番外編 王都の教会
ーある男の視点ー
テーブルの上に置かれた大量の紙を見る。
人生を掛けて集めた魔法陣の数々。
だが、この半分以上の魔法陣が動かない。
奴らが、この世界にかけた呪いのせいで。
「だが、あと少しだ」
そう、あと1人。
今までの経験から考えて、あと1人で奴らがこの世界にかけた魔法陣による大魔法は破られる。
そうなれば、どんな魔法陣も使えるようになる。
「あと少し」
コンコン。
「どうぞ」
部屋に入って来た人物、教会のトップに置いている教皇を見る。
どうも、顔色が悪いな。
「何があった?」
「オカンイ村の中にいる仲間達からの連絡が、完全に途絶えました」
「はっ?」
オカンイ村。
あの村は、これからを左右する重要な実験を行っている。
だから、王都の教会から腕の立つ護衛を送り込んである。
村の人間も、数十人と多めにこちら側に引き込んだはずだ。
それなのに、誰からも連絡が無いだと?
「何が起こった?」
「最後の連絡から、暴走した魔物が制御不能。クスリの件である貴族が村に来た事で発覚、捕まるのも時間の問題だと」
制御不能?
今まで、小規模の実験を繰り返してきたが、失敗の報告は無かった。
それなのに、失敗したのか?
そういえば、今回の実験では魔物の数を増やしたな。
そのせいで、操れなかったのか?
くそっ。
実験はやり直しか。
「ある貴族とは?」
「クスリの売買に関わらせていた貴族の1人です。他の者達を出し抜こうとして、オカンイ村に行ったようです」
貴族は人目に付く。
だから村には行くなと、何度も注意をしたが無駄だったか。
「他の貴族共を見張れ。これ以上、余計な事をしないように」
「はい」
「で、その愚かな貴族はどうした?」
殺してやる。
「それが、行方不明です」
「行方不明?」
「はい。村から出たという連絡はあったのですが、それ以降の目撃情報はありません」
私から、逃げたのか?
それとも、魔物に襲われた?
いや、奴らは魔物除けに金を掛けているから、魔物に襲われる可能性は少ない。
「探せ。逃げた可能性が高い」
見つけたら、殺してやる。
「分かりました」
「オカンイ村から、戻って来た者達に話を聞く。連れてこい」
クスリがばれた経緯や、貴族が何をしたのか知る必要があるな。
「誰もいません」
なに?
誰もいない?
「クスリの事がばれたのなら、捕まったんだろう?」
「はい。オカンイ村の自警団と冒険者ギルドが動いたと、別口から情報が届きました」
最後の連絡は、おそらく教会から。
別口は、密かに送り込んでおいた密偵からか。
そういえば、完全に連絡が途絶えたと言っていた。
それは密偵も含まれるのか?
「密偵からの連絡も途絶えたのか?」
「自警団が動いたという情報が最後です」
つまり密偵にも何かが起きたという事か。
密偵の事を知っているのは、私と教皇とあと2人だけ。
教皇達が私を裏切って情報を流したとは、現段階では考えられない。
まだまだ、私に利用価値があると考えているからな。
それにしても密偵からの連絡が途絶えるとは。
もしかして、
「密偵も戻ってきていないのか?」
「はい」
捕まったと考えるべきだろうな。
まぁ、奴から情報を聞き出すのは不可能。
捕まったのなら死んでいるだろう。
そう命令をしておいたからな。
「オカンイ村を見張っていた者達からは?」
村には入らず、森から見張るように指示を出していた。
奴らが、何かを見ているはずだ。
それに、奴らには別の指示もしてある。
「彼らからの連絡は届いています。ですが、村からは冒険者達が出入りするだけで、こちら側の者達は誰も出てこないそうです」
そんな馬鹿な!
「別口の連絡から、どれくらい経っている?」
「8日です」
「8日?」
そんなに日が経っているのか?
「はい。すぐに報告しようと思ったのですが、あなたの居場所が分かりませんでしたので」
あぁ、連絡が取れない場所に私がいたから報告が出来なかったんだな。
時期が悪かった。
まさか、こんな事が起こるなんて。
「8日も経っているなら既に護送が始まっているだろう?」
「通常はそうですが、なぜか誰も護送されていません」
どうなっている?
貴族が事件に関わっている以上は、王都での取り調べがある。
全員ではないだろうが、王都へ護送される者達がいたはずだ。
それが誰も出てこない?
「不気味だな。何が起きているんだ?」
あの教会には、重要な人物が多くいた。
だから、「教会関係者が捕まった場合は、護送中に奪還するように」と、見張り役には指示を出していた。
見張り役もそのつもりで動いているはずだから、見逃すとは思えない。
まだ、誰も護送されていないのか?
いや、重要な人物の護送は早急にするはずだ。
「まさか、森にいる見張りがバレてるのか?」
「えっ?」
その可能性は……あるな。
もし、見張りがいる事を知っているのに放置したとなると、奴らは利用されたんだ。
「ははっ」
オカンイ村の自警団や冒険者ギルドでは、ここまで完璧な仕事は出来ない。
おそらく、他の組織が動いている。
「また、奴らか」
「王の犬ですか?」
王の犬か。
誰が言いだしたのか知らないが、我々の間ではそう呼ばれているな。
「まだ、奴らの尻尾は掴めないのか? そうだ前に、王の補佐をしている人物の買収に成功したと言っていたな? その補佐からの情報は?」
「すみません。王の補佐も、犬については何も知らないそうです。周辺を調べるように言いましたが、今のところ何も出てきません」
うまく隠れているな。
「そのまま、調べさせろ。必ず、奴らに繋がる何かがあるはずだ」
王が命令をしている以上は、必ず。
「はい」
「そういえば、オカンイ村には逃げた占い師がいると言っていなかったか?」
「はい。ですが、途中で連絡が途絶えてしまったので逃げた者かどうかの確認が出来ませんでした」
占い師の数が減っている。
そいつが逃げた占い師だとすると、確認が出来なかったのが悔やまれるな。
いや、まだ追える。
「見張り役に……いや、人を送って占い師を探させろ。見張り役には、村の様子を探らせてから帰って来るように指示を出せ」
奴らが動いた以上、捕まった奴らの後を追うのは不可能だろうな。
「分かりました」
「下がれ」
扉の閉まる音がすると、大きなため息が出る。
まさか、奴らに嗅ぎつけられるとは。
だが、オカンイ村の教会を調べても、ここまで手は伸びないはずだ。
「あと1人なんだ」
誰であろうと、絶対に邪魔はさせない。




