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678話 潰れてる?

「次は武器屋よね。場所は何処なの?」


リーリアさんが雨具を着ながらお父さんを見る。


「あそこの店だ」


ん?

全員が、お父さんが指した方を見る。

えっ、あそこ?

なんというか……。


「潰れてないですか?」


あっ、タンラスさんが言っちゃった。

そう、お父さんが指した店は潰れているようにしか見えなかった。

店の前には壊れた木箱が積み上がり、屋根も一部分に穴が空いているように見える。

店には灯りが付いている様子が無く、今日の薄暗い中で見ると不気味にすら感じる。


「本当にあそこですか?」


「あそこで間違いない。ほら」


お父さんがリーリアさんにミッケさんが書いた紙を見せる。


「本当に、あの店だ」


眉間に皺を寄せて、ミッケさんが書いた紙を見るリーリアさん。

紙に書かれている店の名前と、目の前の店の名前を見て納得したようだ。


「それなら、行こうか」


アリラスさんが歩き出すと、タンラスさんとリーリアさんが歩き出した。

その後を付いて歩きながら、空を見上げる。

いつ降ってもおかしくないぐらい暗いのに、まだ降って来ない。

宿に戻るまで、この状態を維持してくれたら嬉しいな。


「お邪魔します」


アリラスさんが店の奥に向かって声を掛ける。

しばらく待つが、返ってくる声は無い。


「誰もいないみたいだな?」


「おるぞ、ここに」


「「「ひっ」」」


急な声にアリラスさん達が小さく悲鳴を上げ、私は飛びあがった。

ドキドキする心臓を押さえると、ぽんぽんとお父さんが優しく背中を撫でてくれた。

それにホッとして体から力が抜ける。

と言うか、誰?

気配をまったく感じなかったんだけど。


「悪い。そんなに驚くとは思わなかった」


声がした方に視線を向けると、背の低い小太りの男性がいた。

その姿を見ながら首を傾げる。

目の前にいるのに、気配が凄く薄い。


「見ない顔だな。と言うか、誰の紹介だ? こんなおんぼろな店、紹介が無いと開いているとは思わないだろう?」


もしかして、店主さん?


「えっと、旅の冒険者です。宿に泊っている人の紹介です。確かに紹介が無いと潰れていると思います」


律儀にアリラスさんが全ての答えを返す。

最後の答えは要らなかった気もするけど。

男性もそう思ったのか、アリラスさんの答えにちょっと驚いた表情をしたあと、笑いだした。


「あっ!」


アリラスさんは、自分がどんな返答をしたのか気付いたのか、ちょっと慌てた表情をする。


「大丈夫だ。お前の言った通りだからな。まぁ、こんな店だが用事があるならどうぞ」


店主さんが扉を両手で持って。

えっ、両手?


ガゴッ。


扉を上に持ち上げて、横の壁に立てかけた。


「悪いな、壊れてから直して無いんだよ」


店を開ける度に、扉を持ち上げて移動するのは面倒そうだから、早く直した方がよさそうだけどな。


「いちいち扉を持ち上げるのは面倒では?」


リーリアさんが、お店に入りながら店主さんに聞く。


「慣れだな。もう4年? いや、5年その状態だから」


それは、もう直す気がないのでは?

店主さんの返答に、リーリアさんとタンラスさんが呆れた表情をしている。


「まぁ、好きなように見たらいいぞ。奥には行くな。あそこはいつか崩れる」


店主さんの言葉に、店の奥に視線を向ける。

そこには傾いた棚があった。

確かに、今崩れたとしても違和感が無いね。


「他に危険なところは?」


「ん~、床は大丈夫だ。一度、床が落ちて怪我してからは、丈夫な素材に張り替えたから」


お父さんの問いに、首を傾げながら答える店主さん。

床以外は危険という事だろうか?

