633話 名前かぁ
「皆、村に戻ろうか」
ジナルさんが持ってきた特殊な魔力を含んだマジックアイテムは、無事に処理が出来た。
マジックアイテムが綺麗に食べきられた時のジナルさんは、かなりホッとした表情をしていた。
もしかしたら、想像より問題は大きかったのかもしれない。
ジナルさんやウルさんは心配掛けないように隠してしまうから、態度からは分からないんだよね。
「ぷっぷ?」
「『どうして』じゃなくて、もう夕方になるし村に戻ろう。お腹もいっぱいになったでしょ?」
「ぷっぷぷ~」
ソラが納得したように鳴いた後、心配そうに新しい3匹のスライムを見た。
あっ、そうだ。
あの子達は、村に一緒に入っても大丈夫なんだろうか?
村の近くとはいえ、捨て場に置いていくことは出来ない。
スライムは、弱い魔物だからね。
「ジナルさん、3匹のスライムも一緒に行っていいですか?」
「あぁ、もちろんだ。ギルマスと団長には仲間に説明させたから。あと、3匹が暮らす場所の提供もさせるつもりだ」
「どういう風に説明させたんですか?」
「『問題になっているゴミの処理に、スライムが協力してくれるらしい。テイムはしていないが問題ないので村に入れる予定』と簡単に説明させておいた」
ギルマスさんも団長さんも、その説明だけでは困っただろうな。
村に戻る準備をしながら、ギルマスさんと団長さんを気の毒に思ってしまった。
「どんな説明をしても、見ない事には理解出来ないだろうから。誤解が無いように簡単にした。あとは、村に戻って実際に見てもらう」
聞くより、見た方が理解は早いか。
それにしても、ジナルさんは3匹に会う前に既に村に入れる事を決めてたんだ。
「ソラ達の紹介だから」と言ってくれてソラ達を信用してくれるのは嬉しいけど、それでいいのかな?
ちょっと不安だ。
「村に戻るね。今日は元気な姿を見せてくれてありがとう」
帰る準備が済んだので、ラビネラに声を掛ける。
遊んでいた子達も、寛いでいた子達も声を掛けると集まってくれた。
なんだか、可愛い。
「「「きゅっ」」」
みんなの羽がパタパタ。
凄く、可愛い。
ラビネラ達を見てると、ほんわかしてしまうな。
……駄目だ、戻ろう。
見ていたら、いつまでもここにいたくなる。
「またね」
手を振って、村に向かって歩き出す。
もう一度振り返って手を振ると、ラビネラ達は森の奥へ戻っていった。
帰っちゃった。
「また、会えたらいいな」
「うん」
お父さんの言葉に、去って行った森を見る。
今度はもっと触らせてもらおう。
「アイビー。3匹のスライムは、マジックアイテムを食べる余裕があるかな?」
ジナルさんが、ソラ達に交じって村に向かっている3匹を見る。
「実際に見てもらう」と言っていたから、ギルマスさんや団長さんの前で、マジックアイテムもどきを処理するのかな。
「えっ、どうだろう。3匹の新しいスライムさん。まだ、マジックアイテムを食べる事は出来るかな? お腹に余裕ある?」
呼びにくいな。
私の言葉に、3匹が私を見る。
「「「ぷっ」」」
ソラ達を見て学んでみるみたいだから、これは「食べられる」と思っていいかな?
「いっぱい、食べられそう?」
「「ぷっ」」
「……」
2匹は大丈夫。
1匹は、いっぱい食べる事は無理という事でいいかな。
「2匹はまだまだ余裕があるみたい。1匹はあと少しかな?」
「分かった。でも、アイビーは凄いな」
ジナルさんの言葉に首を傾げる。
今の3匹との会話で凄いという感想はどこから出たんだろう?
「ところでアイビー、3匹の名前は決めなかったのか?」
「えっ? はい。私と一緒に行動する子達じゃないので。オカンイ村の関係者の人に、名前は付けてもらうべきじゃないかと思って」
これから、この子達の面倒を見る人やギルマスさんや団長さんが、名前を考えた方が良いと思う。
「そうなのか? でも、名前が無いと不便だな」
まぁ、そうだろうな。
今も凄く呼びにくかった。
「仮の名前として1、2――」
「それは可哀想です」
さすがに番号呼びはどうだろう?
