表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
735/1146

681話 駄目かぁ

「おっと」


「あっ」


アリラスさんとリーリアさんが蔓に足を引っかけたのか、体勢を崩した。


「大丈夫か?」


すぐにタンラスさんが、魔物が襲って来た場合の事を考えたのか場所を移動した。

最初こそ皆の動きはバラバラだったけど、今では見事な一体感を見せている事に感心してしまう。


「気を付けろよ」


「悪い。でもおかしいな、ちゃんと避けたつもりだったのに」


タンラスさんの注意に、アリラスさんが不思議そうに足元を灯りで照らした。

アリラスさんの足元は、細い蔓や太い蔓が折り重なっているようだ。


「私も避けたんだけど」


リーリアさんも、足元を照らしながら首を傾げている。

その2人の様子にお父さんが、洞窟全体に灯りを向ける。

地面だけでなく壁や天井にまでびっしりと蔓が伸びている。


「異変は無いが……これまでの洞窟の件もあるし、注意した方がいいかもしれないな。あまりにおかしいと思うなら、戻ってもいいからな」


判断は3人に任せるという事だね。

アリラスさん達を見ると、神妙に頷いている。

確かに1ヶ所目と2ヶ所目の洞窟の事があるからね。

絶対に油断はできない。


「あっ、魔物が来る」


少し遠くに感じていた魔物が、こちらに向かって来る気配に気付く。

そのまま、ここまで来るかな?

それとも途中で方向転換するかな?

魔物の気配は3匹分。


「「来た!」」


3匹の魔物が視界に入ると、アリラスさんとリーリアさんがそれぞれ武器を構えた。

お父さんは、魔物を確認すると私達から少し離れた場所に移動した。

今、現れた魔物なら、私達だけで問題ないと判断したんだろう。

それにしても、魔物がどう動くのかドキドキしてしまう。


「「「…………」」」


魔物がこちらの様子を窺っているのが分かる。

アリラスさんとリーリアさんが、戦いやすいように立ち位置を少し変えている。

その間も、じっとこちらを見ている3匹の魔物。


「……来ないね」


既に数分、リーリアさんがちらっとアリラスさんを見る。

魔物は私達を襲う事も、どこかに移動する事もなくただじっとこちらを見ている。

バッグの中のシエルに気付いたのかな?


「ちょっと近付いてみる?」


リーリアさんの言葉に、アリラスさんが頷く。

大丈夫だろうか?


「リーリアはそこで待機」


アリラスさんが3匹の魔物に近付く。

魔物に変化はない。


「もう少し近付いてみるな」


アリラスさんがもう一度近付こうとすると、魔物が後退りをしたのが見えた。


「あ~、これは」


お父さんの言葉に、皆の視線が私のバッグへと向く。


「アイビー、ぴょんと1歩前に出て見てくれ」


私が前にぴょん?

前に飛び跳ねればいいのかな?

えっと蔓に気を付けて、


ぴょん。


ダダダダダダダダダッ。


「えっ?」


何かが移動する音に、視線を魔物に向ける。

が、既にそこには魔物の姿が無かった。


「やっぱりシエルの気配か魔力に気付かれたか」


お父さんが肩を竦める。

残念。

バッグに入れたぐらいでは駄目だったかな。


「そうみた――」


ダダダダダダダダッ。

バタバタバタバタバタッ。

ドドドドドドドドドッ。


あ~、微かに感じていた魔物の気配まで無くなってしまった。


「アリラスさん、タンラスさん、リーリアさん。ごめんなさい」


洞窟に泊る練習だったのに。

やっぱり私は来ないほうが良かったのかな?


私が留守番をしていると言ったら、皆が一緒に行こうと言ってくれたから来たけど。

さすがにこうなってしまうと、申し訳ない気持ちになる。


「気にしなくていい。洞窟内で泊まる練習は、魔物がいなくても出来るから」


「そうそう。泊りの時に使うマジックアイテムに慣れるのが目的だから」


アリラスさんとタンラスさんが、持っているマジックバッグを掲げながら笑う。

そこには、今日使う予定のマジックアイテムが色々と入っている。


「魔物の様子も分かったし、ソラ達を出してあげてもいいんじゃないかな?」


「そうだな」


リーリアさんの言葉に、お父さんが頷く。

確かに魔物は逃げてしまったので、ソラ達をこれ以上バッグに入れておく必要はない。


「分かった。久々に皆がゆっくり遊べるね」


バッグを開けると、勢いよく飛び出してくる4匹。

ソラもフレムも、地面に着地すると周りを興味深そうに見つめている。

シエルは、バッグから出ると元のアダンダラの姿に戻った。

そしてソルは、そんなシエルの頭の上で寛ぎだす。


「なんて自由なんだ」


リーリアさんが笑いながら、ソルの体をツンツンする。


「ぺふっ、ぺふっ」


何気に嬉しそうなソルに、ソラとフレムがリーリアさんに体当たりをした。

ソルだけではなく、自分達とも遊べと言う催促だろう。


「本当に自由だよな。ドルイドさん、他の冒険者達に気付かれませんか?」


あっ、そうだ。

予約制だったから、大丈夫と思い込んだけど他の冒険者達がいたら、シエルの気配に(おのの)くのでは?


