番外編 フォロンダ領主の悩み
ーフォロンダ領主視点ー
テーブルの上に、読み終えた書類の束を置く。
書類は全部で52枚。
オカンイ村で起きた事件の詳細が書かれていました。
「暴走した魔物にクスリ。いったい、何をしようとしているのでしょうか?」
暴走した魔物を操って、何か事を起こすつもりでしょうか?
王の首を直接狙う事にしたのでしょうか?
いえ、暴走した魔物を王都に放ったとしても、成功する可能性はとても低い。
そんな運任せな事を、奴がするはずはありません。
「いったい、何がしたいのでしょう」
ため息がこぼれる。
教会というか、奴が求める物はたった1つです。
魔法陣を自由に使える世界にするための鍵。
「いや、鍵ではなく生贄ですね」
テーブルに置いてある、もう1つの書類を手に取る。
先ほどの書類とは異なり、たったの2枚。
そこには、ある親子の事が簡単に書かれています。
最後に、オカンケ村に向かった事と占い師と兄弟が同行している旨が記されています。
「やはり彼女なのでしょうか?」
手に持っていた書類をぐしゃりと握り潰し、火の魔法で燃やし灰にする。
彼女から送られてきたふぁっくすを思い出す。
数ヵ所に聞きなれない言い回しが使われていました。
それに、彼女が考案したこめ料理。
さすがに、関係ないとは言えませんよね。
「まぁ、最初から不思議な子供でしたしね」
ですが、願いとしては彼女であって欲しくありません。
もし彼女が鍵なら、これからどんどん危険は増していく事になるでしょう。
まだ、奴には気付かれていないみたいですが、きっと時間の問題でしょう。
奴の手先は、どこにでも潜んでいますからね。
気付かれる前に、奴を消せたらいいのですが、残念ながら少し無理そうです。
「奴がもっと馬鹿なら良かったのですが」
まぁ、馬鹿でしたら教会を乗っ取ることはできませんよね。
頭が良ければ……。
駄目ですね。
奴は憎しみに囚われ過ぎています。
「というか、いったい何百年間を憎しみに囚われているんでしょうか? ようやく父親から逃げられたのですから、もっと違う生き方をすればいいのに」
奴の生い立ちは、知っています。
王を守っている化け物に、話を聞きましたから。
なので、同情はします。
でもだからと言って、この世界で生きている人々を犠牲にしていいわけではありません。
「まずは、はっきりさせないと駄目ですね」
彼女が鍵かどうか確かめるには、私が直接会う必要があるでしょう。
「ただ、ふぁっくすが途絶えているから、どこにいるか分からない事になっているんですよね。急に会いに行ったら警戒されてしまうでしょう。怖い保護者も一緒ですから」
まぁ、今すぐ会いに行けない理由は、他にもあるんですが……。
「はぁ。第1王子と第2王子の継承問題が、私の行動に制限を掛けてしまうとは」
まさか、第1王子が全貴族の動きを監視するとは思いませんでした。
今もこの私の家に、王子の間者が入り込んでいます。
うまく紛れ込んでいるので普通は気付きませんが、それなりの事を経験している私には通用しません。
「どうしましょうか」
間者をすぐに消してしまったら、第1王子に不審感を持たれる可能性がありますよね。
ですが、いつまでも居座られるのは鬱陶しくてしょうがありません。
「間者が着いて1週間。そろそろ1回目の報告がされる頃でしょうか?」
間者には、見張りを付けています。
動けば、報告が届くでしょう。
2回か3回ぐらい「問題ない」と間者が報告すれば、おそらく当分の間は大丈夫なはずです。
その後で、間者を処分しましょう。
「間者とはいえ、事故に遭う事はあります。そう、その事故で命を落としたとしても、それは運が悪かったからです」
1ヶ月。
そうですね、1ヶ月は我慢をしましょうか。
「問題は、王弟もなんですよね」
第1王子が動き回るから、王の座を狙っている馬鹿……違いました。
王弟もうるさくなってしまいました。
「あ~、王がとっとと処分してくれていたら、こんな面倒事にはならなかったのですが」
とはいえ、王弟派を隠れ蓑に使っているので、無くなるとちょっと困るのですが……。
今のところ、利用価値がありますからね。
このまま、王弟は王弟らしく行動してくれたらそれでいいです。
まぁ、そうなるように情報で誘導するのですが、単純な性格で良かったです。
そういえば、「顔を見せろ」という内容の手紙が届いてましたね。
「そろそろ、顔を見せに行く必要があるでしょうね。面倒くさいですが」
コンコン。
「失礼いたします」
この声は、アマリですね。
「どうぞ」
扉を開けて入って来るアマリに視線を向けます。
「ネズミが嗅ぎまわり始めましたが、処理しますか?」
相変わらず、笑顔で言う言葉じゃないです。
まぁ、今更彼女の態度に何かをいう事はありませんが。
「ネズミって、せめて名前で呼んであげてくださいね」
間者にも名前がありますので。
「ロークを処分しますね?」
「待ってください。なぜ決定したかのように言うんですか? 処分は、1ヶ月後です」
アマリが肩を竦めます。
少し不服なのでしょう。
ですが、あとの事があるので1ヶ月後です。
「分かりました。あと、ねず……ロークは例の部屋から書類を数枚盗んだようです」
「あぁ、あの部屋ですか」
そこは、間者用に用意されていた特別な部屋です。
間者を誘導するように言いましたが、予定通り過ぎてちょっと怖くなりますね。
「ロークと接触した者達も、全員を調べてください」
「分かりました。では」
アマリが部屋から出ていくのを見送ります。
それにしても、さっそく動いてくれたようですね。
私は、のんびり罠を張って待ちますか。
彼女に会いに行くのは、こちらの問題を片付けた後ですね。
それまでに、ふぁっくすが届いてくれたらいいのですが。
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
最弱テイマーの更新は、本日が今年の最後となります。
この1年、色々とありがとうございました。
2022年も、どうぞアイビーをよろしくお願いいたします。
ほのぼのる500




