676話 道具屋さんへ行こう
窓から空を見上げる。
いつ雨が降って来てもおかしくない空模様に、ため息が零れる。
「ただいま」
今日の予定を確認しに行っていたお父さんに視線を向ける。
「予定通り道具を買いに行こうという話になったけど、大丈夫か?」
「うん。大丈夫」
昨日、2ヶ所目の洞窟から帰って来たら、店主のチャギュさんに明日は雨かもしれないと言われた。
道具を買いに行く予定だったので、少し皆と話をして土砂降りだったら中止する事にした。
そして現在、一気に降りそうだけど今は降っていない。
なんというか、微妙な状態。
「まぁ、降ってきたら降ってきた時だな」
「そうだね」
出掛ける準備をして、ソラ達を呼ぶ。
今日は久々に皆と一緒にお出掛けだ。
ソラ達はバッグの中だけど。
「村の周辺を少し離れても、ソラ達を自由には出来ないかな?」
ずっと宿にいるので、遊ばせてあげたい。
お父さんを見ると、難しい表情をしている。
「オカンコ村は本当に冒険者が多いからな。難しいと思う」
やっぱり無理か。
「ぷっぷぷ~」
「ごめんね。自由に遊ばせてあげられなくて」
ソラをギュッと抱きしめると、腕の中でプルプルと震える。
可愛い。
「てっりゅりゅ~」
ソラを抱きしめていると、肩のあたりに衝撃を受ける。
見ると、ちょっと怒った表情をしたフレム。
「どうしたの?」
私の言葉にフレムが縦に伸びる。
これは、抱っこだ!
「可愛いね」
ソラとフレムをギュッとすると、2匹が腕の中でプルプルしている。
大満足。
「後ろで拗ねているぞ」
ん?
振り返ると、お父さんがソルとシエルを抱っこしている。
その腕の中では、ジトッと私を見る2匹。
「ごめんね。順番にね」
申し訳ないけど、そんな表情も可愛い。
順番に抱っこしていると、部屋の外から気配を感じた。
「アリラスさん達の準備が終わったみたい」
「そうだな。それじゃあ、行くか。ソラ達はバッグに入ろうか」
「ぷっぷぷ~」
「にゃうん」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
「ぎゃっ」
ん?
最後の鳴き声に、お父さんと首を傾げる。
トロンはまだ起きていなかったけど。
トロンのカゴが置いてある場所に視線を向けると、こちらを見ているトロンがいた。
「おはよう、トロン。今から買い物に行くんだけど、朝ごはん食べたいよね? アリラスさん達には、ちょっと待っていてもらおうか」
「ぎゃっ!」
私の言葉に嬉しそうに鳴いて、カゴから飛びだすトロン。
バタン。
「「あっ……」」
根っこがカゴに絡まったのか、見事に床に体を打ち付けたトロン。
「大丈夫か?」
慌ててお父さんが抱き上げると、枝が顔の部分を押さえていた。
「痛かったのか?」
「ぎゃっ」
お父さんがトロンの顔の部分を撫でると、枝がちょっとパタパタ動いた。
痛いのか気持ちがいいのかちょっと分からないが、嫌がっていないから気持ちがいいのだろう。
「もう大丈夫か?」
「ぎゃっ」
お父さんの言葉に一鳴きすると、ソラ達が入る予定のバッグに枝を伸ばした。
「もしかして一緒に行きたいのか?」
「ぎゃっ!」
嬉しそうにお父さんの言葉に反応を返すトロン。
久々に一緒に出掛けたいみたいだ。
でも、
「買い物だからずっとバッグの中だよ。それでもいいかな?」
「ぎゃっ」
頷くトロンに、お父さんがトロン専用のカゴを持って来る。
「トロンは、こっちな」
お父さんがカゴの入り口を開けると、そそくさと入るトロン。
かなり外に出る事が嬉しいようだ。
コンコン。
「準備が出来たけど、行けますか?」
「あっ、すぐに出ます」
タンラスさんの声に、慌ててソラ達をバッグに入れる。
