608話 占い師スキル
「もう、大丈夫だな」
お父さんが私の頭をゆっくり撫でる。
その手に頭を押し付けて笑う。
「ありがとう」
「どういたしまして」
2人で笑っていると、ソラたちがピョンと体当たりしてくる。
「えっ? どうしたの?」
「心配していたんだろう」
そうだった。
励ますように、傍にいてくれたもんね。
「みんな、ありがとう」
順番にぐっと抱きしめる。
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「にゃうん」
「ぺふっ」
最後のソルに拒否された。
なんでと首を傾げると、ぴょんと頭の上に乗ってくる。
そしてぷるぷる揺れている。
可愛い。
「そうだ! お父さん」
「どうした?」
アルスさんが話したスキルの事で気になってたんだよね。
「占い師スキルにはどんなものがあるの? 星読みスキルなんて、初めて聞いて」
「占い師スキルか。そうだな……」
そういえば、占い師スキルが総称だと分かった時は驚いたな。
お父さんに「占い師スキルは総称なんだが、知らないのか?」と言われた時に、驚き過ぎて反応できなかったもんね。
でも気付かないって!
占い師の話になると、皆が「占い師スキルが……」って、普通に話すんだから。
まさかその占い師スキルが総称だなんて、思うわけがない!
占い師スキルの1や2が、まさか占い師が得意としているスキルの星の数だったなんて……。
「アイビー、どうした?」
「占い師スキルが、総称だって初めて知った時の事を思い出して」
「あぁ、すごく驚いていたよな」
お父さんの手が、口元を隠すように動く。
「私の反応にすごく笑ってたよね? 今も思い出して笑ってるよね?」
「いや、そんな事は無いぞ」
ジト目でお父さんを見ると、肩を竦められた。
あの時、唖然としている私にお父さんが占い師スキルについて教えてくれた。
占い師達が持つスキルには様々な種類があり、どんなスキルを持っているのかバレるとマジックアイテムで妨害され、正しい結果が出ない事があるらしい。
普通の人はそんな事しないが、占い師達は自警団に協力して犯罪者の事を占う事があるから隠すんだって。
昔、持っていたマジックアイテムで占いを妨害され、結果犯罪者を逃すという事があったそうだ。
それを防ぐために、占い師達は自分たちの持っているスキルを隠し、占い師スキルと総称を使うようになったと。
占いを妨害するマジックアイテムがある事にも驚いたなぁ。
「アイビーが知っているスキルは確か、先読みスキルだったよな?」
あっ、スキルの事を聞いてたんだった。
「うん。そのスキルは、占い師が教えてくれた。あとは、人の判定が出来るスキルがあるらしいけど、正式な名前は知らないんだよね」
そういえば、私を助けてくれた占い師は自分が持っているスキルを教えてくれた。
あの時は、特に不思議に思わなかったけど、今思うと不思議な事だよね。
隠しているスキルを教えてくれたのは、どうしてなんだろう?
もしかすると、村では隠してなかった?
「あとは、占いスキルと確率スキルかな。これは、冒険者達の話で聞いた事があったから知ってたんだけど……」
人生を左右する結果が出る物が、全て占い師スキルに分類されるんだったよね。
「その2つのスキルは有名だからな。あとは、星読みスキルは知ってたな。それと不幸率スキルか」
不幸率?
なんだか、不穏な名前のスキルだけど何が分かるんだろう?
「気になるか?」
「うん」
「占った人の、この先に訪れる不幸の割合が分かるスキルだ」
ん?
不幸の割合?
「占い師に『残りの人生の2割ぐらいが、不幸に見舞われるでしょう』とか、言われるらしい。俺は占った事は無いけどな」
「……それは、知りたいような、知りたくないような」
でも、知っていたら対策が出来るか。
あれ?
分かるのは割合だけ?
