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63話 不穏な組織

「アイビー! アイビー! アイビー!」


ラットルアさんの声が、広場に響き渡り驚く。

声が私に近づいて来るにつれ、周りからの視線を感じる。

顔が熱いので、きっと赤くなっている事だろう。

隣にいたミーラさんからは、憐れみの視線を送られているような気がする。

上位冒険者だと教えてもらったが、ラットルアさんを見ていると本当に不思議に思う。

色々な経験を積んだ上位冒険者って、もっと落ち着きがある人達だと思っていた。

いや、ラットルアさん以外は落ち着いている。

彼が特別なのだろうか?

目の前に来たラットルアさんに、両肩を掴まれてしまう。


「大丈夫? 何もされていない? アイビーに不埒な視線を向けるなんて!」


不埒って何のことだろう?

彼はいったい、どんな説明を聞いて来たのだろう?

話がおかしな方向へ、向かっているような気がするな。


「ちょっと、ラットルア。大声で呼ぶなんて、アイビーが可哀想でしょ」


ミーラさんが、掴まれていた肩から彼の手を払いのけて、私の心の声を代弁してくれた。

ありがとうございます。


「ん? 何が?」


……通じなかった。

ラットルアさんを見ると、本当に不思議そうにミーラさんを見ている。

大きくため息をついて、首を横に振るミーラさん。

何だか、疲れさせたようで申し訳ないです。


「ミーラ、ありがとう」


セイゼルクさんが少し遅れて歩いて来た。

ヌーガさんの姿もあるが、シファルさんの姿がない。

周りを見回すと、他の冒険者と話をしているようだ。


「いいのよ。だってアイビーってば弟みたいで可愛いし」


「だよね~。俺の弟にならないかな。アイビーどう?」


どうと言われても困るので、小さく首を横に振る。


「え~、ちょこっとだけ!」


ちょこっとだけの弟ってなんだろう?

首をひねると、いきなりヌーガさんがラットルアさんの頭に、握った拳を落とした。

ゴンっという音と共に頭を押さえるラットルアさん。

涙目でヌーガさんを睨んでいる。


「まったく、いつまでたってもラットルアは落ち着きが無いわね」


「うるさいよミーラ」


「お前らの関係も変わらないな」


セイゼルクさんが呆れたように、ラットルアさんとミーラさんを見ながらつぶやく。


「あら、これでもずいぶんとマシになったと思うけど。私が大人になって」


「そうか? あいつの前だと昔と同じように見えるがな」


セイゼルクさんの言葉に、少し不貞腐れた顔をするミーラさん。

ミーラさんとラットルアさんは昔からの知り合いの様だ。

そう言えば、一番くだけた話し方と言うか、言葉の応酬と言うか、ミーラさんの視線に容赦がない。

セイゼルクさんが、私に視線を合わせるように少し腰をかがめた。


「アイビー」


何だろう、とても真剣な顔をしている。


「はい」


「話は聞いた。この広場に来てからなんだよな?」


「はい、そうです」


「そうか。悪い。俺達が此処に連れて来てしまったから……」


「えっ、それは違います。此処に連れて来てもらった事は、本当に感謝しています」


「だが……」


「森で夜を過ごしていたら、オーガに遭遇していた可能性があります。だから本当に、感謝しているんです」


「セイゼルクさん。オーガの問題もある以上、此処に連れて来るのは仕方のない事だわ。これからの事を話し合わないと」


ミーラさんの言葉にセイゼルクさんが苦笑いをする。


「確かにそうだな。詳しく話を聞いてもいいか?」


「はい」


シファルさんが戻って来たので、みんなにお茶を用意する。

ミーラさんが興味津々で、お茶を入れる私を見つめている。

やっぱり、お茶って珍しいのだな。

ヌーガさんに促されて、朝からの事を説明する。

不快感を感じて起きたら、テントの外に誰かの気配を感じた事。

昼間、何度も不快感を感じたので周りを見回したが、誰も見つけられなかった事など。

話し終わると、セイゼルクさんとヌーガさんが険しい顔をしている。

シファルさんは、表情こそあまり変わらないが何かを考え込んでいる。

ラットルアさんは、周りを睨み付けている。

それは止めてほしいな、意味も分からず睨まれて怯えている人がいるので。


「奴らか?」


奴ら?

セイゼルクさんには、思い当たる存在があるようだ。


「やっぱり、それを思いつくわよね」


ミーラさんも何か思い当たるようだ。

何だろう?

ヌーガさんの表情が、とても怖くなっている。


「ヌーガさん、顔で人が殺せそうよ」


ミーラさんの一言に、頷くラットルアさん。

視線ではなく顔、その表現はどうなんだろう。

ヌーガさんは1つ咳払いをしてお茶を飲む。


「アイビー、よく聞いてくれ。オトルワ町には問題になっている厄介な組織がある」


「組織ですか?」


ヴェリヴェラ副隊長が言っていた組織だろうか?

取り締まりが強化されたと聞いたけど。


「人をさらっては、奴隷として売りさばいている組織だ。町の自警団が一斉に取り締まる予定だったのだが、何処からかその情報が洩れてしまったみたいなんだ。取り締まりは失敗、奴らには逃げられた」


セイゼルクさんは、かなり悔しそうな顔をしている。


「捕まえることが出来たのは、組織については何も知らない下っ端ばかりだ。時間稼ぎに、切られたんだろうな」


ヌーガさんの言葉に、どことなくなげやりな印象を受ける。

どうしたのだろう?


「はぁ、実際に人がさらわれているのに、不審な人物の目撃情報が少なすぎる」


「……私が、その組織に狙われているという事ですか?」


「まだ、そうとは言い切れない。だが、その可能性がある。だから絶対に1人にはならない様に、注意してくれ」


真剣に言われたので、セイゼルクさんの目を見て1つ頷く。

頭を撫でられて、緊張で固まっていた体から少し力が抜けた。


「アイビー、私の仲間も紹介しておくわね。……ふふふ」


何だろう、ミーラさんの視線が他の冒険者に向かった瞬間、笑顔が怖くなった。

ミーラさんの視線を追って、同じ方向を見てみるが沢山の冒険者がいて何を見ているのか分からない。


「ちょっと、此処で待っていてね」


「はっ、はい」


優しいはずの声が、どことなく刺々しく感じた。

セイゼルクさんとヌーガさんが、乾いた笑いをこぼす。

ミーラさんの姿を追っていると、2人の男性の前に立った。

そして……2人の頭を掴んでぶつけた。


「あ゛~、痛そ~。アイビー、あの2人がミーラの仲間だ。兄弟でグループを組んでいて、ミーラは一番下の妹なんだ」


兄弟なのか、それにしても痛そうだ。

少し離れた場所にもかかわらず、ゴチンと言う音が聞こえた。

ミーラさんは怒らせない様にしよう。


評価やブックマークなど、ありがとうございます。

やる気になりますので、よろしくお願いいたします。

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