「ごめんなさい」
廊下に出ると、雨が降ってもいいように雨具を着た3人がいた。
「あれ? 雨具は?」
「それが、小さくて着られなかったんです」
リーリアさんの言葉に、苦笑する。
シエルが、雨が降る前に必ず洞窟や雨に当たらない場所を探してくれたので、雨具の出番がここ最近は無かった。
そのせいで、準備していた雨具が今の私では小さくなっている事に気付けなかった。
まさか、雨具まで買う事になるとは。
「色々と買わないといけないみたいだね」
「はい。そうみたいです」
準備していた道具を1つ1つ確認したら、お父さんにちょっと怒られた。
さすがに、森で問題が起きた時に必要な道具が壊れていたりしたら駄目だよね。
1階に下りてチャギュさんに声を掛ける。
「待って。昨日両ギルドからの連絡が届いたんだけど、宿に泊っている女性の事を聞きまわっている不審者がいるようなの。少し前から注意は来ていたんだけど、ここ数日は暴力を振るう事もあったみたいで。もし怪しい動きや、言動をしている男を見かけたら、近付かないようにね」
絶対にあの男だ。
「その男の事なんですが」
お父さんが、特訓室にまで現れた男の事をチャギュさんに話す。
彼女は特徴を聞いて、ポケットから1枚の紙を取り出した。
「その男に間違いないわね。特徴が一緒だもの」
やっぱり間違いなかったみたい。
「ありがとう。ドルイドさん達は強いから大丈夫だろうけど、巻き込まれないようにね」
チャギュさんの言葉に、リーリアさんが頷く。
巻き込まれたくないけど、今までの事を考えて不安を覚える。
なぜか、知らない間に巻き込まれているからね。
「近付かないようにしたらいいよ」
お父さんの言葉に頷く。
そうだよね。
絶対に近付かないようにしよう。
「「「「「行ってきます」」」」」
チャギュさんに手を振って宿から出る。
空はさっき見た時より暗くなっている。
降ってないのが不思議なくらいだ。
「お薦めの店を3ヶ所も教えてもらったんだけど……近場からでいいか?」
「あぁ、問題ないよ」
アリラスさんの言葉にタンラスさんもリーリアさんも賛成する。
もちろん、私も問題は無い。
お父さんが、手書きの地図をアリラスさんに見せる。
その地図は、昨日の夜ミッケさんが書いた物だ。
「彼女が書いていたのは、これだったんですね」
名前を伏せて言うアリラスさんに、お父さんが頷く。
昨日の夜ミッケさんに、前に話した男性が今も探している事や、その男性に変な噂が立っている事を話した。
話を聞いたミッケさんが大笑いしていたけど、隣にいたカギュさんは頭を抱えていた。
そしてミッケさんという名前を、外では伏せようという事になった。
ミッケさんは「気にしなくていい」と言ってたけど、明らかに彼女を探しているからね。
大通りを裏門に向かって歩く。
あれ?
今日は、歩きやすい。
「さすがに雨が降る日は、冒険者の数が減るわね」
なんだ、人が少ないのか。
ちょっとだけ、人込みを歩くのに慣れたのかと思ってしまった。
「そうだな。歩きやすくていいけど」
タンラスさんの言葉にアリラスさんも頷く。
「あの『はばは』という店を右だ」
お父さんが指す方には「はばは」という看板が見えた。
看板に描かれているのは、肉のようだ。
「肉屋だ」
右に曲がる時に、ちょっと店内を窺う。
肉の種類は豊富なようで、色々な魔物の名前が見えた。
ちょっと気になるな。
「あそこだ」
先頭を歩くタンラスさんが、ある店を指す。
視線の先には、テントと灯りのデザインが描かれた看板があった。
店の名前は「バキュール」。
確かにミッケさんが昨日話してくれたお店で間違いないようだ。
あ~ワクワクしてきた。
やっぱり、道具探しは楽しいよね。