「ちなみにどんな不幸が訪れるのかは、わかるの?」
「俺が聞いた話だと、割合だけでどんな不幸なのかは分からなかったな」
それは、知らないほうがきっといい。
「残りの人生9割ぐらいが、不幸に見舞われるでしょう」とか言われたら絶望だよね。
来ると分かっていても、どんな不幸に襲われるのか分からないんだから。
「凄いスキルだね」
知らないほうがいい事もあるよね。
「そうだな。あとは、成功率スキルもあると聞いたな。ただの噂かもしれないが」
噂か。
「お父さんも、スキルについてはあまり知らないの?」
「あぁ。占い師達は、けっして自分達からスキルについて言う事は無かったからな。何らかの事情でバレた場合も、言及することは無かったからな。必要な時は、どんな感じのスキルなのかを話すぐらいだ。もしかしたら教会が、そうさせていたのかもしれないが」
教会か。
「アイビー。光の森へ行くかどうかは、この問題が解決してからゆっくり考えないか?」
「うん。それが良いと思う」
焦って答えを出す必要はないか。
まだ、光の森があるカシメ町まで、距離があるから。
あっ、ジナルさんの気配だ。
「話し合いは、終わったのかな? ジナルさんがこっちに来てるよ」
「話し合いがすぐに終わるとは思えないが。アイビーの様子を見に来たんじゃないか?」
コンコン。
「ちょっと、いいか?」
いつもより抑えられた声に、首を傾げる。
「どうぞ」
私の返答に、部屋の扉が開く。
「なんだ、寝てなかったのか。大丈夫か?」
部屋に入ってきたジナルさんは、私を見ると安堵した表情を見せた。
心配掛けてしまったな。
「すみません。ちょっと疲れが出たみたいで」
「そうか。さっきより顔色が良いな。よかった」
見に来て確認するほど、酷い顔色だったのかな?
「ガルス達はどうするんだ?」
ジナルさんがお父さんを見る。
「この隠れ家で、このまま過ごさせる事にした」
ここに?
それって、危険なのでは?
「ここにいる事を、教会の連中が知っているのにか?」
「そうだ。この村のどこに隠れたとしても、きっとバレるから」
えっ?
どういう事?
「教会が村の奴らに、情報と引き換えにクスリを渡しているんだ。どれだけの者達が、クスリに手を出しているのか見当もつかない」
「うわぁ、最悪だな」
お父さんの言葉に頷く。
村の人達が教会の目になっているなら、どこに隠れたとしても見つかる可能性が高い。
誰にも見られずに、移動が出来ればいいけど。
それはほとんど無理だから。
「ただ、教会に居場所はバレたが、奴らはすぐには動けない」
動けない?
お父さんも不思議そうにジナルさんを見る。
「アイビーとトロンのお陰だよ」
となると、カリョの花畑の事かな?
「ハリバロウ伯爵が、クスリの出来具合を見に来た事はフィーシェが話したよな?」
お父さんと私が頷く。
「教会からの報告では順調だったはずなのに、カリョの花が咲いた形跡さえない事に伯爵は教会でオットミス司教に大激怒。オットミス司教にしたら、意味が分からない。あるはずの物がなく、そこに就けていた護衛もいない。最初は護衛が持ち逃げしたのかと思ったみたいだが、カリョの花が咲いた形跡もない事から、自分がずっと騙されていた可能性に思い至ったようだ」
トロンが枯らしたカリョの花は、何も残さず消えるらしいからね。
それにしても、ここまではジナルさんが予想していた通りだな。
「オットミス司教は、誰かが自分の地位を奪い取ろうとしている。または、蹴落とそうとしていると疑心暗鬼。結果、洞窟を知っている者達を殺そうとした。だが、オットミス司教を傍で見てきたオダト司祭は、すぐに危険を察知。そしてオダト司祭は姿を消した」
ジナルさんを見ると、楽しそうな表情をしている。
「オダト司祭が姿を隠した事で、余計周りに不信感を抱いたオットミス司教。そんな時に、王都に戻ると言い出したハリバロウ伯爵。オットミス司教は慌てて隠蔽をしようとするが、ハリバロウ伯爵は相手をせずに出発。オットミス司教は、すぐに森にいる仲間に彼を殺すように指示。なのに、今日になっても完遂の連絡は来ず」
「森に連絡、つまり暴走した魔物に殺させようとした?」
お父さんの言葉に、頷くジナルさん。
ジナルさんも暴走した魔物が、操られていた事を知ってるんだ。
それにしても、見事。
間違いなく、ジナルさん達がこうなるように動いたんだろうな。
占い師スキルについて、書き忘れがありました。
気になると、連絡を頂きありがとうございます。
これからも、よろしくお願いいたします。




