662話 そんな決め方?
まだまだ私の知らない事は多いなと思いながら、カゴに向かって祈る3人の姿を見る。
それにしても、名前を決める方法に驚かされるとは思わなかった。
食後、今度こそ名前を決める事を決意した3人は、それぞれ思いつく候補を上げた。
そこまでは良かったのだけど、そこから1つを選ぶのが難航した。
3人共、候補に挙がった名前ならどれでもいいという考えだったから。
どうするのかと思っていると、すぐに「運導」にすると言いだして首を傾げた。
初めて聞く言葉だったのでお父さんに聞くと、まさかの「運任せ」だったので驚いた。
でも、この「運導」で名前を決める方法はよくあるらしい。
初めて聞いたので驚いたが、子供に候補の名前が複数ある時は普通に使う方法みたいだ。
方法は、カゴの中に候補に挙がった名前を書いた紙を入れ、どんな未来が来て欲しいかを祈り、カゴの中から1つの紙を選ぶ。
そこで書かれていた名前が、「運命に導かれて選ばれた名前」という事になるという。
決して「運任せ」とは思わないみたい。
捉え方が違うと、決まった名前が特別に感じるから不思議だね。
「これ!」
アルスさんがカゴの中から1つの紙を取り出す。
どんな名前になったのか、ちょっとドキドキする。
「えっと、私は、リーリアに決定ね」
リーリアさんは、病気を治すポーションに必要な薬草の栽培を成功させた事で有名な女性だと聞いた。
病気を治すポーションには複数の薬草が使われているが、一番大量に使う薬草の栽培が出来るようになったおかげで、値段が下がり誰でも使えるポーションになったらしい。
「俺は、アリラスだな」
ガルスさんが、紙に書かれている文字を私達に見せる。
「俺は……あっ。タンラスみたいだ」
エバスさんの言葉に、少し驚く。
本当に、「運命に導かれて選ばれた名前」みたいだ。
なぜなら、アリラスさんとタンラスさんは兄弟の名前だから。
それを、兄弟であるガルスさんとエバスさんが選ぶなんて凄い。
しかも、アリラスさんとタンラスさんは上位冒険者として有名だ。
「凄いね。こんな事があるんだね」
アルスさんは、感動した様子でガルスさんとエバスさんが選んだ紙をテーブルに並べて見ている。
確かに、運命はあるのかもしれないな。
候補に挙がっていた名前は、ガルスさんが19個でエバスさんが22個。
そこからアリラスさんとタンラスさんを選ぶのだから。
「さて、これから俺達がする事は……名前を間違わずに呼ぶ事だな」
「「「「あっ」」」」
お父さんの言葉に、全員が固まる。
そうだよね。
名前が決まったんだから、新しい名前で呼ぶのが当たり前。
大丈夫かな?
凄く心配なんだけど。
「あっ! どうしよう。ミッケさんとカギュさんに名前を言っちゃった! それにチャギュさんにも!」
あっ、そうだった。
チャギュさんには、宿に来たその日に。
ミッケさんとカギュさんには、今日の夕飯の時に自己紹介をしてしまった。
「大丈夫だろう。彼女たちも訳ありでここにいるみたいだから。名前を変えたと言ったら察してくれるはずだ。既に、何か感じているようだったし」
お父さんの言葉に、ミッケさんとカギュさんを思い出して頷く。
確かに、大丈夫のような気がする。
「まぁ、明日の朝に名前が変わった事を伝えて様子を見ておくよ。さて、そろそろ部屋に戻って休もうか」
お父さんの言葉に全員が時計を見る。
確かに、寝るにはいい時間だね。
「あ~、この癒しの時間の終わりかぁ」
アルスさんが、隣で寝ているソラをギュッと抱きしめる。
「ぷ~?」
「ごめんね、起こして。でも、部屋に戻る前にギュッとさせてお願い」
「ぷっぷぷ~」
ソラの鳴き声に、嬉しそうな表情のアルスさん。
ソラ達に会いたいという彼女の希望で、泊っている部屋に招待したけど本当に嬉しそうだな。
「あっそうだ。ドルイドさん、洞窟には行く予定なの?」
アルスさんがお父さんを見る。
お父さんは少し考えると、頷いた。
「この村に来た冒険者が、洞窟に興味を示さないのは変だからな」
冒険者がオカンコ村に来る理由は、洞窟みたいだもんね。
冒険者として登録するなら、洞窟に行くのは当たり前か。
ただ、お父さんと私は冒険者ではないから、それには当てはまらないけどね。
でも、私も興味があるので行ってみたい。
「まぁ、3人の登録が終ってからだろう」
ガルスさん達の名前が変更出来て、冒険者登録が終ってからか。
「それと、アイビーの装備が揃ったらだな」
私の装備?
