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604話 とりあえず、食べよう

私は神経が図太いのかもしれない。

ガルスさん達に見張りがついているかもしれないと聞いて、不安だったのに……。


「美味しそう」


目の前で焼かれるお肉の香りに、ちょっと色々忘れて興奮してしまった。

さすが、地元のウルさんが薦めるだけはある。


「いい香り」


今までにない香りだ。

ん~、でも懐かしいような。

たぶんこれは前の私の記憶からだと思うんだけど……スパイシー?

……よくわからないけど、食欲をすごく刺激する。

絶対に、ご飯と合う!


「珍しい香りだけど、うまそうだ」


「香りだけじゃなく、味も最高なんだよ。ピリッと辛みがあって、お酒と合うんだよ」


ウルさんはお父さんと私の様子に満足そう。


「この味は、この店でしか味わえないからな」


そうなんだ。

確かに、この香りがする屋台は見なかったな。

でもどうして、他の店は真似をしないんだろう?

屋台に並んでいる人の数を見る限り、この店は人気店だ。

普通は、味を真似されるのに。


「専売登録でもしているのか? あれはかなり金が必要なはずだが」


そんな制度があるんだ。


「いや、違うよ。この店の味は、ある木の実を使って出しているんだが、一般的な方法で調理すると、えぐみが凄くて食べられないんだ」


「そうなんですか?」


えぐみは、なかなか取り除けないんだよね。


「あぁ。なのに、この屋台の店主だけがそのえぐみを旨味に変える方法を編み出したんだよ。他の店でも、色々挑戦しているようだけど、未だに上手くいっていないんだ。だから、この店だけの味になっているという訳だ」


なるほど。

それにしても、えぐみを旨味に変えるなんて、凄い店主さんだな。

うわ~、楽しみ。


……………………


「買えてよかったな」


「うんうん」と、お父さんの言葉に頷く。


「そうだな。まさか森に行けてないから木の実が無くなっていたなんて。まぁ、あと少しすればまた採りに行けるだろうけど」


そうだけど、明日から木の実が採りに行けるまで休むなんて悲しすぎる。


「店主の話を聞いて『もう採りに行っても大丈夫だから』と言いそうになったよ」


ウルさんの真剣な表情にお父さんと笑う。

ちょっと挙動不審になっていたのは、そのせいか。


隠れ家が見えてくると、周辺を何気に見回す。

見えているところに、見張りがいるとは思わないけど……えっ!

視線の先には、隠れ家から2軒離れた家の塀の陰。

隠れ方が悪いので、後ろ姿が完全に見えてしまっている。

見えている体格から、どうやら森で見張っていた冒険者達とは別の者のようだ。


「「馬鹿か?」」


お父さんとウルさんも見つけたようで、2人の馬鹿にしたような声が聞こえた。

本当にその通りだと思う。

いくら気配を消していても、見えてしまったら意味がない。

あれでは、高額なマジックアイテムが完全に無駄になっている。

いや、本当に何を考えているんだろう?


「作戦とか?」


私が首を傾げると、お父さんが神妙な表情をする。


「どんな?」


それを言われると……。


「相手を……困惑させる?」


そんな作戦は嫌だけど。


「それなら成功だな」


お父さんが苦笑している。

私も馬鹿な事を言ったと思うけど、それぐらいしか思いつかなかった。


「なぁ、俺達は立ち止まって奴の事を見てるよな?」


ウルさんが呆れた表情を見せる。

そういえば、あまりの事に立ち止まって見つめてしまったね。

後ろからとはいえ、そろそろ気付いてもいいはずなんだけど。

……全然、気付かない。


「はぁ、顔を確認しながら帰るか」


ウルさんが、ザッと足音を立てて歩き出す。

その音に、視線の先の体がびくりと震えるのが見えた。

そして、そっと後ろを振り返って私たちを確認する。


「いや、違うだろう」


ウルさんの突っ込みに、つい頷いてしまう。

でも、本当に見張りの人は最悪な行動をした。

仕方ないので、笑って小さく頭を下げる。

ご近所さんへの挨拶のように。


「あっ」


どうやら、間違った行動をとった事に気付いたようだ。

もう、遅いけど。


「ははっ。こんにちは」


凄い、挨拶された。

本当に、相手を困惑させる作戦なのかな?

