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637話 森は危険だから

お父さんと一緒に、ウルさんと私で作った罠を仕掛けながら、森の奥に視線を向ける。

気配が4つ。

ガルスさん達とウルさんの気配だ。


「ガルス達は、どんどん気配に気を配れなくなっているな」


最初の頃に比べるとガルスさん達の気配が分かりやすくなっている。

疲れから、細かい事が難しくなっているんだろう。


「そうだね」


お父さんに罠を渡す。


「これはアイビーが作った罠じゃないな」


えっ、同じように作ったのに分かるの?


「ほら、ここ。結び目が違う」


お父さんが指す部分を見ると、確かに私の結び方とは少し違うのが分かった。

といっても、ほんの少しの違いでパッと見ただけでは分からない。

でも、この小さな違いに気付く事が大切なんだろうな。


「うん。これは、ウルさんが頑張って作ってくれた罠だね」


「ちょっとだけ話を聞いたけど、随分カゴを壊されたんだろ?」


「あはははっ」


予定の半分しか、罠が作れないぐらいにはカゴを破壊してたかな。

面白いぐらいにカゴが壊れるものだから、最後には2人で大笑いしてしまった。


「そろそろ、ここに戻ってくるぞ。帰りにトトムの店に行くけど、疲れてないか?」


「大丈夫。疲れる事なんて一切してないから」


森を歩きまわって罠を仕掛けているだけだからね。


「皆は疲れた?」


「ぷっ?」


ソラが体を傾ける。

フレムもソルも同じ様子に笑ってしまう。


「『疲れる事なんてした?』という雰囲気だな」


お父さんが、罠を仕掛け終わって立ち上がる。


「そうだね。森の中を歩き回っただけだもんね」


「ぷっぷぷ~」


「てっりゅりゅ~」


「ぺふっ」


「にゃうん」


皆、私と一緒で体力はあるもんね。


「頼もしい限りだな」


お父さんの言葉に、ソラとフレムが胸を張る。

その姿にお父さんが笑いながら2匹の頭を撫でる。


朝から始まったガルスさん達の体力作り。

庭を休憩なしで20周出来たので、次の段階に入ったのだけどやっぱり少し早かったかもしれないな。

ガルスさん達の気配が、一気に濃くなった。


「これは相当疲れ切ってるな」


「大丈夫かな? お父さん、この方法で平気なの?」


無理をし過ぎると、体力がつく前に体が壊れそう。


「ん?」


私の質問に不思議そうなお父さん。

何かおかしな事でも聞いたかな?


「あっ、そうか。アイビーは、冒険者の強化特訓を知らないから」


強化特訓?


「強化特訓は、森で生き残るためにする特訓なんだ。かなり辛い特訓なんだが、冒険者になったら何度も経験するんだよ」


「そうなの?」


「あぁ、活動する森の状態にもよるが、森は危険な場所だ。今はシエルがいるから違うかもしれないが、アイビーも1人の頃はそうじゃなかったか?」


確かに、森は怖い場所だったな。

村の周りは比較的穏やかだったけど、村から逃げた先の森は暗くて魔物の気配があちこちから感じられて、眠たいのに怖くて寝られなかった。ちょっとの物音でも飛び起きて、周りを警戒してた。


「うん。森は凄く怖い場所だった。恐怖で意味もなく森を走った事もあったよ。あの時はまだ、森の中から聞こえる音の違いが分からなくて、今なら大丈夫だと判断出来る音にも震えてたな」


ポンと頭に重みがのる。

見るとお父さんが、私の頭に手を乗せて撫でていた。

心配そうなお父さんの表情に、小さく笑ってしまう。

もう過去の事なのに。


「大丈夫だよ。それがあったから、今があるんだから」


音にも気配にも敏感になれたし、無駄に走ったから体力は凄くある。

これは、今の私の自慢だからね。


「そう思えるアイビーは、強いな」


強いのかな?

私には、分からないな。


「そんな危険な森で生き残るために必要な事を、冒険者になった者達に教える必要がある。ただ、教える側の冒険者も、それほど時間があるわけじゃない。短時間で効率よく下位冒険者を強くするために考えられたのが強化特訓なんだ。ウルが行っている特訓は、その強化特訓でも使われている方法だ」


そうなんだ。

実績のある特訓なら、間違いは無いか。

どんな事をするんだろう?

ちょっとだけ気になるな。

明日は参加させてもらおうかな。


「戻って来たな」


「罠は仕掛け終わったか?」


ウルさんが、手を振りながら森の奥から戻ってくる。


「はい。ウルさんとガルスさん達は、大丈夫ですか?」


見た限り、ウルさんはいつも通りで問題は無い。

ガルスさん達は、疲れているのが少し離れた場所からでも分かった。


「大丈夫だ。前のように息が出来ないような苦しさは無いし、体も疲れて重いけど痛みは無いから」


ガルスさんの言葉にエバスさんとアルスさんを見る。

確かに、疲れは見えるけど3人とも前の時とはかなり違う表情をしてる。


「どうぞ」


用意しておいた果実水を4人に渡していく。


「ありがとう。それにしても、久々に動いたって気がするわ」


アルスさんが、果実水を飲み干してぐっと背を伸ばす。

疲れて見えるのに嬉しそう。

それを不思議に思って、彼女を見つめる。


「ん? へへっ。ずっと体が何処か重くて、原因が分からなかったからちょっと不安だったんだ。それが無くなって、動いても大丈夫だと思ったら嬉しくって」


ガルスさん達は、体の不調をずっと感じていたらしい。

でもポーションも飲んでいる以上、問題は無いはずだと思い込み、調べていなかったそうだ。

前の体力作りが無ければ、ずっと毒に侵されている事に気付かず手遅れになっていたかもしれない。

そう、ガルスさんが話してくれた。

確かに、ゆっくりと体を蝕む毒は、気付いた時には手遅れな事がある。


「体の疲れは凄いけどな」


エバスさんもそう言いながらも、どこか嬉しそうだ。


「なんだ3人とも、まだまだ元気そうだな」


「「「全然、全く!」」」


凄い、息がぴったりだ。

ウルさんも少し驚いた表情をした後、笑い出した。


「そこまで大声が出せるなら、大丈夫だ」


「しまった」という表情をするガルスさんとエバスさん。

アルスさんは肩を竦めている。


「大丈夫そうだな」


「うん。そうだね」


お父さんから話を聞いて大丈夫だろうとは思ったけど、ウルさんが言う通り思ったより元気だ。

この様子だと、明日はもっと特訓時間が延びるんだろうな。


「そろそろ、行くか。トトムの店に行く予定だけど、ガルス達はどうする?」


予定では一緒に行くはずだけど、疲れ具合から無理な場合もある。


「大丈夫。疲れているけど、問題ない。それよりトトムの店で何か食べられないかな? すごくお腹が減ってしまって」


エバスさんの言葉に、ガルスさんも頷く。

動いたから、お腹が空いているのかな?


「トトムさんの許可が下りたら、何か作りますね」


「本当に? ありがとう」


アルスさんもお腹が空いているのか、私の言葉に嬉しそう。

元々、こめに合う料理を作る予定にしてたから、作る量を増やせばいいよね。

何を作ろうかな?

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― 新着の感想 ―
[一言] 最近のアイビー達はドタバタし過ぎて、『ふぁっくす』のことを忘れてますね! 待っている人達が、かなりヤキモキしていのでは? (;´Д`) アイビーの誕生日も、忘れてますよね……………
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