675話 2ヶ所目も
「お疲れ様です。ちょっと時間が掛っていましたね。大丈夫でしたか?」
洞窟の出入り口の傍にある建物から、自警団員さんが顔を見せた。
「大丈夫だったんですが、ちょっと聞きたい事があるのですが」
お父さんの言葉に首を傾げる自警団員さん。
「この洞窟は初心者用ですよね? それなのに30匹以上の魔物が一気に襲って来たんですが、これはいつもの事ですか?」
「えっ? 30匹? いえ、この洞窟では普通は10匹前後なんですが……30匹も?」
やっぱり、普通では無いんだ。
前に入った洞窟に続き、今日の洞窟もなんて……運が悪すぎる。
「活動期だからという事はありますか?」
「いえ、この洞窟の記録からは活動期でも今のような現象は起きていないです。それにこの洞窟は、活動期の影響を受けにくいと調査結果が出ていますし……。どうして30匹の魔物が出たんだろう? もしかしたら土魔法を持った上位魔物の影響かな?」
「土魔法を持った上位魔物?」
「はい。洞窟の傍を土魔法に長けた上位魔物が通ると、その力に触発されて魔物が大量に発生するらしいんです。ただ、これについては調査中なので間違っている可能性もあるんですが」
土魔法に長けた上位魔物って、どんな魔物なんだろう?
あとでお父さんに聞こうかな。
「とりあえず洞窟周辺の調査を依頼しないと。あの、怪我とか本当に大丈夫だったんですか?」
自警団員さんが、アリラスさん達に視線を向ける。
「大丈夫です。ドルイドさんが参戦してくれたので」
アリラスさんの答えに、安堵の表情を見せる自警団員さん。
「よかったです。すみませんが、襲って来た魔物について詳しく話してもらえませんか? 洞窟内部も調査する事になるので、必要になるんです」
「いいですよ。あっ、ついでに魔石を商品券に換えてくるよ。魔石は、誰が持っているんだっけ?」
「私だよ」
お父さんはリーリアさんから魔石を受け取ると、アリラスさんと一緒に自警団の建物に向かった。
それを見送っていたら、リーリアさんがため息を吐いた。
「まだ2ヶ所だけど、私達が洞窟に入ると問題が起きるよね」
それに苦笑してしまう。
まだ2ヶ所目だけど、そうなんだよね。
「こうなると、3ヶ所目の洞窟に行くべきか迷うよね」
また、何か起こったら嫌だもんね。
「偶然だろう」
タンラスさんが肩を竦めて、リーリアさんを見る。
「偶然かな? もし3ヶ所目でも何か起こったら?」
「それはさすがに、偶然とは言えないか」
タンラスさんの答えに、リーリアさんが苦笑する。
そうだよね。
さすがに3ヶ所目でも問題が起きたら、偶然ではないよね。
次の洞窟に挑戦するのが、ちょっと怖いかも。
「あっ、戻って来た。お帰り」
「「ただいま」」
リーリアさんの言葉に、アリラスさんとお父さんが笑みを見せた。
「3ヶ所目の洞窟の予約を取ったけど、問題なかったか?」
3ヶ所目の予約?
首を傾げると、お父さんが木の板を見せてくれた。
そこには2日後の日付が刻まれている。
「初心者用洞窟の2か所目が終わると、3ヶ所目に入れる権利を得られるんだ。そして、3ヶ所目は予約制。初心者用の洞窟で一番大きくて、この洞窟では1泊する事になる」
1泊?
「洞窟内に泊るの?」
宿にいるソラ達の事を考える。
泊りだったら、一緒に来られるかな?
