいなんだが、多すぎる。しかも、天井にもある」
えっ、天井?
上を見上げると、薄暗い中に跡が確認できた。
しかも、1本や2本ではなく沢山の跡があった。
「引きずった跡なら、天井には無いはずだ。何かの魔物の痕跡かもしれない」
魔物の痕跡。
「まさかな?」
「お父さん? 分かったの」
魔物の予測が出来たのか、少し困った表情をしたお父さん。
そんな表情をさせる魔物って、何だろう?
「いや。もう少し洞窟の様子を見てから、答えを出すよ」
お父さんの態度に、首を傾げながら頷く。
重要な事だったら教えてくれるはずだから、大丈夫だよね?
「あっ、道がまた分かれている。今度も2つだ」
リーリアさんが、楽しそうに灯りを道の奥へ向ける。
「どっちも奥へ続いているみたい。どっちが主要な道だろう?」
リーリアさんの言葉に、アリラスさんが地面に灯りを向ける。
お父さんが気にしている痕跡は、右の道に集中しているのが分かった。
「左の道にはまったく無いな」
アリラスさんの言葉に、リーリアさんが不思議そうに左の道を見る。
この場合は、左の道を行くべきなんだろうか?
「人が通った痕跡は無いか?」
タンラスさんが右の道と左の道を調べている。
「左の道でいいんじゃないか? 人の歩いた痕跡は右の道に多いから」
タンラスさんの隣によって、灯りで照らされている部分を見る。
引きずった痕跡のほかに、靴の痕跡がある。
よく見ないと分からないけど、確かに靴跡だ。
しかも右の道には沢山。
「左の道に行くね。行き止まりじゃなくて空間に繋がっていて下さい。お願い!」
リーリアさんが祈ると、左の道を進む。
アリラスさんは、そんなリーリアさんの態度に苦笑している。
でも、よく見て。
こっそりタンラスさんも祈っているよ。
しばらく歩くと、少し開けた場所に出たのか空気の流れが変わった。
アリラスさんが、灯りを強めて全体を照らす。
それほど広くはないけど、魔物が襲って来ても戦えるぐらいには広い場所のようだ。
「この場所、当たりじゃない?」
リーリアさんが、窺うようにお父さんを見る。
お父さんは、灯りに照らされた空間を見て頷く。
「ここでいいだろう」
お父さんの言葉に、アリラスさん達が嬉しそうな表情になった。
「ここなら魔物との遭遇率も低いだろうし、広さも理想的だな。まぁ、今日は魔物の心配はないけどな」
確かに、最強の魔物除けがいるからね。
「にゃうん」
シエルもこの空間が気に入ったみたい。
ソラ達は既に飛び跳ねて遊び回っているから、問題ないでしょう。
「さて、寝床作りと、魔物除けは……今日は動かす必要はないが、何処に置くかだけは確かめておこうか」
お父さんの言葉に、アリラスさん達がマジックバッグから色々な物を取り出していく。
洞窟でも森の中でも、一番重要なのは魔物除け。
用意していた魔物除けが動かず、魔物に襲撃され死んだという話は広場にいるとよく聞いた。
お父さんからも、魔物除けだけはしっかり管理と手入れをするように言われた。
私の場合は、まず魔物除けを使うようにと再三注意されてしまった。
まぁ、これについては私の自業自得だ。
「洞窟内では、魔物除けに使用する薬草に対して耐性を持っている魔物が確認されている。だから魔物除けを使用していても、注意するように」
「どうして薬草に耐性を持つ魔物が生まれるの?」
耐性を持つのって、そんなに簡単な事ではないよね?
「洞窟の魔物は、洞窟内の何処かにある魔力塊から生まれるのは、知っているか?」
「うん」
その魔力塊の大きさによって、生まれてくる魔物の強さが変わり、
魔力塊が消えると、洞窟も崩落するんだよね。
つまり魔力塊は、洞窟の命と言える物だと思う。
「その魔力塊は、洞窟内にある様々な物を吸収するんだ」
吸収?
「魔物除けを置いていったり薬草を洞窟内で捨てたりすると、魔力塊が吸収してしまうんだ。そして吸収した後すぐに生まれた魔物には、薬草に対する耐性が付いているそうだ」
「それって、耐性付きの魔物が生まれるのは冒険者のせいって事だよね?」
ゴミを洞窟内で捨てて行くんだから。
「そうなるな」
洞窟内に持って行った物は、全て回収して帰るのが基本と言われたけど、魔力塊が全て吸収してしまうからか。
「どうして吸収するの?」
「さぁ?」
そこは分からないのか。
とりあえず、薬草をこぼさないように注意しよう。