69話 炎の剣と雷王
討伐の終了が宣言され、沢山あったテントが次々と片付けられて消えていく。
その光景を見ながら、自分のテントを片付ける。
横では、ヌーガさんとシファルさんがテントを片付けている。
何処からともなく、町へ帰れるうれしさと、怪我をせずに終われた喜びの声が聞こえてくる。
様子を見ていると、旅支度が終わったグループから次々と町へ帰っているようだ。
「ゆっくり話すことが出来なかったわね。残念だわ」
ミーラさんが近づいて来る。
彼女の姿に少し緊張する。
「いろいろとお世話になりました」
おかしな態度にならない様に注意しながら、頭を下げてお礼を言う。
近くにはシファルさんとヌーガさんがいる。
大丈夫。
「オトルワ町に着いたら、町を紹介するわね」
「……時間があったら、お願いします」
どうしよう。
オトルワ町に着いたら、1人だ。
やっぱり、すぐに町を出発した方がいいかな?
でも、誰かに見張られている可能性があると言っていたし、どうしたらいいのかな。
「アイビーは、しばらく俺達と一緒に行動する予定だ」
ん?
どういう事だろう。
ヌーガさんを見るが、まだ慌ただしく旅の準備をしている。
「そうだったの……まぁ、時間が空いたら連絡頂戴ね。ギルドに言ってくれたらいいから」
「はい」
ミーラさんを呼ぶ声が聞こえる。
声の方を見ると、ミーラさんの兄弟が離れた場所で手を振っている。
「またね、アイビー」
「はい。また」
笑顔で手を振るミーラさんに手を振りかえす。
離れていく姿に、自然にホッとしてしまう。
何とか今日まで、2人きりになることを回避できた。
あの夕飯の後から、炎の剣の誰かがいつも一緒に居てくれた。
他にもローさんやマールリークさんも。
「お待たせ~」
討伐隊の仕事に、強制参加させられていたラットルアさんが戻って来た。
その後ろにセイゼルクさんの姿となぜか討伐隊4人の姿も。
「お疲れ様です」
「リーダーってば、人使いが荒い!」
「まだ元気だな、仕事はまだまだあるぞ」
「勘弁!」
「ハハハ、アイビー、一緒に町まで戻るから、よろしくな」
「よろしくお願いします」
討伐隊も一緒だったら心強い。
もしかして私の為かな、と言う思いから、頭を下げる。
皆から、なぜか頭を撫で繰り回された。
朝、一応梳いてきているのだがぼさぼさだろうなっと思っていると、ローさんが直してくれた。
その手がなぜか手慣れているような気がする。
「ローさん、何か手慣れてますね?」
「そうか? あぁ、息子たちの髪を整えているからかな」
家族がいるのか、知らなかったな。
「息子さんがいるんですか?」
「2人、可愛いぞ~」
ローさんが家族の話をする時、なんだかその声に温かみが増す。
何だか、良いなそういうの。
「そろそろ、行くか」
リーダーの声で動き出す。
皆、大人だから遅れないようにしないと。
ソラは可哀想だけど、当分バッグの中が続いてしまうな。
バッグの外からそっと撫でるように手を動かす。
ごめんね、ソラ。
…………
2日間の町への旅は順調に進み、あと少しで町へ着く。
「アイビー、あそこが俺たちの住むオトルワ町だよ」
ラットルアさんの視線を追って、町の方向へ視線を向ける。
少し小高い丘の上から見た町は、想像を超えた大きさだった。
「すごい……大きい町ですね」
「でしょ! 自慢の町だよ」
ラットルアさんに手を引かれ、少し急ぎ足で町へと向かう。
「急ぐとアイビーがこけるぞ」
後ろからセイゼルクさんの声が聞こえる。
「あっ、ごめん早かった?」
「ちょっとだけ、でも大丈夫です」
この2日間の旅で、また少し関係が近づいたような気がする。
そう言えばリーダーたちは、雷王と言うグループ名だった。
討伐隊が名前だと思っていたと言ったら、ものすごくリーダーが不貞腐れた。
雷王と言う名前に思い入れがあるようで、とても悪い事をしてしまったと思う。
オトルワ町にも立派な門があり門番がいる。
門番がラットルアさんの姿を見ると、片手をあげて挨拶をしてきた。
「討伐、お疲れ様です。……どこで攫ってきたんですか?」
攫って?
