646話 子玉?
お父さんが石に手を伸ばす。
「触っても大丈夫?」
「何かあったら困るか。枝は……あった」
お父さんは、石の近くに落ちていた枝を拾うと、石をそっと突く。
「えっ?」
枝で突いただけでボロボロと石の表面が崩れていくので、少し驚いてしまう。
そんな簡単に、石は崩れないよね?
「アイビー、これは石ではないみたいだ」
お父さんが、石に見える物の表面を枝で少し擦る。
ボロボロと落ちた表面の中から、白い部分が見え始める。
「これ……リュウの子玉だ」
リュウのこたま……ごは、いらない?
こたま?
あっ、……卵の事だ!
えっ、でもそれならどうして、知っている気配だと思ったんだろう?
リュウの気配なんて、知らないはずなんだけど。
「それは本当にリュウの子玉で間違いないの?」
「あぁ、この形と大きさ。たぶん、間違いないだろう。どうした?」
「その子玉から感じる気配を、どこかで感じた事があるような気がしたんだけど。でもリュウとは関わった事が無いから、どうしてかなって」
「それはたぶん」
えっ、分かるの?
「オール町の近くの森で、リュウが死んでいただろう?」
「うん」
残った魔力で魔物が暴走してしまった、原因のリュウだよね。
「たぶん、あのリュウの気配がオール町周辺に残っていたはずだ」
死んでるのに、気配?
「ははっ、不思議そうだな」
「うん。気配は生きている物にしか、無いと思ってたから」
ありえるのかな?
でも、お父さんが言っている事だし。
「長く生きたリュウの気配は、死んでも数年は死んだ周辺に残るらしい。ただ、数年も影響を残すリュウの気配は、生きている時から森と同化しているみたいで、リュウの気配だと気付ける者はいないと文献に書いてあったけどな。アイビーが何処かで感じたと思うのは、オール町かもしくはリュウが通った場所をアイビーも通ったのかもな」
「リュウの気配は森と同化してるの?」
「あぁ、だから傍にいたとしても、目で見えるまで気づかないんだ。まぁ、そんなリュウに成長するには、長い時間が必要だと書かれてあったな」
そうなんだ。
リュウとは関わることが無いだろうから、あまり調べてないんだよね。
ただ、上位魔物で恐ろしい存在というだけ。
「しかし、なんでこんな場所にリュウの子玉があるんだ?」
「おかしいの?」
「あぁ、こんな森の中に落ちているはずがない。誰かが、この場所に持ってきた可能性が高いな」
それって、どこかから盗んできたという事かな?
「ドルイド。帰ってこないから来たんだけど、何かあったのか?」
ウルさんの声に視線を向けると、手を振ってこちらに向かって来ていた。
後ろには、ガルスさん達もいる。
「リュウの子玉があるんだ」
「はっ? こんな場所に?」
ウルさんが、リュウの子玉を見ると眉間に皺を寄せた。
「冒険者が不当に作った捨て場にリュウの子玉か。どう考えても、馬鹿がいたという事だな」
ウルさんの言葉に首を傾げる。
さっぱり意味が分からない。
不当な捨て場とリュウで、馬鹿?
馬鹿というのは冒険者達の事かな?
「どういう事ですか?」
ガルスさんが、興味深げにリュウの子玉を枝で突いている。
「リュウをテイムしようとしたか、もしくは子玉を売ろうとしたか。どちらにしても馬鹿だ」
お父さんの言葉に、ガルスさん達が驚いた表情をする。
「リュウをテイム? あっ、生まれてすぐなら出来ると考えたんでしょうか? それに売るって、子玉とはいえ、リュウを?」
まだ力の弱い生まれたばかりのリュウなら、テイム出来ると思ったのかな?
それに、売る?
リュウが孵るかもしれない子玉を欲しがる人がいるの?
「貴族や金持ちが、欲しがっているんだよ。リュウを。で、持ち運べる子玉を狙うんだよな」
「無謀ですよね?」
ガルスさんの言葉に、お父さんとウルさんが頷く。
「あぁ、無謀だ。例え成功して子玉を手に入れたとしても、孵った瞬間にリュウの子に喰われるか。親のリュウが子供を探しに来て大暴れするか。どちらにしても死ぬな」
それなのに、欲しがるんだ。
ウルさんの説明に、苦笑してしまう。
「今回は恐らく、目的はテイムだ。捨て場にマジックアイテムが大量にあった。どんなマジックアイテムなのか見てないが、気配や魔力を誤魔化す物や見た目を誤魔化す物が多いんじゃないか? あとは、子玉の孵化を早める可能性のあるマジックアイテムだろう」
お父さんがため息を吐きながら、子玉のヒビの部分に枝を刺す。
ブスッと枝が子玉の中に入ると、パカリと子玉が割れた。
「空か」
お父さんの言葉にホッとする。
子玉の中で亡くなっているかもしれないと思っていたけど、空という事は孵ったんだよね。
あっ、でも……生まれたという事はテイムされてしまったとか?
