68話 個性的な冒険者たち
ラットルアさんと協力して、何とか全員分の夕飯を作る事が出来た。
おかわりを考えて15人分のスープを作ったが、お鍋が3つになって大変だった。
お肉の下味をつける時に、薬草が足りず、3つの味にして誤魔化した。
大丈夫のはず……だと思いたい。
「お~良い匂いだな。と言うか、なんだか不思議な匂いだな」
「でも、美味しそうだね」
「味は保証付き。アイビーって料理上手だから。ね!」
ラットルアさんに保証されたけど、どうだろう?
今日は本当に色々ぎりぎりだったからな。
特に薬草が。
「あぁ、アイビー。俺の仲間を紹介しておく。リック、ロー、マールだ」
あれ?
名前が短い、あだ名かな?
リーダーの紹介に、3人が憮然とした表情でため息をつく。
「人を紹介するのに、略した名前で紹介するか? 俺はリックベルトだ。よろしくアイビー」
「別にそれほど気にすることか?」
「常識的に考えろ。失礼だろう」
「そうか?」
「まったく。そう言えば今日、俺とロークリークを呼び間違えていたぞ!」
「……あ~、特に問題なかったからいいだろう」
挨拶をしたいが、話が途切れない。
それにしても、リーダーの印象が最初の時と少し違う。
もう少し……何だろう、気を張っていたような。
「リーダーは何処か抜けているんだよな。今日は予備の剣を忘れてたし」
リーダーって抜けているのか。
最初の時は、頼れる印象だけだったけど。
仲間達の中にいると、安心感から素が出るのかな?
でも、さすがに予備の剣を忘れるのはどうなのだろう?
「初めまして、ロークリークです。まぁローでいいよ。略されて呼ばれるのに慣れているから」
「はじめまして、アイビーです」
「俺はマールリークだ」
「……初めまして」
同じリーク?
兄弟?
ロークリークさんとマールリークさんの顔を交互に見比べる。
顔の作りが全く違うな。
「兄弟じゃないよ。名前が似ているけど」
ラットルアさんが私の視線に気がついて、そっと教えてくれた。
「食べないのか?」
ヌーガさんが、肉を見つめたまま苛立たしげな声を出す。
どうやら、ちょうどいい具合にお肉が焼けたみたいだ。
急いでスープを分けて、お肉はラットルアさんに分けてもらう。
木の実の入ったパンをリーダーが持って来てくれたので、切り分ける。
「いただきます」
スープを一口飲むと、お肉の旨味が口に広がる。
薬草も、いい感じにコクを引き出してくれた。
よかった、美味しい。
……ん?
何だろう、やたら静かなのだけど……もしかして不味い?
周りを見回すと、なんだかスープを無言で飲んでいる。
……えっ怖い!
「あの……味、大丈夫ですか?」
「ん? あぁ、すっごく美味い。美味すぎてビックリ」
ラットルアさんが、笑顔で答えてくれた。
よかった。
「確かに、かなり料理が得意なようだな」
マールリークさんが空になったスープ皿を持って立ち上がる。
早っ!
もう食べ終わっている。
……スープ、もっと作った方がよかったかな?
あっ、シファルさんもおかわりした。
ん~作る量が少なかったかも。
「足りるかな?」
「アイビー、気にするな。いつもより量が多いから充分足りる」
リーダーの言葉にホッとする。
だが、本当に大丈夫なのだろうか?
スープが入っているお鍋の前でマールリークさんとシファルさんが睨み合っているような気がするが。
……あっ、スープの中のお肉を取り合っている。
「ぅわ、このお肉美味い! ……もしかして薬草?」
ローさんがお肉を食べて、聞いてくる。
不安があった味付けだけに、ホッとする。
「はい、下味で薬草を揉み込んでいます」
「したあじ? もみこむ?」
やっぱり下味って、馴染みがない調理方法なのかな。
揉み込む方法は、普通だと思ったけど違うのか?