「あぁ、大丈夫だ。この洞窟は1日1組だから、この洞窟内には俺達しかいない。だから思う存分、遊んでいいぞ」


良かった。

ソラ達もお父さんの言葉に、洞窟内を自由に探検しだした。


「もっと奥へ行きますか?」


「そうだな。と言うか、既にソラ達は行ってしまったな」


お父さんの視線を追うと、ソラとフレムの姿が洞窟の奥へと消えそうになっている。


「ソラ、フレム。この洞窟は灯りが届きにくいから、遠くに離れないで」


魔物の気配は、全くしないので大丈夫だと思うけど。

さすがに、姿が見えなくなると不安になる。


「ぷっぷぷ~」


「てっりゅりゅ~」


返事だけはいいけど、そのまま暗闇に消えていくソラとフレム。


「あぁ、行っちゃった。もう」


灯りを前に突き出して洞窟の奥を見ようとするが、やはり無理のようだ。

視線の先は真っ暗。

ソラとフレムの姿は完全に見えなくなってしまった。


「大丈夫かな?」


「ぷっぷぷ~」


「てっりゅりゅ~」


私の声が聞こえたのか、元気な鳴き声が聞こえてくる。

それにしても、正体がわかっているから特に何も感じないけど、知らないとあの鳴き声は不気味だろうな。


「ぎゃっ」


「えっ?」


今の声はトロンだよね?

お父さんを見ると、お父さんがカゴからトロンを抱き上げていた。


「トロンも洞窟に興味があるの? そういえば、トロンとは洞窟で出会ったんだったね」


出会ったというか、木の魔物のお母さんから譲り受けたというか……押し付けられた。

いやいや、「出会った」で、いいよね。

うん。


「ぎゃっ!」


「ぷっぷぷ~」


「てっりゅりゅ~」


トロンの鳴き声に応える、ソラとフレム。

ただし、姿が見えず、どこにいるのかは不明。


「声だけ聞こえるのはちょっと不安になるな。少し急いで2匹の所へ行こうか」


「うん」


お父さんの言葉に、アリラスさん達と急いでソラ達の声が聞こえる方へ向かう。

奥に進むにつれて、地面に広がっていた蔓が減ってきた。


「蔓が無くなったな」


「ようやく歩きやすくなったね」


アリラスさんとリーリアさんは、立ち止まると地面に灯りを照らす。

そこには先ほどまで見た蔓ではなく、土が見えていた。


あれ?

地面に……何かを引きずったような跡?

あれは、なんだろう?


「どうしたアイビー」


お父さんが隣に来て、私が見ている地面に視線を向ける。


「ちょっと気になって。地面に洞窟の奥に続く線があるの。何かを引きずったみたいに見えるんだけど」


冒険者が、何かを引きずって歩いた跡?

さすがにそれは無いね。


「確かにこれは、引きずった跡だな」


お父さんが地面を指で触る。


「地面は固いから、簡単に跡はつかないと思うが。魔物が咥えて何か、獲物を運んだ跡かもしれないな」


あぁ、なるほど。

魔物なら、考えられるかな。


「ぷっぷぷ~」


「てっりゅりゅ~」


「うわっ」


洞窟の奥から勢いよく戻って来たソラとフレムが、いきなり目の前に来た。

さすがに驚いて声を上げて、後ろに後退ってしまう。


「驚いた。ソラ、フレム、驚かせないで! それにしても、なんでそんなにテンションが高いの?」


「ぷっぷぷ~」


「てっりゅりゅ~」


嬉しそうに鳴く2匹に、苦笑が漏れる。

久々に走り回れるのが、楽しいのかもしれない。

ずっと部屋の中で我慢させていたからね。


「ふふっ。走り回って楽しかった?」


「ぷっぷぷ~」


「てっりゅりゅ~」


「ぺふっ」


「ぎゃっ」


ソルはシエルに乗っていて、トロンはお父さんの腕の中。

全く走り回っていないけどなぁ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 3人にトロンはいつ紹介されたんでしょう?
[良い点] みんなの普段の旅の様子がどれだけ規格外なのか伝わってきますね! [気になる点] オカンコ村と記憶の欠片 665話 初心者用の洞窟 では、トロン以外はカバンに入って着いてきていたはずですが、…
[気になる点] トロンはいつアルス(リーリア)達に紹介されたのでしょうか?他のコ達と会わせた時は確か寝ていて「起きてからでいいね」と名前も出さなかったので、てっきりリーリア達がトロンを見て二度驚くとい…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