「アイビー」
「はい?」
お父さんを見ると、ポンと頭を撫でられた。
「リュウの子は生まれてすぐから、かなり強い。それに親が傍にいないから、不安定になっていた筈だ。文献には、親元にいないリュウの子はかなり凶暴になると書いてあった」
つまり……生まれた瞬間でも、リュウの子のテイムは無理。
「そっか。良かった」
「子玉を盗んできた冒険者は今頃、リュウの子の栄養になってるよ」
……栄養。
なるほど。
そう言えば、ウルさんが言ったね「孵った瞬間にリュウの子に喰われる」と。
お父さんを見ると肩を竦めた。
「ははっ」
子玉を盗んだ冒険者を、馬鹿と言った理由が分かった。
何をしても食べられる結果なのに、手を出したからか。
「リュウの子が孵ったのは空の子玉から予想できるが、親のリュウに会えたと思うか?」
ウルさんが少し不安そうにお父さんを見る。
「リュウは愛情深い魔物だと文献にもあった。きっと親が探して見つけているだろう」
「そうだよな。それじゃないとかなり困った事になる」
ウルさんが、周りを見回す。
一緒になって周りを見るが、特に気になる物はない。
もちろんリュウの子の姿もない。
「あっ、あれ」
アルスさんの声に視線を向けると、少し遠いが人が倒れているのが確認できた。
「あれは……人だな。いや、人だった物か」
ウルさんの嫌そうな表情に、お父さんが苦笑する。
確かに、人の足が見える。
ただし見えるのは足だけ。
上半身は、リュウの子の栄養になったみたい。
もしくは、他の魔物の栄養になったか。
「グワァ~……」
「えっ?」
いきなり森中に響いた大きな鳴き声に、体が震える。
次の瞬間、ギュッとお父さんに抱きこまれたのが分かった。
気配を探すが、何も感じ取ることが出来ない。
どこ?
「もしかして、リュウか?」
お父さんの言葉に、緊張してしまう。
近くにリュウがいるの?
「分からないが、気配は感じないな」
それって、それなりに長い時間を生きたリュウという事だよね。
ウルさんの言葉に、全員に緊張が走ったのを感じた。
「グワァ~!」
声が大きくなった!
近付いてる?
「にゃお~ん」
えっ、シエル?
姿は見えないけど、今の鳴き声はシエルだ。
どうしよう。
リュウに向かって行ったの?
周りに視線を走らせるが、どこにもいない。
「ぷっぷぷ~」
「ソラ」
足元を見ると、ソラ達が傍に来ているのが分かった。
「グワッ」
「あっ。声の雰囲気が変わったな」
ウルさんが少し安堵した様子を見せた。
もう大丈夫なの?
「にゃん」
「リュウとアダンダラは、会話が出来るのか?」
お父さんが首を傾げると、ウルさんも分からないと首を横に振っている。
文献にも載っていないみたいだ。
「あっ、上! 上!」
アルスさんの声に、上空を見る。
「リュウだ」
上空を飛んでいくリュウの姿が見えた。
あっ、小さなリュウがいる。
「良かった~。リュウの子も一緒だな」
ウルさんが座り込んでため息を吐く。
「ふぅ」
お父さんが小さく息を吐くと、ガクッとその場に膝を付いた。
「お父さん! 大丈夫?」
「ははっ。さすがに今のは怖いな」
上空を見るが、既にリュウの親子の姿はない。
「帰ったのかな?」
「たぶんな。未知の大地に戻ったんだろう」
未知の大地?
「お父さん、未知の大地ってどこの事?」
地図にも、そんな場所は載っていなかったけどな。
「王都のもっと向こう側、人が入る事が出来ない場所があるんだ。そう言えば、地図にも載っていなかったな」
地図にもならない未知の大地か。
すみません、孵化する卵の事を子玉というのですが、ミスをして子卵や小卵と書いてしまいました。
修正済みです。
教えてくれた方、ありがとうございます。




