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643話 そっくりだけど

「アルスさん、その木の実は毒があるから食べられないよ!」


アルスさんが3㎝ほどの赤い木の実を拾っているのを見て、声を掛ける。


「えっ?」


驚いた表情のアルスさん。

その隣で、同じように驚いているガルスさんとエバスさん。

あれ?

もしかして、私の見間違いかな?

でも、白い線があるように見えたんだけど。


「えっと、白い線があったら毒を持っている木の実なんです。見せてもらえますか?」


「うん。でも、前もこれと同じ木の実を食べた事があるんだけど、大丈夫だったよ?」


アルスさんから木の実を受け取り、木の実の皮を確認する。

やっぱり白い線が入っている。

これは毒があるから、食べられない。


「この白い線があるのは、毒があるんです」


「そうなんだ。でも、前と同じ木の実だと思うんだけど」


アルスさんが、木の実をじっと見つめる。


「やっぱり、この木の実だったよね?」


アルスさんがガルスさんに木の実を見せると、少し考えてから彼が頷く。


「毒がたまたま、なかったとか?」


エバスさんが足元にある木の実を拾う。

それにも、白い線が見えた。


「それの毒は、手足に激痛を起こすんだ。食べたのは、別の木の実だったんじゃないか?」


お父さんの言葉に、手の中にある木の実と同じ大きさと色を持つある木の実を思い出す。


「別の木の実?」


ガルスさんが首を傾げて木の実を見る。


「大きさも色も形もそっくりな木の実があるんです。白い線があるなしだけで区別されるぐらいそっくりで、間違う人が多いんです。もしかしたら、食べたのはそっちの木の実かも」


確か名前は……あれ?

思い出せない。

確か、


「カ、カッテ?」


なんか違う。

えっ、本当に思い出せない。

頑張って覚えたのに!


「カナッシュランだろ?」


お父さんの言葉に頷く。

そう、カナッシュラン。


「毒を持っている実が、ニロカナッシュだったよね?」


お父さんを見ると、「正解」と木の実を渡される。

首を傾げながら、その木の実を見る。


「あっ、白い線が無い」


これは食べられる、カナッシュランだ。


「カナッシュランの木が育つ場所の傍には、ニロカナッシュの木がある事が多いからな」


そうだった。

前にカナッシュランの木の実を見つけた時も、ニロカナッシュの木の実が傍に落ちていたっけ。

名前も似てるから、ややこしいんだよね。

周りにある木に、視線を向ける。

あっ、少し離れた場所にカナッシュランの木がある。

葉っぱの形が違うから木はすぐに見分けがつくのに、どうして実はそっくりなんだろう?


「それにしても良かったな。前に食べた時、ニロカナッシュだったら大変な事になってたぞ。あれは本当に耐えられない痛みらしいから」


お父さんの言葉に、ガルスさん達が神妙な表情でニロカナッシュとカナッシュランの実を見る。


「本当に白い線以外は、一緒だね」


アルスさんの言葉に、ガルスさんが頷く。


「そうだな、そっくりだ」


2種類を見比べている3人に、お父さんが苦笑する。


「食べられる木の実の本に載っていたから、大丈夫だと思ったのに。そっくりな木の実があるなんて」


アルスさんが、拾い集めていた木の実を見る。


「あ~白い線が入ってる。でも、入ってないのもあるみたい」


アルスさんの持っているカゴの中を見る。

確かに白い線のある物と無い物が混ざっている。


「本には見比べる方法は載ってなかったのか?」


お父さんが不思議そうにアルスさんを見ると、彼女は首を横に振る。


「載ってなかったです。どんな場所にあるとか収穫時期。あと、食べ方が載ってたぐらいで」


占い師がくれた本とは違って、他の本だとその程度なのかな?

