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652話 アバルさん

翌日も、チャギュさんの息子さんお手製の朝食が出てきた。

ただその息子さんの姿を、まだ一度も見ていないのだけど。


「このスープ、凄く美味しい」


チャギュさんが一番お薦めしていたスープは、朝には嬉しい優しい味で体がぽかぽかと温かくなる。


「そうだな。うまいな」


お肉はそれほど入っていないが、お父さんも気に入ったようだ。

どうやって作っているんだろう?

気になるな。


朝食を美味しく頂き、皆で部屋に戻るために階段へ向かう。

今日の朝食も私達だけで、宿に泊まっているはずの3人の姿は無かった。

もしかしたら、会う事は無いのかもしれないな。


「あぁ、そうだ」


ウルさんの声に、全員が視線を向ける。


「今日の早朝に連絡がきて、お昼前にアバルが来られるみたいなんだ。問題は無いか?」


昨日のうちにアバルさんが来ることは聞いていたので、予定は立てていない。


「大丈夫。問題はない」


お父さんの言葉に頷くと、ガルスさん達も頷く。


「それなら、えっと……1階の奥に部屋があるんだ。そこを使わせてもらうように言っておくから、お昼前、11時ぐらいに来てくれ。それより早かったら、声を掛けるから」


アバルさんにとうとう会えるのか、やっぱり楽しみだな。


「ドルイドさん、アイビー。ソラ達と遊びたいのですが、お部屋にお邪魔してもいいでしょうか?」


アルスさんが、お父さんと私を少し不安そうに見る。


「アイビー、大丈夫か?」


「うん。みんなも喜ぶから、来てください」


パッと笑みを見せるアルスさんに、こちらも嬉しい気持ちになる。


「ありがとう。森の中ではずっと楽しく過ごしていたから、昨日は1人で本当に寂しくて」


あっ、そうか。

森の中ではずっと皆が一緒だったもんね。

寝る時も、ソラ達がアルスさん達のところに遊びに行ったりしていたし。


「あの~、俺もいいですか?」


「すみません、俺も」


エバスさんの後にガルスさんも、お父さんと私を見る。

それに笑って頷くと、2人とも嬉しそうな表情を見せた。

気にせず来てくれたらいいのにね。

ソラ達も喜ぶし。


ウルさんは用事があるという事で別れ、5人で私達の部屋に戻る。


「「ただいま」」


「「「お邪魔します」」」


「ぷっぷぷ~」


「てっりゅりゅ~」


扉を開けると、元気に飛び跳ねて迎えてくれるソラとフレム。

ソルはなぜかベッドから落ちて、シエルに心配されている。

何があったの?


「あれ? いないね?」


残念そうなアルスさんの声に、マジックアイテムを作動させている事を思い出した。

急な来客が来ても大丈夫なように、ソラ達の姿はマジックアイテムを使って隠しているんだった。


「ちょっと待って下さいね」


不思議そうにアルスさん達を見上げているソラ達に、ちょっと笑ってしまう。

姿を隠すマジックアイテムの事は話してあるけど、忘れているのかな?


「もしかして、マジックアイテムですか?」


エバスさんが、興味津々の表情で部屋を見回す。


「そうです。部屋に入った人からソラ達が見えないようにしているんです」


テーブルの上に置いてあるマジックアイテムのボタンを押す。


「あっ、見えた。シエル、昨日ぶり~」


アルスさんが傍に来ていたシエルを抱き上げて頬ずりをする。


「にゃ?」


アルスさんの行動に、シエルもちょっと驚いたようだ。

というか、頬ずりなんて今までしてなかったよね?

アルスさんの中で、何が起こったんだろう?


