630話 何か変
あと30分ほどでオカンイ村に着くという場所で、最後の休憩を取る事になった。
新たにスライム3匹が増えたので、このまま村に帰るのかも決めなくてはいけない。
「どうする?」
ウルさんが増えた3匹のスライムを見る。
3匹は、私の足元でのんびり寛いでいる。
結構な距離を移動したが、ソラ達も新たな3匹も疲れていないようだ。
スライムは、見かけによらず体力あるよね。
「どうすると言われても困るんだが。問題になっているマジックアイテムを処理してくれるなら、ギルマス達には、話しておいた方がいいんじゃないか?」
「そうだよな。その方が、この3匹を守れるだろうし」
守れる?
ウルさんの言葉に首を傾げる。
あっ、レアスライムは盗まれる可能性があるのか。
でもこの3匹が、レアスライムだと決まったわけではないのだけど。
まぁ、普通のスライムとは異なるからレアの可能性が高いのかな?
あれ?
何をすればレアスライムと認められるんだろう。
普通と少しでも異なると、レアスライム?
「ウルは、ジナルを呼びに村に行ってくれないか? ギルマスに伝えるとしても、ジナルに話を通した方がよさそうだ。ジナルは、今日も教会にいるんだろう?」
「あぁ。証拠品を、移動するための準備に取り掛かっているはずだ。俺が村に行っている間、ドルイド達はどうするんだ?」
「そうだな。ソラ達に食事をさせながら捨て場で待ってるよ。3匹も連れて行く。ガルス達はどうする? ウルと一緒に村に戻るか? それとも俺達と一緒に捨て場に行くか?」
疲れからぼうっとしていたガルスさんが、お父さんの言葉にハッとした表情をした。
「かなり疲れているが、大丈夫か?」
「大丈夫とは言えないですが、まだ歩けます」
「分かった。それで、ウルと一緒に村へ戻るか。俺達と一緒に捨て場へ行くか。3人はどうしたい?」
ガルスさんが、エバスさんとアルスさんを見る。
「村へ戻ります。エバスもアルスもそれでいいよな?」
2人が無言で頷くので、ガルスさん達はウルさんと一緒に村に戻る事が決まった。
3人の様子を考えれば、早く村へ行ってゆっくり休んだ方が良いもんね。
布を冷たい水に浸して軽く絞ると、アルスさんに持って行く。
彼女の顔を見ると、火照っているのが分かる。
冷たい水も用意した方が良いかな?
「アルスさん、これどうぞ」
「ゼーハー、ゼーハー、ありが、とぅ」
かなり呼吸が荒いな。
普通は休憩をすれば少しは落ち着くのに、全くその様子が見られない。
大丈夫なのかな?
「ごめんな、3人とも。まさかこんな状態になるとは思わなかったんだ」
ウルさんの謝罪にガルスさんが首を横に振る。
「今までちゃんと体力作りをしてこなかった俺たちの責任です。だから気にしないでください」
「体力ね」
ウルさんの視線が微かに鋭くなる。
それに首を傾げる。
どうしたんだろう?
「そうだ、今日は少量の青のポーションを飲んでから寝てくれ」
青のポーション?
痛みを軽減する緑のポーションではなく青?
ウルさんを見ると、ガルスさんに青のポーションを1本渡している。
本当に青のポーションなんだ。
それって怪我を治すポーションだよね?