でも、似ていて毒を持っているなら注意をするように、載せそうだけどな。


「おかしいな。間違いそうな物がある場合は、情報を載せる事が決まっているんだが」


そうだよね。

間違って食べてしまったら、大変な事になるから。


「その本は、今も持っているのか?」


「はい。えっと……このマジックバッグかな?」


アルスさんが、ガルスさんが持っていたマジックバッグを受け取り中を探る。


「あれ? 無いな」


どうやら、違ったみたい。


「こっちか?」


エバスさんが持っていたマジックバッグを開けると、アルスさんが探し出す。

そして首を横に振る。


「アルスの持っているマジックバッグは?」


「このマジックバッグには、本は入れてないんだけど」


アルスさんが持っているマジックバッグを探ると、アッと言う表情をした。

そして、6冊の本を出した。


「全部、アルスのマジックバッグに入ってるな」


「あはははっ」


エバスさんの言葉に、笑って誤魔化すアルスさん。

まぁ、見つかって良かった。


お父さんが、アルスさんから本を受け取ると読み始める。

暫くすると眉間に皺を寄せて、本を閉じた。

問題でも見つかったんだろうか?


「この本に、お金は払ったのか?」


「「えっ?」」


お父さんの言葉に、ガルスさんとエバスさんが驚いた表情を見せる。


「お金は払った?」


「払いました」


ガルスさんの言葉に、お父さんがため息を吐く。


「本を作って売るには、決まりがあるんだ。中身を少し読んだけど、その決まりが守られていないみたいだ」


「そんな本を売ってていいのか?」


エバスさんの言葉に、お父さんが首を横に振る。


「駄目だ。それは犯罪だ。個人が自分が知っている情報を書いて、知り合いにあげる場合は問題が無いけどな。それにしても、この本に書かれている内容には嘘も混ざっているから、悪質だな」


「嘘でしょ」


唖然と呟くアルスさん。


「頑張って、本の内容を覚えたのに」


アルスさんの悲壮な声に、なんと言っていいのか戸惑ってしまう。

私も、森で生き残るために一生懸命に本の内容を覚えた記憶がある。

森には、毒がある木の実が普通に落ちているし、村道の傍に毒草が生えている。

今回のように、食べられる物と毒を持った物が似ている事もあって、被害にあわないためには、正しい情報を持つ事以外にない。

だから、本の情報は全て暗記するように頑張った。

特に、薬草や木の実と似ている物は何度も読み返して、絶対に忘れないようにしている。

カナッシュランの名前はちょっと出てこなかったけど。


「最悪だぁ」


アルスさんが、お父さんが持っている本を睨む。

ガルスさんもエバスさんも、項垂れている。

きっと3人で一生懸命に覚えたんだろう。


「次の村に行ったら、本屋に行ってお薦めの本を探してやるよ」


「ありがとう。はぁ、覚え直すの大変そう」


アルスさんの言葉に、ガルスさんとエバスさんも同意するように頷く。

そうだよね。

一度覚えた情報を、もう一度覚え直すのはかなり大変だよね。


「どうしたんだ?」


ウルさんが、不思議そうに私たちの傍に来る。


「ここが何処か分かったのか?」


ウルさんは今居る場所を、シエルに地図を見せながら教えてもらっていたのだ。


「おおよその場所は見当がついた。それより、ガルス達に何かあったのか?」


3人を不思議そうに見てから、お父さんに視線を向けるウルさん。


「覚えた本の内容が嘘だったんだよ」


「うわっ。それは最悪だな」


ウルさんがガルスさん達に視線を向ける。


「なんでそんな事になったんだ?」


「購入した本に問題があるんだ。決まりも守ってないし、情報には嘘が紛れ込んでいた」


お父さんがウルさんに本を渡す。

ウルさんが本を少し読むと、すぐに閉じた。


「これは悪質だな。ガルス、次の村で商業ギルドに本を提出して作者と売った店を調べてもらおう」


「分かった」


ガルスさんは、ウルさんに他の5冊の本を渡す。


「これは?」


「同じ店で買ったんだ。内容を確かめてほしい」


ウルさんが5冊を流し読みすると、そのうち1冊を別に置いた。


「4冊は問題ないが、1冊は駄目だな」


駄目と言われた1冊を見る。

「森の中の毒」という題名が見える。

ガルスさん達は、よく今まで毒に当たらなかったよね。

それが凄い。


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― 新着の感想 ―
ハズレを引いたことがないなら運がいいのでは? でも、今ハズレ引きそうになったから運が悪い?
運がいいようで悪いの面白いな笑
[一言] 嘘情報の本は悪質ですね。本が貴重品で高価であり、特に生命線になる世界なら。何の為にこんな本が書かれたのでしょう。
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