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612話 まずは朝ごはん

「おはよう……あれ、いない」


部屋が明るかったので声を掛けながら食事をする部屋に入ったが、誰もいない。


「手紙みたいだ」


お父さんが、テーブルの上にあった紙を手に取る。


「3人とも、急いで出掛けたみたいだな。ウルはすぐに戻ってくるみたいだが」


ジナルさんとフィーシェさんは、今日も忙しいみたいだな。

ちゃんと休憩は取れているのかな?

心配だな。

ウルさんは戻ってくるみたいだから、朝ごはんはウルさんとガルスさん達と私達……6人分でいいよね。


「ジナルが『ごめん』だってさ」


ごめん?


「『ごめん。冷静になって気付いたが、昨日は少しおかしかった』。確かに、話の内容が少し混乱してたな」


ちょっとだけね。

それと隠している部分が、少し漏れてたよね。


「そういう日もあるよね」


色々抱えているジナルさんだもん。


「そうだな。さて、朝ごはんは3人分か?」


「6人じゃないの?」


お父さんが不思議そうに私を見る。

あれ?

3人?


「ガルスさん達のは、作らないの?」


「あぁ、昨日から戻って来てたな。食べるかな?」


それは……。

窓から見える離れの建物を見る。


「食べなくても、無駄にはならないと思うし」


お腹が空いた時に、食べたらいいからね。


「それもそうか。何を作る?」


「塊の燻製肉があるから、薄く切って、サンドイッチにしようかな」


野菜も一緒に挟むと食べ応えが出るし、体にもいいよね。

お父さんのはいつも通り、お肉を多めにしよう。


「あと、スープも作ろう」


「分かった。俺はスープを手伝うよ」


「ありがとう」


2人で調理場へ行き、朝ごはんを作り始める。


「あの、おはようございます」


暫くすると、調理場にアルスさんが顔を出した。


「おはようございます」


「おはよう。ガルス達はどうした?」


「えっと、起こしてきたので後で来ます」


ウルさんが帰って来たら、皆でご飯が食べられそうだね。

最後のパンに野菜と大量のお肉を挟んで、優しく上から押して……よし、サンドイッチ完成!

6人分、その内男性が4人。

彼等の食べる量を考えて大量に作ったから、大変だった。

ちょっと驚いたのが、燻製肉がなかなか薄く切れなかった事。

薄く切るのは大変だし大量だし。

うん、よく頑張ったと思う。

でも、まだ終わっていない。

さて、この大量に出来たサンドイッチを切りますか……あと少しだ頑張れ、私!


「あと少しでご飯が出来ますよ」


「えっ! いいんですか?」


アルスさんの驚いた表情に、笑みが浮かぶ。

昨日より、顔色も良いし表情も落ち着いている。


「はい。一緒に食べましょう」


嬉しそうに笑ったアルスさんが、ガルスさん達を連れて来ると言って離れに戻っていった。


「少し落ち着いたみたいだな」


「うん。よかった」


まだ不安はあるだろうけど、ちょっとでも落ち着けたのならよかった。


最後のサンドイッチを半分に切り、お皿に載せる。

終わったぁ。


「お疲れ様」


「お父さんも、スープをありがとう。……お父さん、お肉の具が多すぎない?」


「そうか?」


お父さんとスープのお鍋を覗き込む。

どう見ても、野菜とお肉の量がおかしい。

あれ?

細かく切ったお肉の予備は、こんなに無かったと思うけど、どうしたんだろう?


「お肉はどうしたの?」


「あぁ、マジックボックスにあった物を全部入れたけど」


あっ、調理パン用に多めに切って入れておいたんだった。

ん?

全部?


「お父さん……」


無言でお父さんを見つめると、視線を逸らすお父さん。

その姿に小さく笑ってしまう。


「ふふっ。もう、しょうがないな。温かいうちに食べよう」


「そうだな」


人数分の器を用意して、スープを入れていく。

小さく切っているとはいえ、本当にお肉が多いな。


「「おはようございます」」


調理場にガルスさんとエバスさんが、姿を見せる。


「おはよう。ちょうど良かった。ご飯できました」


「運ぶの手伝います」


アルスさんの言葉に、エバスさんがアルスさんの手を掴む。


「俺達がするから、他の用意を頼む」


あれっ?

今、アルスさんの行動を止めた?


「こっちにしよう」


えっ?

