614話 サフサさんの仕事
ウルさんを呆れた表情で見るサフサさん。
綺麗な人は、そんな表情も綺麗なんだなぁと見とれてしまう。
あっでも、笑うとなんだか可愛らしい。
綺麗で可愛いなんて、羨ましいな。
「悪かったって。えっと、彼女はサフサでクスリ関係の事件だと分かった時に、手助けしてもらうために王都から呼んだんだ。性格は……まぁ――」
「なによ」
サフサさんがウルさんを睨むが、彼は気にしていないようだ。
特に反応することなく、ちょっと悩む表情を見せた後、
「怒らせると、怒らせた相手が地獄を見るのが、普通だな」
ウルさんの説明に、お父さんの眉間に皺が寄る。
「普通じゃないだろう」
ガルスさんが神妙に言うと、エバスさんとアルスさんも頷いている。
そうだよね。
怒らせると地獄を見るって、それは間違いなく普通じゃない。
それとも、ウルさん達がいる組織内では普通なんだろうか?
「ウルに説明を任せた私が馬鹿だったわ。別に地獄なんて見せないわよ。ただ、確実に一番重い刑になるように、各所に手を回すぐらいだもの。ちゃんと、法律には従っているわ」
「よく言うよ、手を回すって弱みを――」
「それより、見張り役の者達を確認してきたんだけど。あれは、本当にただの素人よ。なんの裏もないわね。すごく演技が上手いなら別だけど、接触した感じその可能性は限り無く低いわ」
うわぁ、ウルさんの話を切った。
それに「弱み」と、聞こえた気がしたんだけど……聞かなかった事にしよう。
「では、サフサさんは外の連中は特に気にする必要はないと判断するんだな?」
お父さんも気にしない事にしたみたい。
「えぇ、そうよ。見張り役の者達は、彼女達になぜ見張りが要るのか知らされてなかったわ。指示を出した者も、王都から何か聞かれた場合の対策だけで、見張りを付けたんでしょうね。王都からの命令を無視などしていない。そういう体裁が必要だから」
王都の教会はかなり力があるんだ。
まぁ、問題の大元だもんね。
「それと、その見張りも明日か明後日には無くなると思うわ。この村での危険性はぐっと減るから、あと少しだけ待ってね」
サフサさんが、アルスさんに向かって笑みを見せる。
「上手く噂が流れたのか?」
お父さんに向かって、嬉しそうに笑顔を見せるサフサさん。
これは肯定の意味かな。
つまり、ジナルさん達は上手に村を煽動しているという事だ。
「敵にまわさなくて良かったよ」
「あら、よく言うわ。ギルドの隠し玉は、状況把握に優れていると有名じゃない。守る者がいる以上、絶対に敵にならないように立ち回るくせに」
お茶を飲もうとしたお父さんの動きが、サフサさんの言葉で止まる。
そして小さくため息を吐くと、諦めたようにお茶を飲んだ。
隠し玉という呼ばれ方、嫌いだもんね。
「無反応は面白くないわ」
ワザと!
ちょっと驚いてサフサさんを見ると、面白く感じている様子が窺えた。
「サフサ、余計な事をするとジナルに仕事を回されるぞ。今なら、王都の教会か?」
「げっ」
あれ?
今……凄く低い声がサフサさんから漏れなかった?
