632話 3匹の食事
「なんか……勿体ないな」
捨て場に到着したジナルさんは、周辺を見回してなぜかすごく残念そうな表情をした。
「勿体ない?」
不思議な言葉に、捨て場を見回す。
勿体ないとは、どういう事だろう?
いつも通り、ソラとフレムは大量のポーションと剣を競うように食べている。
その光景はちょっと引くけど、勿体ないという言葉には合わない。
「凄いね」という言葉なら合いそうだけど。
ソルの周辺は、複数の魔力が浮いているので不思議な光景にはなっているが、こちらも勿体ないとは思わないだろう。
新しい3匹は、ソルの傍にいるだけで何もしてないから、関係ないだろうし。
ラビネラの事かなと考えたが、どうも釈然としない。
捨て場を走り回って遊んでいる子達と、捨て場の外で寛いでいる子達を見ても勿体ないとは出てこない。
「ジナルさん、どういう意味ですか?」
全く意味が分からないので、ジナルさんに視線を向けると苦笑された。
「ここが捨て場なのが勿体ないと思ってさ」
捨て場?
「スライムとラビネラとアダンダラ。ゆっくり食事したり遊んだり寛いだり。場所が違ったら、神秘的な風景になると思わないか?」
捨て場でないと食事にならないけど、そういう事は無視して考えるんだろうな。
まぁ確かに、これが花畑とかだったら……うん、神秘的な風景かも。
強い魔物と弱い魔物と小型の動物が、一緒にいるんだもんね。
「なのに捨て場……勿体ない」
いや、そんなにしみじみ言われても。
それに捨て場だからこの風景なんだし。
「アイビーといると、退屈しないな」
「えっ、ラビネラが集まってきたのは、私のせいじゃないですよ」
ウルさんの言葉に首を横に振ると、肩を竦められた。
いや、違うから。
「でもたぶん、俺達ではラビネラは集まって来なかったと思うぞ」
そうなのかな?
「確かにアイビーにはサーペントも集まってくるからな」
お父さんまで!
ただ、それは本当の事だから否定は出来ないし。
本当、どうしてラビネラは此処に集まってきたんだろう。
「この近くに寝床があるとか」
「いや、そんな話は聞いた事が無いな」
ウルさんが首を横に振る。
「理由は分からないが、本当に凄い光景だな。ラビネラには触れるのか?」
「はい」
皆大人しくていい子だから、触り放題です!
「ははっ、アイビーには警戒心を抱かせない何かがあるのかもな」
さすがにそれは無いと思うけどな。
他の小動物は逃げていくし、魔物も襲ってくるからね。
「それでドルイド、新しいスライムが俺の抱えている問題を解決してくれると聞いたんだが」
そうだった。
ジナルさんに、新しい3匹のスライムを紹介するんだった。
「ソルの傍にいる3匹だ」
「えっと……あぁ、あの3匹か」
「能力は不明。ただ、ソラ達がジナルの問題を耳にして連れて来たようだ」
ジナルさんがソラ達を見る。
「凄いスライムだとは思っていたが、予想を超えるよな」
それはソラ達の事だよね。
私も、改めて今日実感した。
ソラ達は、本当に凄いと。
「それで、問題のマジックアイテムは持ってきたのか?」
「あぁ、持ってきた」
ジナルさんが、肩から提げていたマジックバッグから3点、マジックアイテムを取り出した。
3個とも両手で抱えられないほど大きい。
それにしても、このマジックアイテムは何だろう?
「なんだこれ。初めて見るな」
「このマジックアイテムは、4つか5つのマジックアイテムを魔法陣を使って混ぜ合わせたようなんだ」
えっ、混ぜ合わせた?
それってマジックアイテムとして使えなくなるんじゃないの?
「魔物を暴走させるために、効率のいい魔力を探していたという事か」
お父さんの言葉に、ため息を吐きながら頷くジナルさん。
「こんなのが膨大にあるみたいだが、問題は数だけか?」
「違う。膨大な数でも処理が出来れば、時間はかかるが対処出来る。問題は、中に含まれている魔力が異常な変化をしている事なんだ。村に居るスライムでは処理が出来なかった」
ん?
