666話 仕留めた!
アリラス:元ガルス
タンラス:元エバス
リーリア:元アルス です。
アリラスさんを先頭に洞窟の奥に進むと、様々な種類の魔物が洞窟の奥から姿を見せた。
色々な洞窟に入ってきたけど、こんなに様々な種類の魔物を1つの洞窟で見たのは初めてだ。
「様々な種類の魔物がいるんだね」
「森の中の洞窟でも、魔物は見かけるだろう?」
お父さんが不思議そうに、私を見る。
「いるけど、1つの洞窟にこんなに種類がいた事はないよ」
森の中の洞窟にも、魔物はいる。
でも種類は多くて3種類だった。
それとも気付いていないだけでいたんだろうか?
「あっ、そうか。今までアイビーが入った洞窟は、森の奥にある洞窟ばかりだったな」
森の奥にある洞窟だと、魔物の種類が減るのだろうか?
「そもそも森の奥で生き延びる事が出来る魔物は、種類が限られている。その中で洞窟を好む魔物はもっと絞られる。だから森の奥にある洞窟には、2、3種類の魔物しか住みつかないんだろう」
あっそういう事ね。
お父さんの説明に納得して頷くと、前方から魔物が多数近付いている事に気付いた。
気配が重なっているので少し数の把握が難しい。
でも、少し集中すれば……14匹?
違う、15匹だ!
「一気に襲って来るぞ。アイビー、気を付けてくれ」
「分かった」
アリラスさんの声に、小さく深呼吸する。
もう一度気配を探って、魔物の数を確認する。
……間違いない、15匹だ。
さっきまでは多くても7匹だったので、一気に倍の数の魔物がこちらに向かって来ている。
「落ち着いて」
「うん」
お父さんの声に、1回深呼吸をする。
今日のお父さんは見守りを優先するので、手を貸してくれるのは本当に危なくなった時だけ。
なので、雷球で魔物をちゃんと倒せないと、アリラスさん達の負担になってしまう。
そうならないために、任された魔物はしっかり仕留めないと。
「落ち着け」
自分に言い聞かせながら、手に持っていた雷球をギュッと握る。
1回使いきりなので、外さないようにしっかりと魔物を捉えてから投げないと。
「来た!」
アリラスさんの声が洞窟内に響くと、魔物が一気に押し寄せて来た。
洞窟内での戦い方に慣れてきたのか、動きが良くなっているアリラスさんとリーリアさん。
それでも数が多いのか、3匹が2人を越えて私とタンラスさんに向かって来た。
「右、大丈夫か?」
「はい」
大丈夫かどうかは分からないけど、頑張る!
「もう少し近付いてから……」
初めてなので、当たるか少し不安がある。
なので、魔物がある程度近付いてから雷球を投げる事にする。
危ないけど、確実に倒したい。
「よしっ」
近付いた魔物に、雷球を勢いよく投げつける。
「ギャン」
ドサッ。
「当たった!」
投げた雷球は、予定した魔物の胸の辺りにぶつかると一瞬だけ黒く光る。
その光が消えると、魔物の叫び声と地面に倒れ込む音が耳に届いた。
ホッと安堵しそうになるが、まだ魔物はいる。
すぐにポケットから新たな雷球を取り出し、魔物の気配を確認する。
残っている魔物は2匹。
この2匹は、他の魔物と違い体が大きく力が強いみたい。
アリラスさんとタンラスさんが、それぞれ戦っているけど少し苦戦しているのが分かった。
2人の息が上がっているので、疲れで動きは少し悪くなっているのかもしれない。
「ちょっとだけ動きを止められたらいいよね」
魔物の体格は中型だけど、大きめ。
雷球では仕留められないと思うけど、動きを少しは止められるはず。
雷球を持って、戦っているタンラスさんと魔物に近付く。
ある程度近付くと、持っていた雷球を魔物に向かって投げた。
体が大きいと、ぶつけやすい。
「グワッ」
雷球が当たった魔物は、腕を振り上げたまま動きを止め、体を震わせた。
その瞬間をタンラスさんは見逃さず、一気に魔物に迫ると胸に剣を突き刺した。
「ギャワウ」
タンラスさんの隣に倒れ込む魔物を確認してから、アリラスさんを見る。
彼の方はリーリアさんが、助けに入ったようだ。
「疲れた~。初心者用の洞窟でも、このレベルの魔物が出てくるんだな」
アリラスさんが、地面に座り込むと息を吐き出す。
リーリアさんも、疲れた表情をして傍にあった岩に座り込む。
「今倒した魔物のレベルは、この洞窟に少し合わないな」
ん?
