650話 ようやく合流
冒険者ギルドの出入り口が見える場所に座って、果実団子という甘味を口に入れる。
果物が練り込んであるのでほんのり甘くておいしい。
「おいしいね。赤い方は甘味が強くて、緑の方はさっぱりした甘さだね」
カゴの中にある果実団子を見ながら、アルスさんが教えてくれる。
「オレンジは酸味がちょっと強いですよ」
「そうなんだ」
私の説明に、カゴの中からオレンジの果実団子を取るアルスさんとエバスさん。
お父さんは甘味が強い赤い果実団子に満足そうだ。
冒険者ギルドに視線を向ける。
ウルさん達が列に並んでから既に1時間半以上は経ってしまった。
やはりあの長蛇の列は、甘くなかったな。
冒険者ギルド内では、色々な冒険者達の話に耳を傾けた。
一番に多かったのは、団長とギルマスが不在な事と見つかった洞窟が凄いという事。
次に多かったのが、洞窟から魔物が溢れた事と門番さん達が謹慎処分で荒れているという事だった。
20分ほど冒険者達の話を聞いていたが、これ以上聞くことは無いとお父さんが判断したのでウルさん達を置いて外に脱出。
外に出た瞬間、皆でホッとした。
疲れた体には甘味という事で目についた甘味を手に休憩中なんだけど、きっとウルさん達に文句とか言われるだろうな。
先に外に出るという合図を送ると、私たちの事を2人で恨めしそうに見ていたからね。
「まだ出てこないね。次は何を食べる?」
アルスさんが並んでいる屋台に視線を向ける。
「えっ、次を食べるんですか? 次は、ガルスさん達が戻って来てからにしたらどうですか?」
あっ、エバスさんも次に食べる物を探している。
いいのかな?
「大丈夫。ウルさんは分からないけど、ガルスはちょっと怒るぐらいだよ。いつもの事だもん」
そうだね。
アルスさんとエバスさんのやり取りが行き過ぎると、よく怒られているよね。
ただ2人とも、怒られ慣れているのか聞き流しているけど。
ガルスさんが重いため息を吐く姿を思い出して、ちょっと可哀想になってしまった。
「もう少しだけ、2人を待ちませんか?」
オカンイ村で会ったアルスさんは、ガルスさんやエバスさんに遠慮をしているように見えた。
実際に色々あって遠慮していたみたいだけど、元に戻ったとエバスさんが言っていた。
ガルスさん曰く、「仲間想いだけど、良い性格している」らしい。
「アイビー」
何だろう?
アルスさんを見る。
「大丈夫だよ。ガルスの怒りはすぐに落ち着くから」
どうやら、2人を待つ気はないみたい。
「あの店はどうだ?」
それはエバスさんも同じようだ。
お父さんを見ると、苦笑していた。
「お父さんも止めてよ」
「悪い。ただ、2人が戻って来たからもう大丈夫だと思ってさ」
えっ?
冒険者ギルドへ視線を向けると、疲れた表情のウルさんとガルスさんの姿が見えた。
「お疲れさん。かなり待たされたみたいだな」
お父さんの言葉に、ウルさんとガルスさんが苦笑する。
「本当に、参ったよ。なかなか進まないから。しかも俺たちの順番が来て話を始めたら途中で『奥へどうぞ』と言われるし」
リュウの事だったから奥なのかな?
鳴き声がここまで響いていたみたいだし。
「そうか。やっぱり奥へ行ったのか」
お父さんは予想していたのか。
「まぁな。リュウの事もだけど、死んでいた奴らの事を詳しく聞かれた」
冒険者達の方?
「どうやら、奴らはある貴族にこの村で雇われたらしい。冒険者の身元が確実に分かる物が落ちていなかったか聞かれたよ。だから、死んだ奴が持っていた契約書を渡しておいた」
えっ、契約書?
見回りをした時に、見つけていたのかな?