「あぁ、洞窟内に泊る練習だな」
練習か。
お父さんの言葉に、ちょっと落胆してしまう。
今日の洞窟も、洞窟に慣れる練習だと説明したらソラ達は宿に残ると判断してしまった。
3ヶ所目が、洞窟に泊る練習だと言ったら来てくれないかもしれない。
とはいっても、皆を置いて1泊するのは嫌だな。
どうしよう。
「アイビー。ソラ達も一緒だから大丈夫」
「うん」
お父さんの言葉に、笑って頷く。
良かった。
これでみんなと一緒に洞窟を楽しめる。
予約制なら冒険者の数も少ないだろうし、2日後が楽しみだな。
「泊まりか。もしかして洞窟に泊るのが、私は初めてかもしれない」
リーリアさんの言葉に、アリラスさんを見ると頷いた。
「そういえば、今回の旅では洞窟に泊る事は無かったな」
確かに、洞窟に入って色々採取したけど、泊らなかったな。
「まぁ、シエルがいるから洞窟に泊っても普通とは全く違うけどな」
お父さんが苦笑すると、アリラスさん達も笑う。
確かに違うね。
なんせ、魔物が一切近付いて来ないから襲われる心配がない。
村に戻りながら、洞窟に泊る時に必要な物を話し合う。
お父さんは準備が出来ているけど、アリラスさん達も足りないものが多いみたい。
「明日にでも買いに行こうか。アイビーも足りないものを買おうな」
「うん」
道具の話をしている時に、魔物除けを買い忘れている事に気付いた。
これには、アリラスさん達に驚かれた。
まぁ、そうだよね。
旅をしている以上、命に関わるから必需品になるもんね。
ただ、シエルと一緒に旅をしていると、ついつい買う時に後回しになってしまって。
何時から無いのかも、思い出せない。
はははっ。
宿に戻ったら、旅の必需品が全てあるか確かめよう。
「お帰りなさい」
「ただいま戻りました」
門番さんに挨拶をして、村に入り大通りに出る。
屋台を見て回りながら、皆で買う物を決めていく。
「やっぱり甘味も欲しいよね」
リーリアさんの言葉に頷くと、前回は諦めたけど気になっていた甘味の屋台に並ぶ。
アリラスさんとタンラスさんは、この村でしか飲めない酒があると聞いて買いに行った。
「お父さんは一緒に行かなくていいの?」
お酒が好きなお父さんだから、選びたいんじゃないかな?
屋台に並んでいるだけだから、行って来てもいいのに。
「大丈夫。希望は伝えたから」
「そう?」
まぁ、アリラスさん達の事だからお父さん好みの酒は分かっているかな。
「アイビー、どれがいい?」
えっ?
屋台の中を見ると、色とりどりの色のついた団子が並んでいる。
「凄く可愛いですね」
1口で食べられる大きさの団子は、全部で10種類の色がある。
「どんな味だろう?」
屋台の壁を見ると、味について説明書きがあった。
「えっと……えっ、これ全部野菜なの?」
説明書きには、野菜の名前と色が書かれてある。
「野菜なのか? 甘味だよな?」
お父さんも興味を惹かれたのか、団子に視線を向ける。
「使われている野菜は、どれも甘味のある物だけど……」
美味しいのかな?
あっ、ちょっと癖のある野菜まで使われている。
「ん~、全種類5つずつ下さい。これは制覇するべきでしょう」
えっ?
リーリアさんを見ると、面白そうな表情をしている。
まぁ、噂では美味しいと言っていたから大丈夫だろうけど。
「ちょっと不安だな」
お父さんの言葉に、屋台の前なのについ頷いてしまう。
その時、店主と視線が合ってしまいちょっと気まずい気分になる。
「美味しいので大丈夫ですよ」
店主の言葉に、笑ってお礼を言う。
恥ずかしい。
「おい、宿屋が集まっている通りに、不審者が出るらしいぞ」
ん?
それって「あすろ」がある通りの事かな?
「それって不審じゃなくて、病弱な恋人を追いかけている男の事だろう?」
病弱な恋人?
病弱と言えば、勘違いして探しているあの男性を思い出すな。
「そうなのか? 知らなかった。男は悪い奴なのか?」
「それはそうだろう。病弱なのに、逃げているんだから。その男、詳しい話は一切せずに、宿に泊っている宿泊客にしつこく話を聞いてくるらしいぞ」
話をしている男性2人を見る。
冒険者ではなく、村の人のようだ。
「お父さん。今の話」
「あの男だろうな」
人を探しているのに、どうしたら恋人に逃げられたって事になるんだろう。
というか、まだ探しているんだ。