疲れは取れないと思うんだけど。
「青のポーションは、筋肉疲労や筋肉痛を軽減してくれるんだ。3人の様子を見る限り、足の疲れは今日1日では取れそうにないだろう?」
お父さんの説明に、3人を見て頷く。
明日の方が、酷い状態になってそうだ。
それにさっきから、アルスさんとエバスさんが足を気にしている。
既に筋肉に痛みがあるのかもしれない。
それにしても、筋肉疲労や筋肉痛に青のポーションが効くのは知らなかったな。
「筋肉痛の原因は、傷ついた筋繊維を修復するときに起こる痛みなんだ。その修復をちょっとだけ青のポーションで手助けすると、痛みが軽減されるんだ」
「なるほど」
ガルスさんを見ると、ウルさんから受け取った青のポーションを大切そうに持っていたポーチに入れていた。
「行き先も決まったから、そろそろ向かいたいんだが。……歩けるか?」
ウルさんが心配そうにガルスさん達を見る。
ガルスさんが大きく息を吐くと立ち上がり、エバスさんとアルスさんの肩を軽く叩いた。
「ほら、立って。あと少しだから、頑張ろう」
「う~、あと少しだ」
エバスさんが、ガルスさんの手を借りて立ち上がる。
最後と聞いて、少しやる気が出たみたいだ。
アルスさんもガルスさんに手を借りて立ち上がるが、ふらついているのが見えた。
「大丈夫か?」
ガルスさんの問いに、小さく頭が上下に動く。
声を出すのも、つらいようだ。
そんな状態のアルスさんを見て、ウルさんが困った表情を見せた。
「この状態では、1人で村までは歩けないな。俺も荷物があるし」
確かに、アルスさんの状態では無理だろうな。
それにしても、まだ呼吸が荒い。
これって全然落ち着いていないよね?
変だな。
「シエル、ごめん。オカンイ村の近くまでアルスを支えてくれないか?」
えっ?
シエルがどうやって支えるんだろう?
「にゃうん」
「シエル、いいの? 無理はしないでね」
迷いなく答えるシエルの頭を撫でると、ゴロゴロと喉の鳴る音が聞こえた。
「ウルさん、シエルがどうやって支えるんですか?」
「そうだな。アルス、シエルに凭れ掛かった状態で歩くことは出来るか?」
アルスさんが、シエルの背中に体を凭れさせるとゆっくりと歩き出した。
「出来、そう」
微かに聞こえたアルスさんの声に、ウルさんが頷く。
「そうか。それならゆっくりと村に戻ろうか」
アルスさんの歩く速度に合わせて、ゆっくりと村に向かう。
…………
ほぼ1時間かけて村と捨て場へ行く分かれ道まで来ると、ウルさんがシエルからアルスさんを受け取り背負った。
ウルさんが持っていた荷物は、お父さんが預かる事になったようだ。
「このマジックバッグには、何が入っているんだ?」
お父さんがウルさんから受け取ったマジックバッグを見る。
「体力作りに必要な物だな」
どんなものが入っているのかちょっと気になるな。
そんな私の気持ちに気付いたのか、私を見たウルさんが苦笑する。
「アイビー、気になるなら中身を見ても大丈夫だぞ」
「本当? ありがとう」
「ドルイドが使い方を知っているはずだから、使うんなら聞くといい」
使ってもいいんだ。
捨て場に行ったら、中身を確かめさせてもらおう。
「じゃ、ジナルを捕まえたら捨て場に連れて行くから」
「あぁ、頼む。ガルスもエバスも気を付けて」
「ありがとう、ございます」
ガルスさんが頷くと、エバスさんも小さく頷いた。
今度はエバスさんの呼吸が荒くなってる。
アルスさんの状態と似てるかな?
「エバスさん、アルスさん、ゆっくり休んでくださいね。夕飯は部屋まで持って行くので、食べられそうなら食べてください」
食べやすいのはスープかな?
なるべく野菜は細かく切って、とろけるぐらいまで煮込んでおこう。
4人が見えなくなるまで見送ると、捨て場へ向かう。
「お父さん、アルスさんの呼吸だけど変じゃなかった? エバスさんもだけど」
「あぁ、疲れから来るものとは少し違って見えたな。ウルも気付いていたから、医者を手配するだろう」
やっぱり気付いていたのか。
途中で少しウルさんの様子がおかしかったもんね。
「病気なら、フレムのポーションが役に立つかな?」
いや、病気なら既にフレムが反応してるか。
そうなると、病気ではないという事なのかな?
「それは……」
「お父さん? どうしたの?」
「……もしかすると、毒で内臓が侵されているのかもしれない」
あぁ、毒だったんだ。
「えっ、毒?」
「まだ、分からないけどな」
そうだけど、毒なら大変な事だよね。
大丈夫かな?