凄いな。
「契約書なんて、よく見つけたな」
「まぁな。血で汚れていたが、しっかり内容は読める状態だったよ。持っていた奴はほとんど食われていたから、契約書が残っていたのは奇跡だな」
損傷が激しかったのなら、確かに奇跡だね。
「それより何を食っていたんだ? 羨ましい」
ウルさんが空になったカゴを見る。
「あるぞ」
お父さんが、もう1つ同じ大きさのカゴを出して蓋を開ける。
それにガルスさんが驚いた表情を見せた。
「ドルイドさんとアイビーさんのお陰だな」
ん?
「アルスとエバスだったら、絶対に俺の分は無いから」
断言した。
でも、正解かな。
2人の分を買おうとしたら、アルスさんとエバスさんが驚いていたからね。
「「あはははっ」」
アルスさんとエバスさんが視線を逸らして笑うと、ため息を吐くガルスさん。
「まぁ、今回はあったんだからいいだろう。どれがうまかった?」
ウルさんが、お父さんからカゴを受け取ってガルスさんに見せる。
少し嬉しそうな表情をしたガルスさん。
甘い物が好きだからね。
3種類の甘さの違いを説明すると、それぞれ嬉しそうにカゴに手を伸ばした。
食べている2人の様子から、結構気に入ってくれたみたいなので良かった。
「そう言えば、罠だろうという噂が飛び交っていたが、あれに引っかかる奴なんているのかな?」
食べながら首を傾げるウルさん。
「たぶん王都から来た貴族だろうけど、ちょっとやり過ぎのように感じるな」
お父さんの言葉にウルさんとガルスさんが頷く。
「そうなんだよな。そんな下手な噂の流し方は無いだろうと、話していた冒険者に言いそうになったよ。ただ、別の見方をするなら罠に気付かせようとしているともいえるよな」
ウルさんの言葉に、全員で頷く。
そう、まるで罠に気付けと言わんばかりの噂の流し方と村の状態なんだよね。
貴族に忠告しているのか、逃げるように言っているのか。
別の思惑があるのか、さっぱり分からない。
「まっ、この村の自警団と両ギルドの職員は曲者ぞろいだ。何か理由があるんだろう」
曲者ぞろい?
「とりあえず、宿に向かうか」
そう言えば、今日から泊まる宿については「任せてくれ」とウルさんに言われていたんだった。
「どこに泊まるんですか?」
お風呂があったらいいな。
「すぐそこだよ。大通りから2本道を曲がったところにあるんだ」
カゴを片付けたウルさんが、歩き出す。
その後を追うように、人を避けながら大通りを進む。
途中で、はぐれそうになってしまったので、慌ててお父さんが着ている上着の裾を掴む。
「大丈夫か?」
「うん」
いつも人の多い場所は避けていたので、人を避けるのが下手みたい。
この村にいる間に、慣れた方が良いかな?
王都はもっと人が多いだろうから。
「あそこの角を右に曲がったら、人がぐっと減るから」
ウルさんが私を気にしながら、先を指す。
「ありがとうございます」
あと少し。
大通りの5本目の角を右に曲がる。
良かった。
本当に人が減った。
「それにしても、さっきよりすごい人出だな」
お父さんが後ろを振り返る。
そう言えば、村に入った時より人が多くなっていたかも。
「時間的に、夕飯を食べに来た奴らと、夕飯の食材を買いに来た奴らだろう」
そう言えば、もうそんな時間だったな。
「こっちだ」
ウルさんの後を歩いて数分。
「あすろ」という、見覚えのある名前がついた宿が見えた。
そうか、アルスさんは保護対象だったね。
あまりにそう見えないから、忘れていたな。
「あすろ? どこかで聞いたことがある名前なんだけど……どこだっけ?」
アルスさんが首を傾げながら、宿「あすろ」の前に立つ。
「この名前の宿は、あちこちにあるからな。そのどれかを見たんだろう」
ウルさんの説明に、頷くアルスさんとエバスさん。
ガルスさんはちょっと首を傾げウルさんを見た。
何か、気付いたのかな?
「部屋はあるはずだから、行こうか」




