670話 リーリアさんとスキル
「アイビー、大丈夫だったか? 悪い、遅くなった」
心配そうな表情で、お父さんが駆けつける。
どうやら、ようやく若い冒険者達から解放されたみたい。
「大丈夫だよ」
お父さんを見ると、少し疲れた表情をしている。
大変だったんだろうな。
「それにしても、何がしたかったんだろうね?」
リーリアさんの言葉に首を横に振る。
あの男性が何をしようとしたのか、さっぱり分からない。
「何を聞かれたんだ?」
「えっと、ガバリ団長に宿の傍で会った事があるかって聞かれた。でも、最初はこの近くでと聞くから『会ってない』って答えたら、ちょっと興奮したみたいに聞き返すから驚いちゃった。でも良く聞けば、宿の近くだったから、『会いました』って答えたんだけど、予想外の返答だったみたいで態度が変だったよ」
お父さんが私の返答に、首を傾げる。
「難癖を付けたかったのかもしれないが、それじゃ無理だろうな」
難癖?
えっ、私を非難する所を探していたの?
「嘘つきとでも言って追い詰めて、何かアイビーにさせようとした可能性がある。まぁ、話を聞く限り成功するとは思わないが」
嘘つきか。
だから「会っていない」と言ったら興奮するほど喜んで、「会った」と言ったら欲しい返答じゃなかったから驚いたんだ。
お父さんの言う事が正しいなら、感情が表情に出過ぎだよ。
「私の事を、すごく甘く見ているよね?」
それが気に入らない!
「そうだな。アイビーは見た目が可愛いけど強かだぞ」
そうそう、私は強か。
えっ?
お父さんは私を、計算高いと思っているの?
ちょっと……複雑な気分になるな。
「アイビーは見た目に反して、強くて容易には屈しない精神を持っているからな。しかも他者の意見にも耳を傾けられる余裕もある。だから、強いぞ」
あっ、違った。
良かったけど、私の評価が高すぎない?
いや、嬉しいけどね。
「確かにアイビーって、見た目からは分からないほど強いよね」
リーリアさんが、お父さんの言葉に納得した様子で頷く。
私って、そんな風に見られているんだ。
ふふっ、「強か」か。
お父さんがリーリアさんの隣に腰を下ろす。
すぐにカゴから果実水を出すと、お父さんに渡す。
「お父さん、飲んで」
水分補給は大切だからね。
「ありがとう」
お父さんと若い冒険者達との特訓が終わったので、特訓室にはアリラスさんとタンラスさんの打ち合う音だけが響く。
「2人の成長は著しいな」
お父さんが嬉しそうに2人を見る。
教えている側からすると、強くなっていく2人を見るのは嬉しいんだろうな。
「私は……置いていかれそう」
リーリアさんの、ちょっと寂しそうな声に視線を向ける。
「彼らとリーリアは、持っているスキルが違う。彼らは戦闘系のスキル持ちだろうが、リーリアは違うだろう?」
リーリアさんが持っているスキルは占い師関係のスキルだもんね。
「役目が異なるのだから、気にする事は無いよ」
「役目」
「そう。彼らは剣で守る。リーリアは、違う方法で2人を守る」
お父さんは、リーリアさんが持っているスキルを活かせと言いたいんだろう。
でも、リーリアさんは占い師のスキルを嫌っている。
大丈夫かな?
「バレないように利用したらいいんだよ。使える物は何でも使わないと、損だろう?」
「損……そうなのかな?」
「そうだよ。スキルのせいで今まで苦労したんだ。これからは、利用して幸せになるんだ」
お父さんをじっと見るリーリアさん。
お父さんも、彼女を見る。
「利用。今でもスキルが夢を見せてきて。それが嫌でずっと拒否していたら、夢を見た事は覚えているのに内容が分からなくなって」
「リーリア。大切な人達の為だけに使っていいんだ。それ以外の事なんて無視したらいい」
お父さんの言葉に首を傾げる。
それ以外とは、何の事だろう?
「それでいいの?」
リーリアさんに力強く頷くお父さん。
もしかしてリーリアさんが見ている夢は、アリラスさん達に関係ない事も見ているの?
