610話 敵にまわしては駄目な人
どう暴れているのか気になるな。
訊いてもいいかな?
「ピフィールギルマスが何をしているのか、気になるか?」
私の表情を見たジナルさんが、楽しそうに言う。
それに頷くと、少し考えるジナルさん。
「簡単に」
「はい」
詳しく話せないという事かな?
私としては、何をしているのか知りたいだけだから、特に問題はない。
「ピフィールギルマスは情報を駆使して、裏切り者や協力者を少しずつ少しずつ追い詰めているんだ」
本当に暴れているわけじゃないのか。
それはそうと、情報で追い詰める?
そんな事が出来るのかな?
「ピフィールギルマスが商業ギルドのギルマスになって40年以上。彼は、情報を集めるのが得意なんだ。そしてその集まった情報を使って、この村の商業ギルドを成長させてきた。そうとうな切れ者だよ」
40年以上も、商業ギルドを引っ張っているなんて凄い人だな。
「商業ギルドを成長させるために、ピフィールギルマスはあちこちに網を張った。そして、それを少しずつ成長させていき、数年後には多種多様な情報が集まるようにした。商業ギルドに役立つ情報はもちろん、それ以外の情報も本当に幅広くな」
情報を集めるために網を張る?
もしかして、人が集まる何かを作ったのかな?
だって、情報を持っているのは人だもんね。
そして、それを他の村や町にも広めていって、集まる情報を増やした。
そんな感じかな?
ん~、何を作ったのかは想像つかないけど、凄いな。
あっ、それが秘密なのかも。
チラリとジナルさんを見ると、微笑を浮かべた。
たぶん、正解かな。
「危険な情報も、集まってきそうですよね」
幅広く情報を集めたなら、きっと危険な情報もあったはず。
例えば、知っていると気付かれたら、命が狙われる情報とか。
「その通り。ピフィールギルマスが集めた情報の中には、ある組織を潰す事が出来る物まで混ざっていた。まぁ、これは昔の話だけどな」
やっぱり在ったんだ。
怖いな。
それに比べて、私の情報集めは平和だね。
基本、大通りや洗濯場で聞ける噂だから。
なかなか情報が集まらない時はあるけど、最終的には欲しい情報は得られるし。
ついでに、人気のお店とか村の様子が分かってとても助かっている。
うん、私にはこれぐらいの情報で十分だ。
「そんな情報集めの上手いピフィールギルマスが、この村の者達の情報を掴んでないと思うか?」
「あっ!」
ジナルさんの言葉に首を横に振る。
この村で育った人の情報は、隅から隅まで掴んでそう。
その中に、追い詰める事が出来る情報もあるんだ。
「もちろん裏切った奴らが、高潔な生き方をしていたら問題ないけどな」
「えっ、それは……」
絶対に無いと思う。
だって、商業ギルドを大きくしてきた村の功労者を陥れようとする人達だもん。
しかも、クスリの中毒者に見せかけるなんて最悪な方法で。
でも、そんな裏の情報にまで精通している人を敵にまわそうなんて、よく考えたよね。
私だったら、絶対に考えもしない。
だって、どこまで自分の事を知られているのか分からないんだから。
下手に手を出すと、凄い反撃にあいそう。
「ジナルさん。ピフィールギルマスさんを裏切った人達は、今頃震えあがってそうですね」
恐怖で。
「ははっ、間違いなくそうだろうな。裏切った奴らは、ピフィールギルマスが死ぬと思っていた。だから思い切った事も出来たんだろう。でも、現実は元気に戻って来たわけだ。ピフィールギルマスが、商業ギルドに顔を出した時の様子を見たかったよ」
あれ?
でも、そこまで情報を掴んでいてどうして陥れられたんだろう?
裏切った人達の方に、隠すのが上手い人がいたのかな?
