645話 毒は、あるの? 無いの?
「少し涼しくなってきたな。アイビーは大丈夫か?」
お父さんが心配そうに私を見る。
それに笑って頷く。
「大丈夫。今日から1枚多めに着てるから」
風が吹くと、ほんの少し涼しさを感じるようになった季節。
ウルさんの話では、後3日ほどで目的の村のオカンコ村に到着できるらしい。
ただ、ウルさんが地図で予想した場所が正解だった場合だけど。
「見て! 果実発見!」
アルスさんの嬉しそうな声に、視線を向けるとたわわに実った5㎝ほどの赤黒い果実が見えた。
あの果実は確か似たような果実が数種類あって、その中には毒がある物もあったはず。
何処で確認をするんだったかな?
確か……毒のある果実の本と食べられる果実の本に詳しく載っていたから、絶対読んでる。
えっと……葉っぱだ!
そう、葉脈で見るんだった。
「アルス、待て! 落ち着いて考えろ」
「分かってる。でも、この果実は食べられる果実の本に載ってたから、大丈夫だって」
ガルスさんの言葉に、アルスさんが力強く言う。
それにため息を吐くガルスさん。
「毒のある果実の本にも、載ってただろ?」
エバスさんが呆れた表情でアルスさんを見る。
「あれっ、そうだったかな?」
アルスさんの言葉に、残念そうな表情で彼女を見るエバスさん。
それにちょっと、不貞腐れたアルスさん。
エバスさんはため息を吐くと、1冊の本を出してアルスさんに渡した。
「エバスが確認しても、いいんじゃないかな?」
「アルスが一番に見つけたんだから、アルスが確認するべきだろう」
睨み合うアルスさんとエバスさん。
一緒に旅をしていると気付いたけど、2人は良く言い合いをする。
そのほとんどが小さな事なんだけど、本当に毎日、毎日やっている。
ガルスさん曰く、2人は素直ではないらしい。
「素直だから言い合いになるんだよね?」とお父さんに聞くと、笑顔で頭を撫でられた。
そして、質問の答えは返してもらえなかった。
何なんだろう?
「早く調べないと」
ウルさんの言葉に、ため息を吐いてページをめくるアルスさん。
目的のページを見つけたのか、果実や葉っぱの形を確かめだした。
「毒がある果実とは、葉っぱが違うみたいだぞ」
ん?
エバスさんを見ると、毒のある果実の本を見ている。
なんだ。
2人で手分けして確認しようとしていたのか。
それなら最初から、そう言えばよかったのに。
あっ、アルスさんもそう思ったのか、不満そうにエバスさんを睨んでる。
ふふっ、2人の関係は見ていると面白いな。
「で、どっちなんだ?」
「食べられる果実だと思う。毒の方に載ってる果実は葉っぱが違うから」
ガルスさんがエバスさんの持っている本を覗きこんで頷く。
「これじゃない?」
アルスさんが、食べられる果実の本を開いてあるページをガルスさんとエバスさんに見せる。
ガルスさんは頷くと、ウルさんへと視線を向けた。
「食べられる果実です」
「正解。似通った果実が5種類あるんだが、食べられるのはそのうち3種類。毒のあるなしを見るのは、葉っぱだ。毒のある果実の方は、葉脈が黒いんだ。毒が無いのは葉脈が緑色をしている」
ウルさんの説明に、ホッとする。
良かった、合ってた。
「良かったぁ。今ので連続10回の正解だったよね?」
アルスさんの言葉に、ガルスさんとエバスさんがホッとした表情を見せた。
なぜなら、これはウルさんが出した課題だから。
ガルスさん達の毒の知識の低さに危機感を覚えたウルさんが、果実を見つけたら毒があるか無いかを判断するように言ったのだ。
連続10回正解しないと、毒について書いてある本を熟読しなければならないという罰がある。
既に3人は3回も本を読み直しているので、正解した事を本気で安堵している。
「まぁ、果実は簡単だからな」
ウルさんの言葉に、唖然とする3人。
確かに、果実は比較的わかりやすいかな。
もっとも間違いやすいのは薬草。
これは本当に見分けが付かない物がある。
私も未だに、本を出して確かめるからね。
「次は薬草な。俺が指した薬草に毒があるか無いか判断する事。連続10回正解で合格な」
ウルさんの言葉に沈痛な表情になったアルスさんに、つい笑ってしまう。
毒について書いてある本は、ウルさんやお父さんが持っている本を合わせると11冊。
確かに、読み直すのはちょっと大変かな。
でも、その知識はいずれ自分を助けてくれるので、頑張ってほしい。
果実を収穫して、少し休憩する。
「甘いね」
「そうだな」
「ぷっぷぷ~」
……いや、ソラは食べてないよね?