ウルさんも、ジナルさんの言葉に引いてるよ?
「そうか?」
あっ、本気で番号を付けようとしてたみたい。
否定されてちょっと驚いている。
「アイビーが付けた方が良いんじゃないか? ギルマスや団長に名前を付けさせるのは止めた方が良いぞ」
えっ、そうなの?
ウルさんを見ると、肩を竦められた。
何か、そう思わせる過去があったんだろうか?
「あの2人だったら、オイ、カイ、インと付けるだろうな」
予想まで出来るの?
というか、そのオイ、カイ、インはどこからきたんだろう。
ん?
オイ、カイ、インという言葉は馴染みは無いはずなのに、聞いた事があるような気がする。
何処かで似たような言葉を聞いたような……どこだ?
「オカンイ村を利用した名前か」
お父さんが、微妙な表情でウルさんを見る。
オカンイ村?
オイ、カイ、イン……あぁ、なるほど。
「間違いなく、あの2人ならオイ、カイ、インだ」
ギルマスさんや団長さんの事に詳しいウルさんが断定をするのだから、そうなるんだろうな。
まぁ、オイ、カイ、インは呼びやすくはある。
そっと新しい3匹のスライムを見る。
なんだかちょっと不満そうな表情をしているように見える。
「スライムさん達は、オイ、カイ、インという名前どうかな?」
「「「……」」」
嫌なんだね。
3匹とも無言で凄い表情になった。
「そんなに嫌なのか」
ジナルさんがちょっと感心したように言うと、濁った緑色のスライムが凄い表情のままジナルさんを見た。
その視線に、ちょっとたじろぐジナルさん。
たぶん、仮だとしても数字を名前にしようとしたからだろうな。
ちゃんと意思表示をする事は、大切だね。
「やっぱりアイビーが付けた方が良いんじゃないか?」
「私、得意じゃないんだけど」
「大丈夫だって」
ウルさんの言葉に、少し考えてみるが何も思い浮かばない。
どうしよう。
色から何か思いつかないかな?
薄い青色のスライムは薄い青だから……ヒソク?
ん? ヒソクってどういう意味だろう?
前世の私の記憶なんだろうけど……思い出すのはヒソクという名前だけか。
でも、ヒソクか。
いいかもしれない。
次は、濁った緑色のスライムだから……マオノハ、トクサ、モエギ?
色の印象から浮かんだ名前はこの3つ。
多分色に関する名前のようだけど、やっぱりここまでしか思い出さないよね。
もう、思い出すのは諦めよう。
で、この3つの中ならモエギがいいな。
最後の濃い緑色のスライムは、何か思い浮かぶかな?
えっと、フルチャにコケ、リョクチャ。
また3つだ。
この中ならフルチャ? コケ?
ん~、コケかな。
響きが可愛い。
「決まったか?」
「えっと、一応思い浮かびましたけど、仮の名前ですよね?」
ウルさんが首を傾げる。
「仮じゃなくてもいいんじゃないか? 3匹も名前を付けてもらえると思ったのか、興味津々みたいだぞ」
3匹?
ウルさんの視線が私の足元に移動するので見ると、3匹のスライムがじっと私を見ていた。
その表情は確かに、興味津々という感じだ。
「皆の名前を、私が決めていいの?」
「「「ぷっ」」」
仕方ない、覚悟を決めよう。
「じゃあ、言うね。薄い青色の君はヒソク。にご、えっと緑色の君はモエギ。濃い緑色の君はコケだよ」
3匹はちょっと考える様子を見せた後、嬉しそうにその場で飛び跳ねた。
お気に召したらしい。
「ヒソク、モエギ、コケか。面白い響きの名前だな」
ジナルさんが、どの子がどの名前なのか確認して頷いた。
どうやら、おかしな名前にはなっていないようだ。
本当に良かった。