不思議そうにお父さんを見ると、苦笑された。
「アイビーは、洞窟に入るための装備が全くないから」
「そうだっけ?」
「あぁ、いつもはシエルが一緒だから、それでも問題ない。でも、村の管理する洞窟に入るなら、シエルはバッグの中に隠れてもらう必要がある」
そうか、シエルはこの村の管理する洞窟では活躍できないのか。
ちょっと、残念だな。
お父さんの言葉に、ベッドで寝ているスライム状態のシエルを見る。
シエルは洞窟の中で暴れるのが好きだから、ちょっと可哀想かもしれないな。
「シエルという守りがいない以上、装備はしっかりしておかないと危険だ」
確かに、それだと装備を揃えないと駄目だね。
そういえば、お父さんと初めて洞窟に入った時に、何度も「その格好で?」と確認を取られたっけ。
その当時は、どうしてそんな質問を繰り返すのか分からなくて、困ったんだよね。
まぁあとで、私の格好が洞窟に向いていないためだという事は分かったんだけど。
「あれ? 今はお父さんも洞窟にそのまま入って行くよね? お父さんの装備は大丈夫なの?」
一緒に買うのかな?
「最近は、シエルがいるからそのままの格好で入っていたな。でも、装備は全て揃っているぞ」
そうなんだ。
ガルスさん達は装備を持っているのかな?
「俺達は全て揃えていますよ」
私の視線に気付いたガルスさんが、問題ない事を教えてくれた。
そっか。
私だけが持っていないのか。
「それにしても、ドルイドさんは装備をちゃんと持っていたんですね。2人が洞窟に、なんの装備も持たずに入って行くから驚いたんですよ。どんどん入って行くから聞く暇もなかったですし」
「そうそう。あれは驚いたよな」
ガルスさんとエバスさんをどうやら驚かせていたみたい。
隣でアルスさんも頷いているから、彼女もだね。
あっもしかして、洞窟に入る時に3人の顔色が悪かったのは、準備もせずに入ったから?
それだと悪い事をしちゃったな。
「そういえば、3個目の洞窟だったかな? シエルが急に洞窟に向かって鳴いた時があったでしょ?」
そういえばあったね。
シエルが時々する行動だから、最初は驚いたけど今では慣れちゃったな。
「あまりに驚いて腰が抜けそうだったのよ」
えっ、アルスさんはそんな事になっていたの?
気付かなかったな。
だから、エバスさんがずっと隣で心配そうにしていたのか。
そういえば私は、シエルが一緒の洞窟しか知らないな。
ん~、洞窟での常識を知らないかもしれない。
「いい機会だから、洞窟に入る時の常識を覚えようかな」
私の言葉に、苦笑するガルスさん達。
本気だからね。
「とりあえず、シエルがいない洞窟に慣れないとな。洞窟にいる魔物は、普通は逃げずに襲ってくるから」
そうか。
それが普通なのか。
「にゃうん」
ん?
「シエル?」
ベッドの上で寝ていたシエルが、起きてじっと私を見ている事に気付く。
どうしたんだろう?
「にゃうん」
ん?
声がいつもより低いような……もしかして不貞腐れている?
でも、どうして不貞腐れているんだろう?
「もしかして、洞窟を一緒に楽しめないのが不満なの?」
「にゃっ!」
「それは、ごめんね。村が管理している洞窟は他の冒険者がいるから、姿を見られる可能性が高いの。だからシエルは、バッグに隠れてもらわないと駄目なんだけど」
やっぱり私1人が楽しむのは可哀想かな?
どうしよう。




