601話 違和感のある情報
「ウルさん。冒険者ギルドのギルマスさんには、森が元に戻った可能性があるといつ頃話をしますか?」
村の人達の事を思うなら「森が元に戻った」と発表した方がいいんだろうけど、教会が関わっている以上は無理だよね。
この事を上手く使えば、教会を追い詰める事も出来るかもしれないから。
ただ、冒険者ギルドのギルマスや補佐の人達は、森の変化に気付くはず。
ジナルさんの事だから、こちら側に引きずり込むだろうけどいつ話すのか知っておかないと。
巻き込んでしまったと言って、プラフさんが私の様子を見に来るからね。
「まずは仲間達に相談だな。おそらく……」
ウルさんが言葉を濁すので首を傾げる。
言いづらい事?
「黙っているという事ですか?」
私の言葉に気まずそうな表情を見せるウルさん。
それに、ますます首を傾げる。
なんで、そんな表情をするんだろう?
「まぁ、そうなる可能性が高いかな」
普通は利用するよね。
でも、どう利用したら教会の人達を追い詰められるだろう?
「教会は、年配の男性が逃げたと思うだろうし、暴走した魔物はいなくなるし。洞窟は……」
壊しすぎたみたいだから、暴走した魔物のせいにするには無理があるかな。
そうだとすると、教会の人達はどう考えるだろう?
洞窟の場所は極秘だったはずだから……。
「教会が洞窟の状態を知ったら、内部に裏切者がいると考えるかもしれないですね。あっ、教会の中にいるウルさん達の仲間達に危険が迫るかもしれません!」
「そうだな。ウル、早急に教会内部にいる仲間達に危険を知らせた方がいいかもしれない」
私とお父さんの言葉に、驚いていたウルさんが戸惑いながら頷く。
「ドルイドは分かるが、アイビーはどういう生き方をしてきたんだ? 普通そんな事をすぐに思いつくか?」
どういう生き方?
「命を狙われる事は数回。気付いたら色々な事に巻き込まれている感じだな」
お父さんのもの凄く簡単な説明に頷く。
「そうだね。そんな感じだね」
今回も、巻き込まれているからね。
あれ?
今回は、自ら巻き込まれにいった感じかな?
「なんだか、凄い人生を歩んでいるんだな。ジナルからはハタカ村の事をちょっと聞いたんだが、それだけでも凄いと思ったのに、数回命を狙われるって……10歳だよな?」
「はい」
そう、10歳。
おそらく同い年の普通の子より、ちょっと濃い人生だよね。
「あれ? この気配は……」
捨て場の近くに知っている気配を感じ、立ち止まる。
「この気配は、ギルマスが目を掛けてるガルス達だな」
「ギルマスが?」
お父さんが、私とウルさんが向いている方向へと視線を向ける。
「あぁ。隠しているが、色々融通してやってるみたいだ」
そうなんだ。
それだけ期待の冒険者達という事か。
あれ?
隠して融通?
期待しているなら、隠すわけないよね?
村の状態が悪いから、隠しているのかな?
「何かあるのか?」
お父さんがウルさんを見ると、肩を竦めた。
「この村の冒険者は全員を調べたんだが、彼らの情報には違和感を覚えた」
違和感?
冒険者だったら、仕事に極秘の情報が含まれるから隠している情報があるのは当たり前。
そんな事はいちいち気にしないはずだから、調べて分かった情報の方に何かを感じたのかな?
「調べた情報に、嘘が混じっているのか?」
お父さんが少し険しい表情を見せる。
「そう。いつ冒険者になったとか、どこで冒険者を始めたとか、3人の出会いとか。情報は出てくるんだが、どうも違和感をぬぐえないんだ。合っているようで、何かが違うって感じかな。いろいろな奴を調べている俺だから、気付いたんだと思う」
それは、普通の調べ方では分からないほど巧妙という事だよね。
冒険者になった時期や場所を隠すわけは……犯罪を犯した場合や、誰かに見つからないようにする場合かな?
「彼らの強さから考えて、あの気配の消し方は異様だ。おそらく、逃げるために必要に駆られて身に付いたものだろう」
お父さんの言葉に頷く。
中位冒険者の気配の消し方じゃないからね。
「彼らの事は様子見だな。ギルマスが手助けしている以上は犯罪者ではないだろうから。逃げているとしたら、それは仕方ない部分もある。あっ、シエル。変化してくれ」
お父さんがシエルを見る。
どうして変化を?