お父さんを見ると、ミッケさんから貰った洞窟の一覧表を見ていた。
「お父さん?」
「ミッケから貰ったこの一覧には、出てくる魔物についても書いてあるんだが……今倒した魔物の事は一切書かれていないんだよな。つまり、今まではこの洞窟に出なかったんだと思う」
「異常なんですか?」
「いや、たまにそれまで出なかった強い魔物が出たり、その洞窟に合わない力を持った魔物が出たりする事はある。だから、異常とまでは言わないが。少し気になる事は気になるな」
そうなんだ。
大丈夫かな?
ん?
足先に丸い石があるのが見えた。
その石は他とは違い、少し光っているように見える。
「これ……あっ、魔石だ」
石を手に取って見ると、魔石だと気付く。
ただいつも見ている魔石よりかなり濁っているので、レベルは低いだろう。
と言っても、初めて魔物を倒した場所に落ちていたので、初めてのドロップ品になる。
これはちょっと嬉しいかも。
「こっちにもあるよ。あっ、これもそうだ」
リーリアさんが周りを確認して、落ちている魔石を拾い集めて見せてくれた。
彼女の手の中にあるのは、だいたい同じレベルの魔石が全部で7個。
私ももう1つ拾ったので、全員分を合わせると9個の魔石を手に入れる事が出来た。
「洞窟を出たら、戦利品を自警団員に売って、うまい物でもたべようか」
売って?
お父さんを見ると、魔石を1つ手に取って見ている。
「屋台で何か買えるほどのお金には、ならないと思いますが」
アリラスさんの言う通り、初めてドロップさせたのは嬉しいけど、どう見ても魔石のレベルは10か9だろう。
「外にいる自警団員に渡すと、屋台で使える商品券が貰えるんだよ」
商品券?
「下位冒険者を助ける制度だな。ドロップした物がどんな物でも、1つにつき商品券1枚」
「それって、俺達が貰っていいのでしょうか?」
確かに。
タンラスさんが言うように、下位冒険者だけどアリラスさん達は下位冒険者ではないからね。
「問題ないだろう。冒険者ギルドのカードにしっかり下位冒険者と表示されているんだから」
まぁ、そう言われるとそうなんだけど。
「貰える物は貰わないと損だよ!」
リーリアさんの言葉に、アリラスさんが苦笑する。
「それもそうか」
どうやら、商品券をもらう事が決まったみたい。
「アイビー、倒せたな」
「うん。初めてだから嬉しい」
ちゃんと魔物を仕留められたし、タンラスさんの手助けも出来た。
今日は凄い日かもしれない。
「さて、先に行こうか」
アリラスさんが立ち上がって服の土埃を払う。
「いや、ここが最奥みたいだ」
「えっ?」
お父さんの言葉に、周りを見る。
確かに、今居る場所は少し開けた場所になっている。
そして、見る限り道は今歩いて来た所だけのようだ。
「あっ、本当にこの場所が最奥みたい。見て!」
リーリアさんが、洞窟の壁に向かって灯りを向ける。
「わっ『お疲れ様』だって」
まさか、洞窟の壁に文字を刻むなんて思いもしなかった。
「これだと洞窟の終わりが分かりやすいな。さすが初心者用の洞窟か」
お父さんの言葉に頷きながら、壁の文字を触る。
結構しっかり彫られているみたい。
彫るの、大変だっただろうな。
「さて、ここが最奥なら戻ろうか」
お父さんの声に、洞窟を今度は出口に向かって歩き出す。
「帰りも魔物が出てくる可能性が高いから、気を抜かないように」
そうだった。
洞窟を出るまでは、気を抜かないように言われていたんだった。
よしっ、最後まで頑張ろう。