「リーリア、強かに生きろ」
「あはははっ。強かに、か。そっか」
リーリアさんが噴き出すと、お父さんも嬉しそうに笑う。
良かった。
リーリアさんは、きっと前に進める。
ピー。
「予約時間終了10分前か。そろそろ、後片付けをしていくか」
「うん」
アリラスさん達も、今の合図で特訓を終わらせたようだ。
木刀など借りた道具を片付け始める。
あっ、アリラスさん達が若い冒険者達に囲まれちゃった。
「この村の下位冒険者達は、強くなる事に貪欲だよな。強くなった分だけ、収入が増えるからなんだろうけど。凄い勢いだよ」
お父さんが、下位冒険者に囲まれて困った表情をしている2人を見て苦笑する。
「あんな困っている2人を見るのは初めてだ。あはははっ、おもしろい」
リーリアさんが楽しそうに笑うと、アリラスさんがこちらを見た。
「リーリア、助けを求めているぞ」
お父さんがリーリアさんを見ると、彼女は笑いを止めて首を横に振る。
「あの子達の勢いが凄いから無理」
まぁ、そうだね。
邪魔をしたら睨まれそう。
「はい。終わり! 終了!」
暫くすると、タンラスさんの終わりを告げる声が聞こえた。
見ると、若い冒険者達の輪から抜け出してきたアリラスさんとタンラスさんがいた。
「リーリア。お前、笑っていただろう?」
タンラスさんが不満そうな表情でリーリアさんに詰め寄る。
「だって、面白かったから」
「助けてくれても」
アリラスさんの言葉に、リーリアさんが首を横に振る。
「無理でしょ。あの子達の勢いすごかったよ」
リーリアさんの言葉に、アリラスさんとタンラスさんは苦笑すると頷く。
「確かに。無理だな」
タンラスさんが疲れた表情をするので、笑ってしまった。
「そろそろ、ここを出ようか」
合図があってから、そろそろ10分。
次の使用者が来る前に出ないと、邪魔になってしまう。
アリラスさんとタンラスさんが、急いで帰る準備を終えると特訓室を出る。
「あっ、風が涼しいね」
「そうだな。そろそろ冬の予定を考えないとな」
「うん」
まずはどの村で冬を越すのか、決めないとね。
「あっ! チャギュさん、ただいま」
宿の前を掃除しているチャギュさんを見つけたリーリアさんが、彼女に向かって手を振る。
「おかえりなさい。楽しかったですか?」
「はい、充実した特訓になりました!」
アリラスさんの言葉に、嬉しそうに笑うチャギュさん。
「満足してくれて良かったわ。それより今日は涼しいから、汗で冷えちゃったんじゃない? お風呂が沸いているから、どうぞ」
「ありがとう」
チャギュさんの提案に、嬉しそうにお礼を言うリーリアさん。
宿に入ると、さっそく用意をしてお風呂に向かう。
私は、特訓に参加はしていないけれどリーリアさんに誘われて2人で入った。
リーリアさんとは部屋の前で別れ、お父さんと泊まっている部屋に入る。
お父さんは、まだ戻って来ていないようだ。
「ぷっぷぷ~」
「さっきは慌ただしくてごめんね。あらためて、ただいま皆」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
「にゃうん」
「ぎゃっ!」
うん、皆元気だね。
……ぎゃっ?
慌てて声がした方を見ると、紫のポーションと格闘しているトロンの姿があった。
どうやら食事をしようとしたけど、瓶の蓋が開かなかったようだ。
ポーションの瓶を全身で抱え込んで、枝を使って一生懸命に蓋を開けようとしている姿は、可愛い。
……あっ、駄目だ。
可愛いから、ついほっこりして見ちゃった。
「トロン、開けようか?」
「ぎゃっ! ぎゃっ!」
トロンから紫のポーションを受け取り、蓋を開ける。
いつものように、お皿に入れようかと思うと枝を伸ばしてくる。
「このまま渡して大丈夫?」
前は瓶の重さにふらついていたけど。
「ぎゃっ!」
「そう?」
トロンにポーションを渡す。
瓶を支えようとしたけど、トロンは瓶の中に枝を突っ込んだ。
不思議に思い見ていると、瓶の中身がどんどん減っていく。
「枝からも吸収できるようになったんだね」
前は根っこからだったよね?
これって、トロンの成長?




