616話 村の変化
お父さんとウルさん、2人と一緒にトトムさんの店に向かう。
ガルスさん達も誘ったが、3人で話し合った末に断られた。
アルスさんの疲れが取れていないらしい。
ゆっくり眠れていないのかもしれないな。
歩きながら村の様子を窺うと、サフサさんが言った通り村の様子が昨日とは違った。
「言っていた通りだね」
「そうだな。今は、噂の真偽を確認しているところだろう」
お父さんの視線の先には、10人ほどの人が集まり話し込んでいる姿があった。
見ると、泣いている女性とその女性を抱きしめる男性の姿が目に入る。
「この村の人達にとって教会は、心の拠り所だったからな」
大通りに出ると、ウルさんとお父さんが私の横に来る。
2人の様子から、少し警戒を強めたのが分かった。
「教会に対して怒りを感じる者も多いだろう。そんな者達が集まったら危険だ。少し急ごうか」
ウルさんの言葉に、少し歩みを速める。
暫く歩くと、トトムさんの店が見えた。
お店に近付くと、2人の男性がお店から出てきた。
その2人の様子に首を傾げる。
他の人達とは違い、どこか嬉しそうに見えたのだ。
2人は、私達に気付くと顔を隠すように頭を下げ、そのまま店から離れてしまった。
「あの2人、顔を見られたくない雰囲気だったな」
違和感を覚えたのか、お父さんが2人に視線を向ける。
「……」
無言のウルさんに視線を向けると、眉間に皺を寄せて何か考えているのが分かった。
2人の事を知っていたんだろうか?
「知っている奴らだったのか?」
「知ってはいるが、知り合いではないな。ただあの2人は、大丈夫だ」
少し迷うように言ったウルさんに、お父さんが怪しむ表情になる。
「それより、さっさと買い出しを終わらせよう」
お父さんの視線を振り切ると、お店に勢いよく入って行くウルさん。
「なんだろうね?」
「もしかして」
ん?
お父さんに視線を向けると、2人が去った方を見ていた。
「お父さん?」
「なんでもないよ」
ウルさんもお父さんもどうしたんだろう?
凄く気になる。
原因はさっきの男性2人だよね。
……駄目だ、何にも思い浮かばない。
「ははっ、眉間に皺が寄ってるぞ。話せる時が来たら話してくれるさ」
「うん。そうだね」
トトムさんの店に入ると、ウルさんとトトムさんが話している姿が目に入った。
声を掛けようと思ったけど2人の雰囲気に、止まる。
「必要な物を探そうか」
お父さんも2人の雰囲気に声を掛けるのを止めたようだ。
「分かった。お父さんは、万能ソースを探してくれる?」
この村のソースは夏にお薦めのさっぱり系。
お肉にも合うんだよね。
「1本でいいのか? 他には? こめは大丈夫か?」
1本だとすぐに無くなりそうだな。
「3本ぐらい欲しいかも。あと、米は欲しいな。他には何がいるかな?」
お父さんと相談しながら、必要な物を書き出していく。
「結構あるな。とりあえず探すよ」
「ありがとう。私は野菜を選んでおくね」
「あぁ」
お父さんと別れて野菜が置いてある場所に行く。
途中でウルさんを見ると、先ほどより少し雰囲気は柔らかくなっているような気がした。
「えっと、野菜は……」
近くにあるカゴに、必要な野菜を入れていく。
ある程度の量をカゴに入れて、会計する場所へ持って行く。
「ん? 悪い。すぐに会計をするよ」
トトムさんの焦った声に、首を横に振る。
「大丈夫です。まだ、選ぶ物があるので」
それだけ伝えると、もう一度野菜を置いてある場所に行く。
お父さんは「肉があればいい」と言うけど、それは絶対に駄目!