「あっ、そうか。シエル、スライムになってくれる?」
逃げるために気配の消し方を覚えたのなら、周りの気配にも鋭いはず。
シエルは、気配をかなり抑えているので気付かれてはいないと思うけど、これ以上近付くのは危険だ。
「やっぱり、凄いよな」
アダンダラの姿からスライムになったシエルを、ウルさんがツンと突く。
「にゃ!」
「えっ!」
突いた瞬間、シエルは一声あげると、ぴょんとウルさんの頭に飛び乗ってしまう。
かなり機嫌がいいのか、そのまま頭の上で飛び跳ねている。
そういえば、ソラもウルさんの頭の上で遊んでいたよね。
居心地がいいのかな?
「うわっ。これはどうしたら?」
ウルさんの戸惑った声に、笑いながら少しかがんでもらう。
「シエル、もうおしまい。そうだ、ここまで案内をありがとう」
「にゃうん」
シエルをウルさんの頭から抱き上げると、ソラたちが入っているバッグに入れる。
それにしても、困ったな。
捨て場近くにいる、3人の気配が動かない。
「どうする? 彼ら、動かないぞ」
ウルさんが困った表情を見せると、お父さんも同じような表情で苦笑した。
3人がどこかに移動してくれないかと期待して、少しこの場に止まっていたが、全く動く様子がない。
動けない事情でもあるのかと、周りの気配を探るが何もない。
焦っている様子もないので怪我でもないだろう。
「仕方ない。俺達の気配に気付かれている可能性もあるから、このまま捨て場へ行こう」
ウルさんが苦笑すると、捨て場に向かって歩き出す。
「そうだな。何か言われたら『ラビネラに襲われた』と言えばいいだろう。あっ!」
お父さんを見ると、含みのある笑顔をしたので首を傾げる。
「丁度いいから役に立ってもらおう。実際に、帰るのに時間がかかり過ぎているから、何か言われる可能性が高かったからな」
「どういう事?」
「証人になってもらうんだよ。ラビネラに襲われた跡を見せて」
なるほど。
ラビネラの残した跡を見せるのか。
あれだけの足跡があれば、信じてくれるかな?
「いたぞ」
暫く捨て場に向かって歩くと、木にもたれ掛かっているガルスさんが見えた。
視線を彼から右に逸らすと、岩にアルスさんが、倒れた木にはエバスさんが座っているのが見えた。
「よぅ。こんな所でどうしたんだ?」
ウルさんの言葉に、ガルスさんが頭を下げる。
アルスさん達も立ち上がると、頭を下げた。
「こんにちは。少し、気になる物を見つけてしまったので、どうするか話し合っていたんです」
気になる物?
あれ?
ガルスさんの傍にあるのって、隠しておいた私のマジックバッグだよね。
あちゃ、見つかったんだ。
あのマジックバッグの中は、マジックアイテムだよね。
おそらく中を確認したはずだから……森に不当な捨て場を作ろうとしている者達が、まだいると思われたかもしれない。
「ごめん」
お父さんだけに聞こえる声で謝る。
もっと、ちゃんと隠しておけばよかった。
「謝る必要は無い。あの状況では、仕方ない事だから」
そうかな?
お父さんが隠したマジックバッグは見つかってないのに。
……やっぱり私の隠し方が悪かったんだろうな。
「どうした?」
「これなんですが……」
やっぱり。
ガルスさんが、足元に置いてあったマジックバッグをウルさんの前に出して蓋を開ける。
「森にゴミを運んでいた者達は全て捕まえたはずなんですが、まだいたみたいです」
そう思っても仕方ないよね。
実際に、森に大量のゴミが放置されていたから。
それにしても、どうしようか。
あのマジックバッグは、一番容量が大きいから手放したくないんだよね。
「それは問題ない。俺が集めた物だから」
「「「えっ?」」」
ウルさんの言葉に3人が驚いた表情を見せる。
「知り合いのテイマーに頼まれたんだ。森に行けないから頼むって。それで、2人に協力を仰いで、ゴミを拾いに来たというわけだ」
さすがウルさん。
ジナルさんの仲間だけあって、嘘に淀みがない。