見ると、なぜか剣を食べている。
「えっ。どこから?」
「にゃうん」
シエルの鳴き声に視線を向けると、剣を3本咥えていた。
「「……」」
お父さんと無言でシエルを見つめる。
何処から、それを持ってきたんだろう?
「にゃうん」
シエルが森の奥を見る。
多分、視線を向けた方にあると言ってくれたんだろうな。
「ウル。近くに違法なゴミの捨て場があるみたいだ。見てくる」
「えっ。本当か?」
ウルさんが驚いた様子で、近付いて来る。
そして剣を食べているソラを見ると、頷いた。
「シエルが見つけたみたいだ」
「分かった。3人は休ませた方が良いだろうから、ここにいるよ。アイビーは?」
「お父さんと一緒に見てきます」
ウルさんは頷くと、ガルスさん達に説明に向かった。
「行こうか」
「うん」
シエルの案内で、森の中を突き進む。
果実を収穫した場所から、10分ほど離れた場所に出ると捨て場が見えた。
「こんな場所に捨てるとは」
マジックアイテムが多く捨てられているのを見て、お父さんがため息を吐く。
「今は、捨てに来る人がいないみたいだね」
ゴミの上に乗っている落ち葉の様子から、少し前から放置されている事が分かった。
そうだ。
「この周辺に、冒険者が集まる場所があるの?」
捨て場は冒険者達が集まる場所にできやすい。
ここに捨て場が作られたという事は、近くに冒険者達が集まる何かがあると言う事になる。
「この周辺か?」
お父さんと周りを見回す。
木々の間も確認するように1つ1つ見るが、特に冒険者が集まるような物は見つからない。
「何もないよね?」
「あぁ。無いよな?」
お父さんにも見つけられないのか、首を傾げている。
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
一緒に来たソラ達が、嬉しそうに食事を始めているのを見ながら、気配を探る。
隠している気配も見逃さないように、繊細に周りを調べていく。
ん?
何か引っかかったような気がする。
「どうした?」
私の様子に気付いたお父さんが、剣に手を掛ける。
「大丈夫。襲って来るような気配じゃないから」
「そうか」
でも、気になるな。
どっちの方角だろう?
えっと……もう少し森の奥に行ったところかな。
「見に行ってみるか?」
「うん。いいかな?」
何か気になる。
気配自体は凄く弱いから、気にする必要はないかもしれないけど。
ソラ達の様子を見ながら、見つけた気配を探すために森の奥に向かう。
ほんの少し森の奥に入ると、すぐにその正体が姿を見せた。
「石?」
視線の先には、凸凹した楕円形の灰色の石。
大きさは50㎝ぐらいだろうか?
その石の中心部分には、大きなヒビが入っていた。
「これが気配の正体か?」
そっと石に向かって手を伸ばすと、先ほど感じた気配が強くなる。
「そうみたい」
傍に寄っても気配は弱く、石自体に恐ろしさは感じない。
それなのに、石から出ている気配が気になる。
何処かでこの気配に似た物を感じた気がする。
何処でだったかな?
皆様、開けましておめでとうございます。
「最弱テイマー」は今日から更新を再開いたします。
2022年も、どうぞよろしくお願いいたします。
皆様の1年が、良い年になりますように。
ほのぼのる500