「あははっ、嫌だわ。王都の教会だなんて、そんな無謀な」
サフサさんがちょっと焦った様子で、ウルさんを見る。
彼が肩を竦めると、彼女は口を尖らせてウルさんを睨んだ。
なんだか、すごく仲がいいみたい。
「仲良しなんですね」
「「えっ?」」
ウルさんとサフサさんの反応が一緒だ。
「止めて、仲良しだなんて」
「そうそう。さすがにサフサは無い」
「あらやだ。それはこっちのセリフよ」
やっぱり仲良しだと思うけどな。
アルスさんは緊張がほぐれたのか、言い合う2人を見てこっそり笑っている。
サフサさんが来てから顔がずっと強張っていたから、笑えるようになって良かった。
「仲いいよな、あれ」
お父さんがそっと私に囁くので、頷く。
恋人という雰囲気ではないけど、気心が知れている感じだ。
「はぁ、ウルと言い合っても無駄ね」
サフサさんが、「ふん」とウルさんから視線を逸らす。
「じゃれ合いは終わったか?」
ウルさんが、きっとお父さんを睨む。
「サフサのさっきの話から、少し聞きたい事があるんだが」
あっ、無視した。
それに、サフサさんを呼び捨てにした?
「なに?」
サフサさんは気にしないというか、少し嬉しそうだ。
「見張りの様子を言った時、まるで見張り役と話をしてきた感じだったが」
それは、気になった。
見張り役の人達と話をして判断した様子だったから。
「えぇ、ここに来る前に話をしたわ。教会に入り込んで顔を広めておいたから、私が『様子を見に来たんだけど』と言ったら、勝手に教会から様子を見に来たと思ったみたい。おそらく教会で私を見た事があったんでしょうね。今日、初めて話したけど、ほとんど訓練もされていない本当の素人よ。暇だったんでしょうね。色々話してくれたわよ。ほとんど無駄話だったけど、役に立ったものもあったわ」
教会に入り込んでいたのは、サフサさんだったんだ。
こんなに可愛い人が、大丈夫なのかな?
「サフサさんみたいな可愛い人が教会の内部に、危なくないですか?」
色々、狙われそう。
「えっ!」
ウルさんの凄い驚きように、体がちょっと引く。
なに?
変な事を言ったかな?
「やだ、可愛いって言われた!」
嬉しそうな声に視線を向けると、満面の笑みのサフサさん。
その表情は本当に可愛い。
「アイビー、見た目なんて当てにならないからな」
今のウルさんの言い方は、サフサさんの事を言ってるよね?
サフサさんを見る。
「サフサさんは、裏があっても可愛いと思います」
ほら、アルスさんも頷いている。
サフサさんは、女性から見ても可愛らしい見た目だから、ちょっとぐらい怖くてもいい気がする。
「ありがとう、アイビー。嬉しい」
組織の人だから、まぁ裏の顔はあると思うけど。
それは、ジナルさんもウルさんも一緒だと思う。
「その見た目で誤魔化されているよな」
ウルさんが、私とアルスさんを見てため息を吐く。
「サフサは、見た目を生かした人心掌握が得意なんじゃないか?」
「さすがドルイドね」
サフサさんが、嬉しそうにお父さんを見る。
見た目を生かした人心掌握?
確かにサフサさんの可愛らしい見た目は、警戒を緩めそう。
「ドルイド、よく分かったな。普通は気付かないぞ」
ウルさんが、感心したようにお父さんを見る。
それに肩を竦めるお父さん。
どうして気付いたのかは、言わないみたい。
「サフサの仕事は、問題の組織に入り込んで内部で不穏な雰囲気を作る事なんだ」
不穏な雰囲気?
「裏切者がいると思わせたり、自分を狙っている者がいると思わせたり」
あれ?
今の教会の内部の雰囲気って。
「今回はすごく上手くいったわ。一番上が独裁者だと、崩れた時に一気に成果が表れるのよね。かなり気持ちいいんだから。こうガラガラと崩れる音が聞こえるっていうか」
楽しそうに笑うサフサさんに、ウルさんが嫌そうな表情を見せる。
「確かに見事だったけど……怖すぎる」
「怖すぎるって失礼よ。私はやるべき事をやっただけ。あっ、そうだ。本物から連絡があったらしいわ」
本物?
「そうか。今の教会を壊したら、彼らは動くと思ったけど正解だったな。王都の教会から来る者に注意を払う事も覚えたし、もう大丈夫だろう」
なんの話だろう?




