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635話 あと少し

「アルスさん、おはようございます」


毒消しのポーションも昨日で3本目。

そろそろ毒の成分が体から消える頃だろうと、お医者さんが教えてくれた。


「おはよう」


毒の成分が完全に消えないと内臓がちゃんと治らないため、アルスさんの表情はまだ辛そうだ。

部屋に入ってカーテンを開け、少し窓も開けると気持ちいい風が部屋を満たす。

頑張ろうという気持ちになってくれたらいいけど、どうかな?


「朝ごはんは、食べられそうですか?」


ベッドに腰掛けたアルスさんを見る。


「うん。もちろん」


私の言葉に嬉しそうに笑うアルスさんは、昨日より顔色が良くなっていた。

良かった。


「すぐに持ってきますね」


部屋を出ると、すぐに調理場へ向かう。


「どうだった?」


「3人とも食べるって。それにね、3人とも昨日より顔色がよかったんだよ」


私の言葉に、嬉しそうに笑うお父さん。

それに私も笑みを返す。


火にかけていたお鍋の蓋を開けて、六の実を溶いて回し入れ蓋をする。

少し待ってから火を止めて蓋を開けて、3つのお茶碗に中身を分ける。

細かく切った野菜とこめを、じっくり煮込んだ雑炊。

これなら弱った胃にも優しいはず。


「いい香りだな。さっき食べたのに、また食べたくなってきた」


「お父さん……」


朝からお肉の沢山入ったスープを3杯も飲んで、私の両手ぐらいある黒パンを5つも食べたのに?

お父さんのお腹を見る。

太った形跡は全くない。


「ん? どうした?」


「なんでもない。お昼に作ろうか?」


お父さんに作るなら、野菜はもう少し大きめでここまで煮込む必要はないよね。


「お願いしていいか? 少し前にもう一度作ってみたんだけど、やっぱり美味しくないんだよな」


お父さんは、時々雑炊を食べたくなる時があるらしい。

主に夜中なので自分で作るようだが、美味しく作れないそうだ。


「なんでだろうな? アイビーから教わった通り作っているのに」


お父さんが首を傾げる。

私も同じように首を傾げてしまう。


「本当に不思議だよね。作り方を聞く限り、間違ってないのに」


お父さんが作った雑炊が残っている時があったので、食べた事があるのだが本当に微妙な味だった。

別に塩気が強いとか、野菜が生煮えとかではない。

塩加減も丁度いいし、野菜も柔らかくてちゃんと旨味も出ていた。

なのに、なぜか食べると微妙な印象を受ける味になっていた。


「今日も一緒に作っていいか?」


「もちろん」


私と一緒に作る時は美味しく出来るから、それも不思議なんだよね。

雑炊と相性が悪いとか、あるのかな?

お父さんだけで作ったら、不味くなる?


3人に雑炊を持って行き、暫くするとウルさんがお医者さんを連れて来た。

順番に診察が始まると、ちょっと落ち着かない気持ちになる。

毒は急に牙をむく時があると、本に書いてあった。

もう、「急変することはほとんど無い」とお医者さんから聞いているけど、どうしても落ち着かなくなってしまう。


お医者さんとウルさんがホッとした表情で、食事をしている部屋に入って来た。

その様子を見て、1つ大きく息を吐き出す。

今日も、いい結果が聞けるみたいだ。


「アイビー、安心しろ。ガルスとエバスの毒は完全に消えたから、もう大丈夫だ。アルスは今日の1本を最後に出来るだろうという事だ」


あと少しだ。

本当に良かったぁ。


「先生、ありがとうございました」


「ははっ。どういたしまして」


丸メガネで優しそうな雰囲気の70代ぐらいのお爺ちゃんが、私に向かって柔らかく笑う。

ウルさんが言うには、「見た目に騙されるな、凄い怖い人だから」らしい。

でも、本当にそんな風には見えない。

私の前では絶対に笑顔だし、アルスさん達を診察する手つきもとても優しい。

何が怖いのか、今のところ一切不明。


「これ、どうぞ」


お医者さんにちょっとでもお礼がしたくて記憶を引っ張りだして作った、みたらし団子というお菓子。

こめを潰して丸めて、軽く焼いて甘めのポン酢味で味付けした甘味。

記憶では、もっと粘り気がある団子のようだけど、ここのこめではちょっと粘りがあるぐらいが限界。

作り方は間違っていないと思うけど……こめが違うのかな?