野菜もしっかりとらないとね。
「言われた物は全てあったぞ」
お父さんが色々入ったカゴを見せてくれる。
「ありがとう。あれっ、米は?」
お父さんは、持っていたカゴを野菜の入ったカゴの隣に置くと、会計場所を指す。
そこには俵が2個、ドンと鎮座していた。
「あんなにいるかな?」
「この間、買ったこめはすぐに無くなったんだろう?」
そういえば、そうだった。
前世の私が好きだったのが、パンの代わりに固めたこめの間に野菜を挟むこめのサンドイッチ。
思い出したので作ってみたら、これが結構おいしくて、そして食べやすかったから大量に作り置きしたんだった。
そのお陰で米の消費が凄く、前にこの店で買ったぶんはほとんど残っていない。
「アイビーにお願いがあるんだけど」
「何?」
お父さんがこういう言い方するのは珍しいな。
「ジナル達に用意する物なんだが、片手で食べられる料理を多めにしてやって欲しいんだ。それだったら何かしながらでも食べられるだろうから」
何か作業をしながら片手で食べる料理か。
確かにジナルさん達は、かなり忙しそうだもんね。
片手で食べられる……サンドイッチと米のサンドイッチはかなりお薦めだよね。
野菜も肉も食べられるし、米とパンだから腹持ちもいい。
後は小腹が空いた時におにぎりとかかな?
忙しくても、簡単に食べられるとしたらこんな物かな?
種類が少ないな。
もう少し前世の私の記憶の中に使える物はないかな?
……駄目だ、思い出せない。
「アイビー? 難しいか?」
慌てて首を横に振る。
「大丈夫。パンのサンドイッチと米のサンドイッチ。あと、おにぎりでいいかな?」
「あぁ、十分だ。出来る事は手伝うからな」
「うん」
2俵の量だったらガルスさん達の分と、ジナルさん達の作り置きの分も十分、作れるはず。
「こめのサンドイッチか。肉を挟んだのは凄くうまかったよな。思い出したら食べたくなってきた」
「旅に持って行くつもりで沢山作ってあるから、マジックバッグから出して食べていいよ」
「旅用だろ?」
「追加で作るから、大丈夫」
「そうか。隠れ家に戻ったらちょっと貰おうかな。あっ、話は済んだみたいだな」
ウルさんとトトムさんを見ると、2人とも笑顔で私達に手をあげた。
「さてと、肉を切ってもらうけど希望はあるか?」
「ん~、特にないかな。お父さんは?」
「癖のない肉なら、なんでもいい」
「ふふっ、それならトトムさんにお任せしてみる?」
彼なら肉の事を熟知しているから、きっと今日のお薦めを持って来てくれるだろう。
「そうだな。そうしよう。野菜の方を持って行くな」
えっ?
お父さんが野菜が入ったカゴを持って、トトムさんの方へ歩いて行く。
不思議に思いながら、置いて行った調味料が入ったカゴを持つ。
あっ、野菜が入ったカゴより軽い。
「ありがとう」
私のお礼に楽しそうに笑ったお父さんは、トトムさんにお薦めの肉を頼みに行った。
途中、お父さんを止める場面もあったが、無事にお肉も選べた。
「こめは全部を精米していいのか?」
「はい。お願いします」
トトムさんは俵を奥に運ぶと、すぐに精米に取り掛かってくれた。
量が多いので、少し時間がかかるだろう。
「先に会計を頼むな」
お父さんの言葉にトトムさんが頷くと、合計金額を出してくれた。
かなりの金額になったが、ジナルさんから貰ったお金で十分支払える。
というか、同じ物があと3回も買えてしまう。
「やっぱりジナルさんは、払い過ぎだと思うな」
「いいの、いいの。アイビーの手間賃だって」
いいのかなぁ?
悩んでいると、精米を終えた米が戻ってきた。
小袋に分けてくれていたので、運びやすい!
トトムさん、ありがとう。
「前の時も思ったが、今回は前よりも大量だな」
買った物を、4人でマジックバッグに入れていると、少し呆れた様子でトトムさんが言う。
確かに、ちょっとしたお店が出来そうな量だよね。
「旅の途中ですぐに食べられるように、料理してマジックバッグに入れておくんだ。便利だぞ」
お父さんの言葉に、トトムさんが私とお父さんに視線を向ける。
「いつ頃、旅に出るんだ?」
「まだ決まってないが、それほど先ではないと思う」
「そうか。次に来る時は、この村も落ち着いていると思うから。その時は、子供達に会ってくれ」
ん?
子供達?
あっ、教会から子供達を守っている人と親しいんだった。
「分かった」
「喜んで」
お父さんと私が頷くと、トトムさんが嬉しそうに笑った。
そうか。
今の教会が無くなったら、子供達が安全になるんだ。
更新が遅くなりごめんなさい。
日曜日中に間に合わなかったです。