愛想笑いで通り過ぎ、急いで隠れ家に入る。


パタン。


入った瞬間に、ため息が出る。


「誰か分かったか?」


「奴は教会が雇っている護衛だな」


ウルさんの言葉に、聞いたお父さんの眉間に皺が寄る。


「教会の護衛? あんな間抜けが?」


間抜けか。

確かに、隠れてないし、振り返るし、慌てて挨拶しちゃっているし。

なんで見張り役に抜擢されたんだろう?


「教会は人手不足なんですか?」


もう、これ以外に考えられないよね。


「それは無いと思うが。それにしても、酷かったな」


まぁ、そのお陰で何処が指示を出しているのか分かったけど。


「あの……」


ガルスさんの困惑した表情に、ウルさんが軽く手をあげる。


「ただいま」


「あっ、お帰りなさい」


扉に鍵をかけて、食事をしている部屋に入る。

エバスさんとアルスさんが、緊張した面持ちで座っているのが見えた。


「エバス、見張りに気付いたのか?」


ウルさんの言葉に、びくりと震えるエバスさんとガルスさん。

アルスさんは、そんな彼らを見て泣きそうに顔を歪めた。

もしかして、今回のクスリの件とは別かな?

クスリ関係だったら、ここまで深刻な表情はしないような気がする。

名前を変えている事も気になるし。

これは話が長くなる予感がする。

それに、3人を見ると先ほどより顔色が悪くなっているような気がする。


「よしっ、食事にしましょうか」


「そうだな」


私とお父さんの会話に、驚いた表情を見せる4人。


「えっ、今?」


ウルさんが、信じられないという雰囲気だけど、そう今から夕飯です。


「そうです。話をしてから食べたら冷めるし、いつ話が終わるか分からないじゃないですか」


3人の様子から深刻な話だろうし。

それなら、先に腹ごしらえ。


「そりゃ、そうだけど。この雰囲気で?」


まぁ、ちょっと微妙な雰囲気だけど。


「話が終わったら、美味しく食べられる雰囲気になるんですか?」


私の言葉に、ウルさんが「あ~」と言いながら視線を逸らす。

ほら、話の前でも後でも、変わらないじゃないですか。

だったら、まずはしっかり食べて、落ち着いてからじっくり話をした方がいい。


「こめは、食べられますか?」


ガルスさん達に聞くと、3人は呆然とした表情で頷く。

聞いた内容を、ちゃんと理解してるかな?

まぁ、頷いたんだし用意してもいいよね。


調理場に行き、大皿を出して、買ってきたお肉を並べる。

お父さんとウルさんの希望通り買ってきたけど、多い。

3つの大皿に山盛りだ。


次は、マジックボックスからお鍋を出して蓋を開ける。

中には炊きたてのこめ。

人数分を器に入れる。

あとは、サラダ。

作っておいたサラダを取り出し、完璧。


「持って行っていいか?」


ソラたちを、部屋に連れて行ってくれたお父さんが顔を出す。


「うん。お願い」


人数分のコップを出して、お茶を入れていく。


「ポーションの用意はしておいたから。ソルとシエルは、バッグから出てすぐに寝てたけどな」


「ありがとう」


ソルは洞窟で魔力をかなり食べていたからね。

シエルに至っては、食事して暴走した魔物を倒して、最後に洞窟で大暴れ。

疲れてて、当然だよね。


お父さんが大皿を運んでくれたので、サラダを持って食事をする部屋に行く。

部屋に入ると、ガルスさん達が大人しく机に並んで座っている。

机の上にサラダを置くと、もう一度調理場に行く。


「大皿はこれで最後だな」


「うん」


「3人は、少し落ち着いたみたいだな」


先ほど見た3人を思い出す。

まだ、顔色は少し悪かったが、帰ってきた時より落ち着いているように見えた。


「そうだね」


食事をして少しゆっくりすれば、落ち着いて話が出来るだろう。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 中華の町なのかインドなのか。 [一言] そういえば、美味しくない薬草で何故か美味しくなるおばあちゃんの秘伝かなんかを使うのが主人公料理だった気がしなくもないな。 前世の技だったかも知れない…
[気になる点] スパイシーな刺激の強めな味ばかりを美味しいと好む人には味覚障害の可能性があるそうなので、やたら多用するこの世界の人達の味覚が気になりますね。 [一言] 身体に大量に蓄積すると肝臓を破壊…
[気になる点] 最近の内容は場所の名前が変わっただけで、似たような出来事が繰り返されている風に感じます。 まったりとした雰囲気とは違って、ただ単調なだけというか。 主人公の存在感が薄くなってきた。 ほ…
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