629話 まずは、教えて。
「森の奥にいたの?」
「ぷっ」
「人と交流するのは初めて?」
「ぷっ」
初めてかぁ。
「そうだ村に来ても、他のスライム達に敵視されたりしない?」
「ぷっ」
えっと、鳴いたという事は「しない」だよね。
「よかった。協力してくれたスライムが仲間達から狙われたら悲しいから。家族はいるの?」
「……ぷっ?」
あれ?
疑問形だったな。
意味が伝わらなかったのかな?
「えっと、家族が何か分かる?」
「……」
分からないのか。
ソラ達は分かっていたから、人と関わると家族が何か理解するのかな?
「分からないなら、いいんだ。仲のいい仲間はいるの?」
「ぷっ」
仲間がいるなら寂しくないね。
新しい3匹は、私の様子をちらちら見ながら隣を飛び跳ねている。
動きは、ソラ達ほど激しくなく優しい感じだ。
ただ、人に慣れていないからなのかちょっと挙動不審気味だ。
それが、ソラ達とは違う可愛らしさを見せている。
「3匹とも、可愛いね」
「「「ぷ~」」」
あれ?
もしかして今、3匹で鳴いた?
鳴いたよね?
ずっと薄い青色のスライムの子が返事をしてくれていたんだけど、とうとう皆が返事をしてくれた。
「嬉しい。ソラ、この子達いい子だね」
「ぷっぷぷ~」
なぜかソラが自慢げに鳴くので首を傾げる。
もしかして3匹を見つけたのはソラなのかな?
「この3匹を見つけたのはソラなの?」
「……」
違うんだね。
まぁ、そんな事は気にしないよ。
「連れて来てくれて、皆ありがとう」
「にゃうん」
「ぷっぷぷ~」
「ぺふっ」
1匹足りないよね。
シエルの背中に視線を向けると、フレムは既にお休み中。
気持ちよさそう……待って、シエルの背中がちょっと濡れているような。
最近は落ち着いていたのに、間違いなく涎だよね?
「久々に凄いな。疲れているのか?」
お父さんが私の視線の先を見て苦笑している。
疲れたから口元が緩んだの?
「あとでしっかりシエルを拭かないと。べたべただよね?」
「そうだろうな、間違いなく」
シエルは、もう少し気にしようよ。
「シエル、大丈夫?」
「にゃうん」
なぜかシエルの視線が、子供を見守る母の目に見えて仕方ない。
「おい、ドルイド」
ウルさんがお父さんの腕をポンと軽く叩くのが見えた。
なんだか、声がいつもと違う気がするけど何か森に変化でもあったのかな?
気配からは、変化は感じられないんだけど。
「俺は、何を見ているんだ?」
見てる?
ウルさんを見ると、私を見ていた。
私?
「テイムされていないスライムとアイビーが交流する光景だな」
そういえば、テイムされていないんだったな。
普通に対応してくれるから、そんな事はすっかり忘れてた。
「驚かないんだな」
「今までの経験上、これぐらいなら」
お父さんがなぜか遠い目をしている。
そんな表情をさせるような事は、していないと思うけどな。
「いや、でも。テイムしてないんだぞ?」
「ソルも最初は、テイムさせてくれなかったからな」
「えっ!」
「それでも、名前を付けて一緒に旅をしていたぞ」
「テイムしてないのに名前? 旅?」
ウルさんの戸惑った声に苦笑してしまう。
私としては「テイムは断られたけど、仲間が出来て嬉しい」だったけど、普通はウルさんぐらい戸惑う事なんだよね。
あれ?
そういえば、ソルをテイムしたのはいつだっけ?
えっと、確かハタカ村だ。
そうそう、私が見ている前でソルの額に印が浮かんだんだった。
あれは驚いたな。
「はぁ。なんだか疲れたな、休憩するか」
ドサドサドサ。
ウルさんの言葉に後ろから音がするので見ると、ガルスさん達が地面に膝をついていた。
全身で呼吸しているのが分かる。
「お茶を用意しますね」
マジックバッグから、人数分のコップを出す。
「ぷっ?」
ん?