「数時間会えなかっただけで、凄いな」


お父さんが、アルスさんを見ながら苦笑している。

ガルスさんとエバスさんもアルスさんの行動にため息を吐いた。

ただし2人とも、傍にいたソラとフレムをギュッと抱きしめている状態だけど。


暫く遊んで、時間がきたので1階に下りる。


「あっ。ちょうど良かった。今、アバルが来たんだよ」


ウルさんの隣に、がっしりした体格の男性がいた。

彼がきっとアバルさんなんだろうな。

背はお父さんより少し高いぐらいかな。

そして何より……目付きが悪い。

たぶん普通に私たちを見ているだけなんだろうけど、睨みつけられているみたい。


「目付きは犯罪者より悪いが、良い奴だから」


ウルさんの褒めているのか貶しているのかよく分からない説明に、アバルさんが肩を竦める。

その言われ慣れている様子に、ちょっと笑ってしまった。


ウルさんが借りた部屋に入ると、少し豪華な造りになっていて驚いた。


「訳ありの貴族が使用することもあるから、豪華だろ?」


訳ありの貴族って何だろう?


「力のない貴族は、搾取される側だったりするからな」


アバルさんの説明に、なんとなく理解した。

貴族達の間にも、色々あるんだな。


全員が椅子に座ると、ウルさんがアルスさん達を紹介し次に私たちの事を紹介してくれた。


「小さいのに、大変だったな」


「えっ?」


ゆっくりとお茶を飲んでいると、アバルさんにしみじみ言われた。

久しぶりに聞いた「小さい」に少し驚いた。

背も少し伸びたので、ここ数ヵ月は言われなかった言葉だ。


「私は10歳なので、小さくないですよ」


子供は子供だけど。

10歳となれば、下位冒険者になる子も出てくる年だ。

小さいと言われる年齢ではないと思う。


「10歳? それにしては小さいな」


アバルさんの言葉に、ちょっと不服そうな表情になってしまう。

確かに、ちょっと、ちょっとだけ10歳の平均より背は小さいけど。

だけど、これでも成長しているのに!


「アイビーは色々あったんだ。でも、今成長中だから」


お父さんが私の頭をポンと撫でる。

それにうんうんと力強く頷くと、アバルさんがちょっと申し訳ない表情を見せた、たぶん。

目付きが悪いせいか、表情の変化が小さくて分かりづらい。


「この村の10歳と比較するなよ」


ウルさんの言葉に首を傾げる。


「この村の子供はちょっと成長が早いんだよ」


「そうなんですか?」


お父さんを見ると、知らないと首を横に振った。


「そう言えば、そうだったな。数年前に調べて、分かったらしい」


アバルさんが思い出したという風に、頷いた。

だから、私が小さく見えたのか。


「悪かったな。えっと、アルス達の事は聞いていた事と誤差はないようだ」


伝えミスは無かったという事だよね。

良かった。


「俺は、アバル。このオカンコ村のサブギルマスに就いている」


サブギルマス?

ギルマス補佐の事かな?


「サブギルマスは、補佐とは別なんだ。この村独自の役職だ」


私が首を傾げると、お父さんがそっと教えてくれる。

この村独自の役職。

団長、副団長みたいな関係かな?


「ちょっと説明した方がよさそうだな」


アバルさんの言葉に、視線を向けると私とガルスさん達を見ていた。

どうやら理解出来なかったのは、私だけでは無かったみたい。


「サブギルマスは、ギルマスだけが持つ権限をある条件の下なら使う事が出来る存在なんだ。例えば、ギルマスと団長が2人とも不在だった場合、他の村や町では至急の書類だけ補佐が処理して、2人が帰って来たら正しい処理が出来たか確認するだろう。でもこの村では、俺達サブギルマスが処理した書類をギルマスが確認する事は無い。しかも処理する書類は至急の物ではなく全てなんだ」


それは、かなり凄い事ではないかな?


「まぁなんでそうなったかと言えば、頻繁にギルマスと団長が村の外での案件に駆り出されるからなんだけどな」


という事は、あの噂のギルマスと団長が不在というのは本当なのかな?


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 前世の記憶持ちで大人っぽい精神力を持つアイビーちゃん、でもね。もっと子供らしくあっても良いのですよ。それだけに過酷な経験だったのだと感じられ大人たちの同情を誘うわけですね。 10歳は…
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