「そんな凄い人がどうして、今回の事に気付かなかったんですか?」
「何か仕掛けてくるという情報は掴んでいたから、警戒はしていたみたいだ。ただ、クスリの情報が錯綜した事、教会を隠れ蓑にしていて人間関係が不明瞭だった事、身近に裏切者がいた事。そして、何も知らない幼い子供に手伝わせたからだな」
子供?
「ピフィールギルマスが一番怒っているのは、子供を巻き込んだ事だ。何もわからない子供を、自分達を殺すために使い、心に傷を負わせた。それが一番許せないみたいだ」
それは、絶対に許せないと思う。
子供を利用するなんて。
「だから裏切者だけじゃなく、協力者達や知っていながら何もしなかった者達も一気に捕まえるか排除する事にしたんだろうな。今は、1人でも見落としが無いように情報を使いながら少しずつ追い詰めて、人の動きを観察しているんだろう。誰が誰に助けを求めるか、金の動きがどうかとかな。まぁ、最近大人しかったから、本領発揮というやつだな」
本領発揮か。
怖い人を、起こしちゃったんだね。
自業自得だ。
ん?
今のジナルさんの言い方は、ピフィールギルマスさんの事を知っているみたいだったな。
「それがさ、ピフィールギルマスは裏切った奴らと関係者達だけをじわじわと追い込んでいるのに、なぜか、それ以外の商業ギルドの職員からトルラフギルマスに『ギルマスが、怖すぎるから落ち着かせてください』という伝言が届いたらしい」
「怖すぎる?」
「態度に出すような奴じゃないから、会話が怖いんじゃないかな? にこやかに毒を吐くから」
あっやっぱり、ジナルさんとピフィールギルマスさんは知り合いみたいだ。
それにしても、にこやかに毒か。
シファルさんみたいに、笑顔で相手を追い詰める感じかな。
あれは、見てるだけでも背中がぞくってして怖くなるもんね。
「ジナル。この問題に、どこまで関わるんだ?」
黙って聞いていたお父さんが、不意にジナルさんに問いかける。
ジナルさんを見ると、悩んでいるようだった。
「この村の仲間達だけで問題ないと、分かった時までだろうな」
それはいつなんだろう?
「問題が想像より大きくて、ちょっと人手が足りてないんだ。だから、時間がかかると思う」
クスリの問題に、洗脳、暴走した魔物……確かに大きい問題だよね。
それが全て教会のせいなのか。
「そういえば、この村は教会の力が強いんでしたよね?」
大丈夫なのかな?
「明日から、村全体に教会の悪事の話が流れる段取りになっている。さすがにクスリや洗脳、暴走した魔物が教会のせいだと分かれば、教会の力は一気に落ちるだろう。特に、教会がクスリをばらまいたと分かったら、かなりの衝撃だと思う」
教会の力が削がれるのは嬉しいけど、被害が大きすぎる。
「クスリの依存症患者、特定は出来たのか?」
お父さんの言葉にジナルさんが首を横に振る。
「教会の奴らは、いずれ全員を見捨てるつもりだったんだろう。誰にクスリを回したのか、書いてもいなかった」
本当に教会の人達は最低。
「この村でどれだけの依存症患者がいるのか不明だ。まぁ、いずれ分かるだろうけどな」
それって、依存症患者達がクスリを求めてるからだよね。
「そうか」
お父さんが頷くと、ジナルさんが真剣な表情でお父さんを見る。
「ドルイド。明日、教会の内部にいる奴にガルス達の情報がどこまで伝わっているのか探りを入れさせる。既に、王都の教会に伝わっているなら3人とは別行動をとった方がいいだろう。でも、まだならガルス達と先にこの村を出発してくれないか? 行き先は隣の村のオカンコ村なんだが」
えっ?
先に?
「そんなに時間がかかりそうなのか?」
嫌そうな表情で頷くジナルさん。
「あ~、言えないが他の問題も出てきてな」
「それは……まぁ、頑張れ」
お父さんが同情の視線でジナルさんを見ると、嫌そうな表情でため息を吐いた。
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