濁った緑色のスライムが不思議そうにコップを見ているので、目の前に置いてみる。
「これは飲み物を入れるコップだよ」
「ぷっ」
分かったのかな?
「あっ、何か飲みたいの? 水でいいかな?」
深めのお皿を出して水を満たして、濁った緑色のスライムの前に置いてみる。
「飲んでも大丈夫。ただの水だよ」
水を入れたお皿を、じっと見つめる濁った緑色のスライム。
真剣に見てるけど、楽しいのかな?
マジックバッグから簡易コンロと小さめの鍋を出す。
煮だして入れた方が美味しい茶葉も出して、お鍋に放り込み水を入れてコンロで温める。
「それは水から入れる茶葉なのか?」
ウルさんが鍋の中を覗き込み首を傾げる。
普通は沸騰したお湯に茶葉を入れるからね。
「沸騰させずに、ゆっくり煮だした方が私が好きな味なので」
パシャン。
「「えっ?」」
音がした方を見ると、濁った緑色のスライムが深めの水の中に浸かっていた。
そして楽しそうに、水の中を飛び跳ねている。
どうやら気に入ったらしい。
「元気だね。今日は暑いもんね」
置いた場所がちょっと遠くてよかった。
ぎりぎり、水が掛からなかった。
「なんだか、いちいち反応するのが馬鹿らしくなってきたな」
ウルさんの声が聞こえるが、小さすぎてよく聞き取れない。
「なんですか?」
「いや、うん。なんでもないかな」
曖昧な言葉に珍しいなと、ウルさんを見る。
「常識は、意外に簡単に壊されるんだな」
常識?
あぁ、テイムしないと意思の疎通は出来ないと言われているもんね。
「アイビーが普通に会話をしだすから、驚いたよ」
「えっ、そうですか?」
ウルさんが3匹のスライムを見て頷く。
「テイムしていないスライムから、返事が返って来ただけでも驚いたのに、楽しそうに話しだすから、無茶苦茶驚いた」
ウルさんだったら会話に入ってきそうなのに静かだったのは、驚いていたからなんだ。
「意思疎通が出来たら、色々聞きたくなりませんか? どんな性格のスライムなのか、わかったら楽しいですし。あと、心配もありました。人と関わったスライムがどうなるのか」
スライム仲間に非難されるなら、マジックアイテムの処理が終わった後の事も、ちゃんとお願いしとかないと駄目だし。
「まぁ、確かに気になるな」
でしょ?
「でも、それですぐに話しかけようとは考えないかな。少し様子を見てからになると思う」
様子を見てか。
確かに、それも必要だろうな。
「ウルさんは、今も様子見ですか?」
「いや、ちょっと話してみたいけど。……話すにはどうしたらいいかな?」
普通に問いかけたらいいと思うけど。
「皆、ウルさんがお話ししたいって。いい?」
「「「ぷっ」」」
「いいみたいですよ」
「あ~、うん。簡単だったな」
ウルさんはたぶん構えすぎ。
もっと気軽に声を掛けたらいいのに。
「えっと……、これから村に行くまでよろしくな」
「「「ぷっ」」」
「………」
「「「…………」」」
えっ、まさかそれだけ?
ウルさんをみると、3匹を見ている。
3匹は、じっと見てくるウルさんに戸惑っているようだ。
「ウルさん?」
「アイビー。テイマーでもないのに、しかもテイムされていないスライムと会話が出来てしまった。あの、人を見たら襲う事しか考えないと言われているスライムと」
「あぁ、そんな風に言われていましたね」
しかも、本当の事なんだよね。
何度か森でスライムとは遭遇したけど、会った瞬間に襲ってくるから逃げたなぁ。
……それを考えたら、テイムしていないスライムとの会話は凄い事か。
なるほど。
いや、ソルとも普通に会話出来たし。
駄目だ、混乱してきた。
えっと、スライムにも色々な性格の子がいるという事でいいか。
うん。