「そんなことするか! それより手続きしないと、こっち」
手続き?
何の事だろう?
引っ張られる様に連れて行かれたのは、小さい部屋。
そこで紙を渡される。
紙に書かれている事を読むと、【名前・出身の町・目的】を書く欄がある。
出身の町はどうしよう。
そう言えば、ラトミ村から逃げてきた事は言っていないな。
書いた方がいい?
「あっ、読めなかった。悪い」
「いえ大丈夫です。あの出身の町は書かないと駄目ですか?」
「ん?……そう言えば、聞いていなかったな。何処?」
「……ラトミ村です」
「ラトミなのか?」
ラットルアさんとは違う声が聞こえて、あわてて声のした方へ視線を向ける。
そこには門番の人と同じ服を着ている男性。
自警団の人だろうなっと思いながら、視線を合わせて頷く。
「そうか。誰かに保証されているか?」
保証……オグト隊長の事だろうか?
でも、どうやってそれを証明するのだろう。
「えっと、ラトメ村のオグト隊長に」
「何か作ったか?」
「商業ギルドで口座を」
「見せてもらえるか?」
「はい」
腰に巻きつけているバッグから財布にしている小さいバッグを取りだし、白いプレートを取り出す。
「この石の近くに持って来てくれるか?」
……大丈夫なのかな?
中身が表示されるのかな?
「ん? あぁ大丈夫。本物か確かめるだけだから」
「はい」
石に近づけると、石が白く光って消えた。
「問題なし」
「はぁ」
何が起こっているのだろう?
よくわからないのでラットルアさんを見つめる。
すると、ちょっと驚いた顔をしていた。
「?」
「アイビーってオグト隊長に保証人になってもらってたんだな。すごいな」
「えっ?」
「知らない? オグト隊長ってすごい冒険者だったんだよ」
「冒険者をしていたのは聞きましたが、そうなのですか」
「あぁ、憧れている人も多いぞ」
「悪いな。名前と目的だけでいいから、書いてもらえるか?」
「あっ、はい」
紙に名前と旅の目的……目的は何だろう?
捨て場?
それは書けないな、えっと旅の途中かな。
紙を渡すと少し笑われた。
なぜだろう?
「旅の途中って書く奴、初めて見たな。はい」
何か渡される。
見てみると、木の棒で作られた許可証の様だ。
「町への出入りに必要になるから。あと、町から離れる時は返してくれ」
「はい。ありがとうございます」
大きな町は出入りする人数も多くなるから、許可証が必要になるのかな。
すごいな。
「終わったか~」
声に振り返ると、リーダーが部屋の入り口に立っている。
「終わったよ~。アイビー行こう」
「はい。ありがとうございました」
「おぉ」
何故か許可証をくれた男性が驚いた表情でリーダーを見ている。
知り合いなのかな?
よくわからないが、ラットルアさんが急かすので頭を1つ下げて部屋を出る。
部屋の外には皆がいた。
どうやら少し待たせてしまったみたいだ。
「すみません。遅くなりました」
「そうだ、アイビーって隣の村のオグト隊長と知り合いだった」
「そうなのか?」
「はい。保証人になってくれて」
「保証人?」
「ラトミ村から逃げて来たので」
「ラトミか。話は聞いているよ。大変だったな」
リーダーが優しく頭を撫でる。
ラトミ村の名前を聞くと、皆少し苦しそうな顔をする。
今、どんな状態なのか分からないが、ひどいのかも知れないな。