どうやったら、あんなに伸びる状態に出来るのか。


「ありがとう。頂くね」


気に入ってくれたのか、6本を満足そうに食べて帰って行った。

明日また様子を見に来てくれるそうだ。

明日でアルスさんも、「大丈夫」とお墨付きが出たらいいな。


「そうだ。ガルス達に毒を盛った商売人達が捕まったから」


お昼を作るために調理場で準備をしていると、ウルさんがみたらし団子の皿を抱えながら教えてくれた。


「残しておけよ」


「残念。あと5本だ」


お父さんの言葉に、首を横に振るウルさん。

5本もあれば、2本ぐらいは残せると思うんだけど。

ん?

5本?


「はぁ? 20本はあっただろう?」


「そんなにあったのか?」


ウルさんが驚いた表情でお父さんを見る。

お父さんは呆れたようなため息を吐き、ウルさんからお皿を奪う。

残りは3本。


「疲れているのか?」


「……ははっ」


乾いた笑いをするウルさん。

そういえば、森から帰って来てからバタバタとしてたな。

ジナルさんも、ここ3日帰って来てないし。

そろそろ落ち着くと言っていたような気がしたけれど。

教会でまた何か見つかったのかな?


「まぁ、大丈夫だよ。それより捕まえた奴らを調べたら、余罪が出るわ出るわ」


余罪?

ガルスさん達以外にも被害者がいたんだ。


「どんな余罪だ?」


「まぁ、毒殺だな」


ウルさんが肩を竦める。


「死んでるのか?」


「そう、それも今わかっているだけで7人。もっと増える可能性がある。捕まった者達は、王都にある大きな店の買い付けを担当していたそうだ」


大きな店?

それなら、犯罪に手を染めるなんて勿体ないな。

しっかり働けば、暖簾分けだって期待できるのに。


「被害者は冒険者か?」


「冒険者もいるな。移動中の護衛に当たっていた冒険者が3名。商売敵が2名。残り2名は、荷物を奪うために殺したようだ」


酷い。

護衛してくれた人を殺しただなんて。

命を懸けて守ってくれた人達なのに!


「賃金を出し惜しみしたか?」


お父さんが嫌そうな表情を見せる。

仕事をして殺されるなんて、許せないんだろうな。


「そうだ。というよりも遊び過ぎて、払う金が無かったそうだ」


最悪な人達だったんだね。

あれ?

商売敵は、どうして毒を盛られたんだろう?

荷物を奪うために殺したのは、仕入れするためのお金を使ってしまったからだと思うけど。


「あの、商売敵はどうして殺されたんですか?」


「賭け事をして借金を作ったらしい。その借金相手に依頼されたそうだ。2人を殺したら、借金を帳消しにすると。借金は、相当な額になっていたそうだから。既に殺していた彼らにしたら、うまい話だろうしな」


「はぁ」


遊びって賭け事の事だったのか。


それにしても、凄い危険な人達にガルスさん達は毒を盛られていたんだね。

ガルスさん達が生き延びられたのって奇跡なんじゃ。


「ガルス達は、見抜けなかったのか? それまでは交渉する相手を慎重に選んでいたのに」


そういえば、そうだね。


「交渉したのは、真面目な人物だったから見抜けなかったんだ。どうも、二手に分かれて仕入れをしていたみたいで。毒を盛った者達の事は、移動を始める日に紹介されたらしい」


それは……お父さんも複雑な表情で頷いているし、運が悪かったのかな?


「真面目な方は、気付いてなかったのか?」


そうだ!

一緒にいるなら、何かおかしい事に気付いたのでは?


「遊びについては気付いて、問題視するつもりだったらしい。人まで殺していたと聞いて『まさかそんな事まで』と驚いていたそうだ」


それはそうだよね。

まさか一緒に仕事をしている隣の人が、人を殺しているとはそうそう思わないだろう。

思うとしたら、何かを見た時ぐらいだ、たぶん。


本日より更新を再開いたします。

どうぞ、よろしくお願いいたします。


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― 新着の感想 ―
料理は愛情が詰まってるからね
[一言] 今回お団子が作れたことをオール村のお義姉さんに教えてあげるのかな。前にコメの甘味を一緒に考えるというお願いを叶えられなかったことを気にしていたからね。 ふぁっくすでは危なさそうだから、アイビ…
[気になる点] 米を半分ついたのなら、半殺しwですね。 丸めてありますが、みたらし団子というより、五平餅みたいですね~ ちなみに他の方が書かれていました、うるち米とは、普通のお米のことです。市販の主…
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