村には、マジックアイテムを処理できるスライムがいるんだ。
ソルと一緒だ。
どんな子だろう。
「どうした?」
お父さんが私を覗き込む。
「ソルみたいにマジックアイテムを食べる子がいるんだなって思って。珍しいですよね?」
色々なスライムがいるけど、マジックアイテムを食べる子は珍しかったはず。
「あぁ、レアではないが。珍しいスライムになるな」
ジナルさんの言葉に、やっぱりと頷く。
「オカンイ村には、1匹のマジックアイテム専用のスライムがいるんだが、その子の食べ方を見ると驚くと思うぞ」
食べてるのを見て驚く?
「どんな食べ方をするんですか?」
「人の手でマジックアイテムを分解して、魔力が溜まっている部分を取り出してスライムに食べさせるんだ」
人の手で分解?
それは凄く大変では?
「ソルが丸ごと食べてくれる子で、よかった」
「本当だな」
私がしみじみ言うと、お父さんも頷く。
「あっ、ジナル。あの子達だ」
ウルさんの言葉に視線を向けると、離れた所にいた3匹のスライムがこちらに向かって来るのが見えた。
そして、ジナルさんが持ってきたマジックアイテムもどきの傍で止まった。
マジックアイテムの機能が無いなら「もどき」でいいよね。
使えるマジックアイテムと、区別する呼び方が必要だと思うから。
「どうやって処理するんだろうね?」
ジナルさん達には申し訳ないけど、ちょっとワクワクしてしまう。
「「「パクン……シュー、シュー、ドロッ。パクン……シュー、シュー、ドロッ」」」
「「「「…………」」」」
溶けてる。
3匹の口の中でマジックアイテムもどきが、ドロッて溶けてる。
何だろう、ちょっと……うん。
表現しにくいし、ちょっと目を逸らしたくなるかな。
「何というか、あれだな」
ジナルさんが、言葉を濁す。
ウルさんもお父さんも、微妙な表情で頷いている。
「まぁ、食べ方はちょっとグロ……独特だけど、これで処理が進むだろう。ソルほどではないが、処理能力はそこそこ早いし」
「そうだな」
ジナルさんとウルさんの言葉を聞く限り、問題は何とかなりそうかな。
そういえば、変化した魔力もこのまま溶かして食べるのかな?
……魔力って溶けるの?
「「「「あっ!」」」」
濁った緑色のスライムの周りに、小さな黒い球体が浮かぶ。
「これって、ソルと同じで魔力の塊?」
ソルがマジックアイテムから取り出す魔力の塊。
ソルの作る物より大きさは少し小さいが、似ている。
「魔力の塊で合ってるみたいだ」
お父さんが、浮かんだ黒い球体に手を近付け調べてくれた。
もしかして、さっきソルが久しぶりに魔力を取り出して食べたのは、3匹にその方法でも伝授していたんだろうか?
「ぺふっ」
えっ?
ソルの鳴き声が聞こえたので足元を見ると、ソルが濁った緑色のスライムを見ていた。
「ソル、見に来たの?」
「ぺふっ」
呼び声に、ちらりと視線を私に向けるソル。
でも、すぐに視線を戻してしまう。
「ぷっぷ~」
「てっりゅ~」
ソラとフレムも、心配そうに濁った緑色のスライムを見た。
濁った緑色のスライムの様子を見ると、空中に浮かぶ魔力の塊に近付きそれを興味深そうに見つめている。
そして、パクリと口の中に入れた。
「食べたよな?」
「あぁ」
ジナルさんの言葉に、お父さんが頷く。
パクリ。
あっ、また食べた。
「ソラ達からの紹介だから心配はしてなかったが、よかった。これで問題が解決だ」
ジナルさんが安堵の息をつくと、残りの2匹も周りの魔力の塊を浮かべ食べ始めた。
良かった。
3匹いれば、大量にあるマジックアイテムもどきも何とかなるよね。