エバスさんが、用意されていた薄手の木の小皿をなぜか厚みのある木の小皿に変えてアルスさんに渡す。

何か拘りでもあるのかな?


「そう? 分かった」


アルスさんが、少し不服そうにエバスさんから受け取った木の皿を持って調理場を出ていく。

それをお父さんと一緒に首を傾げながら、見送る。

一体、何なんだろう?


「きゃっ!」


バタン。

ガタガタガタッ。


「やっぱり。すぐに片付けてきます」


エバスさんが、予想してたのかすぐに調理場を出ていく。

何が起こっているんだろう?


「すみません。アルスは、朝が苦手で」


「そんな風には見えなかったが。怪我はしてないみたいだな。よかったよ」


お父さんが、調理場から廊下を覗きホッとした表情を見せた。

そうだね、あれだけ見事な音がしたから、薄手の木の皿だったら割れていたかもしれない。

あぁ、だからエバスさんは厚手の木の皿に変えたのか。


「さっき見たアルスさんはしっかり受け答えしていたし、足取りもちゃんとしてたのにね」


「見た目からは分からないから、厄介なんです」


虚ろな目をしたガルスさんに、これまでの苦労がにじみ出ている気がした。


「すみません。1枚、割れました」


えっ。

エバスさんの言葉に驚いて、彼の手元を見る。

そこには、2つに割れた木の皿があった。


「気にする必要はないぞ。それはこの建物にあった物で、俺達の物ではないから」


お父さんの返答もどうかと思うけど、壊れてしまったものは仕方ないからね。


「プラフさんに会った時に、謝ればいいと思います。それより、ご飯にしましょう」


サンドイッチの大皿をお父さんとエバスさんが、スープを載せたお盆をガルスさんが持ってくれる。

私は、お茶のコップを載せたお盆を持つ。


皆で食事をする部屋に向かうと、途中でガツッという音と小さな叫び声が聞こえた。

アルスさん、もしかして……足の指とかぶつけてたりして。

まさかね。

部屋に入ると、足の指を抑えて痛みに耐えているアルスさんがいた。

うそっ!


「大人しく座っておけと言ったのに」


エバスさんの呆れた声に、お父さんが噴き出した。


「あはははっ。ごめん。あまりにも思った通りで……あはははっ」


これは、予想できる展開だったもんね。

私も、もしかして足の指をぶつけたのかな?って思ったし。


「ふふっ」


痛がっているから、笑っては駄目なんだけど……くくくっ。


テーブルに急いでお茶を置く。

私まで、溢したら大変な目に合うからね。


「大丈夫ですか」


笑いが収まったので声を掛ける。

どれだけの勢いでぶつけたのか、少し赤くなっているようだ。


「大丈夫です。慣れているので」


今日の朝だけで、アルスさんの言葉に納得してしまう物がある。


「はぁ、落ち着いた。食べようか」


お茶を飲んで、気持ちを落ち着かせたお父さんが、皆にサンドイッチを勧める。


「アイビーが作ったサンドイッチです。美味しいですよ」


お父さんの言った料理名に少し首を傾げるガルスさん達。

もしかしたら、似たような名前を知っているのかも。


「本当だ美味しい」


アルスさんの言葉に視線を向けると、お肉が多く挟んであるサンドイッチを食べていた。

ガルスさんも、アルスさんと同じお肉多めだ。

エバスさんに視線を向けると、野菜が多めのサンドイッチを選んでいた。

体格で言えば一番にお肉多めを選びそうなのにな。


ガルスさんとエバスさんでは、少しエバスさんの方が背が高く、がっしりした体型をしている。

アルスさんは2人と並ぶと、肩ぐらいの背丈だ。

あっ、アルスさんがお肉が多めのサンドイッチをおかわりした。


「見た目じゃ、分からないものだな」


お父さんが3人を見て、しみじみ言う。

それに頷くと、ガルスさん達が不思議そうな表情を見せた。

気付いていないという事は、これがいつも通りか。


まさかエバスさんが一番小食だとは、本当に見た目では分からないよね。

それにしても、ウルさんの分を最初から避けておいて正解だった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] アルスさんが、女性か男性かよくわからないです。
[一言] 出かけてていないジナルさんが料理を運んでます。
[気になる点] エルスさんの呆れた声に、お父さんが噴き出した。 エルスさんに視線を向けると、野菜が多めのサンドイッチを選んでいた。 エルス⇒エバスの事かな?
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