隣にある棚を見る。

倒れそうには見えないぐらい、しっかりした棚に見える。

たぶん、大丈夫。


「好きなように見させてもらうな」


「あぁ、気になった物が有ったら言ってくれ」


店主さんの許可を貰ったので、商品が置かれている棚を見ていく。

置かれているというか、放り込んであるが正解かもしれないけど。


「凄いな」


お父さんを見ると、石を手にして頷いている。


「どうしたの?」


「砥石の質がかなりいい。彼女がこの店を勧めるだけはあるよ」


お父さんから、砥石を受け取る。

石は黒く、表面はつるんとしている。

正直、砥石の良し悪しはさっぱり分からない。


目の前の棚を見る。

似たような石があるので、手に取ってみる。

触ると、2つの石の表面が微妙に違った。


お父さんと会うまで私は、ゴミ捨て場で拾ったナイフや包丁を使っていた。

だから、拾った時より切れ味が悪くなったらゴミ捨て場で新しく拾うのが常識だった。

まさか砥石で研いだら、拾った時より切れ味が良くなるなんて思わなかった。


初めてお父さんに包丁を研いでもらった時は感動した。

その日は、無駄に野菜を切ってしまい具沢山スープが鍋に3つも出来てしまった。


「アイビーが手に取った砥石より、もう少しきめがあらく柔らかい石を一番初めに使った方が良いぞ」


えっ?


「あっ、選んでいたんじゃなくて、ただ手に取っただけだから」


今日は研ぐ事になれたので、私専用の砥石を買いに来た。

ずっと、お父さんの砥石を借りているわけにはいかないからね。


「そうなのか? 気になる砥石なのかと思った」


お父さんの言葉に首を横に振り、砥石を元の場所に戻す。


「中砥だけで研ぐ者もいるが、切れ味を考えるなら3種類で研いだほうがいいと思うぞ」


「うん。私もお父さんと同じように3種類の砥石を使って研ぐつもり」


お父さんには、荒砥に中砥、仕上げ砥を使って手入れする方法を教えてもらった。

だから、私も3種類の砥石を使う予定にしている。

お父さんに聞きながら、使いやすい大きさの物を選んで行く。


「あとは、持ち手部分の手入れだな。そこはお薦めのマジックアイテムがあるんだけど。何処にあるかな?」


前にお父さんが手入れ用にと購入したマジックアイテムを思い出す。

箱型で、1ヶ所に穴が空いていたはず。


「アイビー、あったぞ」


お父さんが手招きしている場所に行くと、箱型のマジックアイテムが並んでいた。

前にお父さんが購入した物より、少し小ぶりみたいだ。


「性能はどれも同じかな?」


「どれも同じだ。ただ、箱の大きさが微妙に違うだけだ」


うわっ。

慌てて後ろを見ると、店主さんがいた。

この人、神出鬼没だな。


「不意に後ろに立つのは止めてください」


お父さんの言葉に店主さんは、肩を竦め1つの箱を取ってくる。


「これがこの中では一番丈夫だ。これがお薦めだ」


「ありがとうございます」


目の前に出された、箱型のマジックアイテムを受け取る。

店主さんは、それに頷くと元の場所に戻っていった。


「なんだか、個性的な人だね」


「そうだな」


お父さんが苦笑する。


ガタン。


「あっ、やばい」


ん?

店の出入り口から、どこか聞き覚えのある声が聞こえた。

見ると、扉を押さえた自警団のガバリ団長さんがいた。


「おい、いつも言うが扉くらいは直せ。いつか怪我人が出るぞ」


「静かに入ってくれば問題ない。だいたい扉を最初に壊したのはお前だろうが!」


えっ、喧嘩?

店主さんとガバリ団長さんを交互に見る。

あれ?

背丈は全然違うけど、なんだか似ているような?


「あっ……悪い。まさかこんな店に客がいるとは」


すごい言い方。


「何しに来た?」


「あぁ、俺の剣が刃こぼれしたんだ。直してくれ」


「はっ? 今月で3回目だぞ」


店主さんの怒った声に、ガバリ団長が少し不機嫌そうな表情になる。


「悪いって。でも仕方ないだろう? 森の奥に上位魔物が出たみたいで、村の近くまでガオルが来てんだよ。これ以上、村に来させないために戦うけど、奴らの体は本当に硬い。刃こぼれぐらいは大目に見てくれ」


ガオルは確か、凄く強靭な甲羅に覆われた魔物で縄張りを侵すと体当たりしてくるんだったよね。

でもあの魔物は、森の奥から出てこないと本に載っていたけど違うのかな?


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