まぁ、今は考えなくてもいいかな。
「はい、その方が味がお肉に染み込みますので」
「へぇ~、あれ? こっちは味が違うんだ。あ~、こっちも美味い!」
薬草が足りなくて思いつきで味を変えたけど、気に入ってくれたようだ。
よかった。
そう言えば、さっきからヌーガさんの食べている肉の量が気になる。
ちょっと食べ過ぎでは?
「ヌーガ、お前ちょっと食べ過ぎだろ!」
「……気にするな」
「気になるわ! 他の奴にも回せ、それ」
「無理」
「なんでだよ!」
あ~、スープに続きヌーガさんとリックベルトさんが争奪戦を始めてしまった。
やっぱり足りないのでは?
色々心配したが、何とかみんなが満足する量はあったようだ。
それにしても想像以上の食べっぷり。
「アイビー悪いな。忙しかっただろ?」
セイゼルクさんが心配そうに聞いてくれる。
「いえ、大丈夫です。料理を作るのは好きなので」
「そうか。ならよかった。ところでアイビーは、討伐が終わったらオトルワ町へ行く予定だったな」
「……それは」
「ん? 予定変更か? だが、狙われている状態で1人での移動はやめた方がいいぞ。1人になるのを待っている可能性があるからな」
そうか、オトルワ町へ行かなくても狙われている以上は危ないのか。
だったら、どうしたらいいのだろう?
「オトルワ町へは、俺達と一緒に行かないか?」
「セイゼルクさん達とですか?」
「あぁ、此処から町まで2日ぐらいだ。どうだ?」
「迷惑になりませんか?」
「それは無い。美味い飯も食えるしな」
薬草は、スープに使う物ならまだある。
役に立てるのなら、良いかな?
正直、1人になるのはとても怖いし。
「すみませんが、よろしくお願いします」
「本当に律儀だな~」
セイゼルクさんに軽く頭を撫でられる。
「何々、どうしたの?」
マールリークさんが、何だかハイテンションで間に割り込んでくる。
そして、香るお酒の匂い。
「あっ、お酒はまだ早いだろ! 明日もあるんだぞ!」
「何うぉ言う! 美味しい食事にはぁ酒だ! 酒~」
「はぁ、リーダー。 マールリークが酔ってるぞ!」
「あ? 酒なんて持って来てないぞ」
「あぁー!」
シファルさんの声がテントから響く。
そして、ものすごい形相でテントから飛び出してくる。
あまりの怖さに近くにいたセイゼルクさんとラットルアさんの腕を掴んでしまう。
シファルさんは周りを見回し、マールリークさんを見つけると【にっこり】と
まるで音がするような、ものすごい笑顔をマールリークさんに見せる。
テンションの上がっていた彼もシファルさんの様子に一転、顔を青くしている。
笑顔が無表情に変化し。
「てめえか~」
シファルさんの声と同時に走りだす、マールリークさん。
後を追うシファルさん。
何だろう、何かあったのかな?
それにしても、お酒を飲んだ後に走り回って大丈夫かな?
「悪いな、うちの馬鹿が。どうやらシファルの酒を無断で飲んだようだ」
リーダーがため息をつきながら謝る。
セイゼルクさんは、苦笑いで肩をすくめる。
「アイビーも悪かったな。怖い思いさせちまって」
リーダーの視線を追うと、セイゼルクさんとラットルアさんの腕をしっかり掴んでいる私の手。
「あっ、すみません」
慌てて掴んでいた手を離す。
「気にしなくてもいいよ。シファル、怖かったもんね」
ラットルアさんの言葉に、ついつい頷いてしまう。
その時、何処からか叫び声が。
何だかマールリークさんの声に似ているような……。
「あ~、勝負あったか」
マールリークさんだったのか。
すごい声だったけど、大丈夫かな?
しばらくすると、楽しそうなシファルさんが戻ってくる。
その笑顔に怖い印象は無く、すっきりとした印象を受ける。
本当にマールリークさんは大丈夫なのかな?