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598話 ソルの魔石

「おかしいな」


お父さんの言葉に首を傾げる。

視線を追うと、檻の中でじっとしているラビネラに向けられている。

あれ?

檻の中の魔法陣を見る。

ソルが魔力を食べたから、影響は消えているはずだよね?

なのに、ラビネラに変化はない。

つまり、まだ洗脳状態という事だよね。


「前とは違うな」


「うん。魔法陣の影響を消すだけじゃ、洗脳が解けなくなってるね。前の時は解けたのに」


ハタカ村のシャーミの時は、洞窟の魔法陣をソルが無効化すると、元に戻ってくれた。

人に対する警戒心が強くなったと、ナルガスさんがちょっと悲しそうだったけど。


「厄介な洗脳だな」


ウルさんが、檻の中に入りラビネラに手を伸ばす。

指先がラビネラの鼻に触れるが、反応は一切無い。


「どうしたら……。フレムの魔石は此処には無いし」


ウルさんが、ラビネラに触れた指先を見ながらため息を吐く。

このままじゃ、シエルがこの建物で暴れても意味がないよね。


「ぺふっ! ぺふっ!」


「あっ。ソル、ありがとう。助かったよ」


ソルの頭を撫でると、その手から体を避けるような態度を見せる。


「えっ? ソル?」


「ぺふっ、ぺっふっ」


ん?

鳴き方がまた変わった?


「ぺっ」


魔石だ。


「ぺふっ」


ソルの鳴き声に視線を戻すと、魔石をじっと見てからラビネラを見る。


「ラビネラ用?」


「ぺふっ」


自信ありげに、胸を張るソル。

それにふふっと笑うと、もう一度ソルの頭を撫でる。

今度は、避ける事なく気持ちよさそうな表情を見せてくれた。


「ありがとう」


でも、これどう扱えばいいんだろう?

1匹1匹、ラビネラに近付けていけばいいのかな?

でも、檻の上の方にいるラビネラに近付けるのってかなり大変そうなんだけど……よじ登れば行けるか。


「その魔石、いいか?」


ウルさんの言葉に頷くと、彼の手に渡す。


「人の場合は、近付けたら魔石が反応してくれたんだけど……」


ウルさんが言っている魔石は、フレムが作った魔石の事だよね。

ソルが作った魔石とは違うんだけど、同じ反応をしてくれるかな?

ドキドキしながら、ラビネラに魔石を近づけるウルさんを見る。


「あっ」


ある程度ラビネラに近付くと、魔石がふわりとウルさんの手から離れラビネラの胸元に移動した。

そのまま様子を見ていると、魔石はラビネラの胸元で一瞬黒く光り、元に戻るとラビネラの胸元から黒い線が出てきた。


「成功したみたいだな」


ラビネラから出てきた黒い線は、ふわふわと魔石に近付きそのまま吸収されていく。


「これで安心だな」


ウルさんの言葉に頷く。

それにしても、今回の洗脳はどうして黒い線として見えるんだろう?

分からない事が多いから、ちょっと怖いな。


「くぅ?」


ん?

今の何?

ラビネラを見ると、不思議そうに周りを見ている事に気付く。


「動いた!」


私の声に、びくりと震えるラビネラ。

ぴくぴく動く耳が可愛い。


「洗脳から解放されたみたいだな」


ウルさんが、そっとラビネラに近付く。


「くぅ」


警戒をした様子のラビネラに、ウルさんが嬉しそうに笑う。


そういえば、魔石はどこだろう?

視線を横に逸らすと、傍にいたラビネラの胸元で黒く光る魔石を見つけた。

どうやら自動で動くみたいだ。

これなら檻の上の方にいるラビネラ達にも、魔石は届くね。

良かった。


「「「「「くぅ、くぅ、くぅ」」」」」


檻の中に洗脳から解放されたラビネラが増え始めると、ちょっとうるさくなる。

まだ檻の上の方のラビネラは洗脳状態なんだけど、全部が解放されたら凄い事になりそう。

それに、


「どうして、檻から出ないんだろう?」


入り口は開いている。

それなのに、先ほどから檻の中で動き回るだけで、1匹も檻から出てこない。


「アイビー。檻の出入り口の傍にシエルがいるからじゃないか?」


ウルさんの視線を追うと、檻から少し離れた場所でくつろぐシエルの姿。


「待ちくたびれて寝てるのに?」


確かにシエルが暴れたら怖いと感じるだろうけど、ラビネラには何もしていない。

今だって、ラビネラの洗脳が解けないと洞窟内で暴れられないから、とても大人しくしている。


「アダンダラは森の中の魔物の上位にいるからな。そこにいるだけでラビネラにとっては脅威なんだろう」


そう言えばそうだった。

いつものシエルを見ていると、脅威という言葉が思い浮かばないからなぁ。


「シエル。ちょっとあっちに移動してくれる?」


シエルの傍に寄って、頭を撫でる。

ふっと目を開けて私を見るシエルに、檻からかなり離れた場所を指した。

欠伸をしながら、体を伸ばすシエル。

その瞬間、檻の中が今までにないほど騒々しくなった。


「本当にシエルを怖がっていたんだ」


シエルを見ると、首を傾げている。

可愛いのに。


「ごめんね。ラビネラはシエルが怖いんだって」


「にゃうん」


一声鳴くと、私が指した場所に移動するシエル。

檻からある程度の距離を離れると、檻から勢いよく出ていくラビネラ。

洞窟の外に向かいながら、ちらちらとシエルを確認している。

本当に怖いんだね。


「ソラやフレムは、最初からシエルを怖がらなかったな」


あれは実はすごい事だったのかな?


「結構時間がかかるな」


檻の数は5個。

1個の檻の中にラビネラは70匹から80匹。

魔石1つでは、それなりの時間がかかってしまう。


「あれ? お父さん、魔石が増えてない?」


「えっ?」


3個の檻の中に魔石がある。

どれもラビネラの洗脳を解いているのが見て分かる。


「ソルが増やしてくれたのか」


お父さんの言葉に、ソルを探すと4個目の檻で魔法陣から嬉しそうに魔力を吸収している。

そしてそれが終わると、「ぺっ」と魔石を吐き出した。


「ソルの魔石を作る速度が上がってないか?」


お父さんの言う通り、最初の1個目に比べるとかなり早くなっている。


「コツでも掴んだのかな?」


ソルが4個目の檻を出ると、いつもより高く飛び上がりながら5個目の檻へ移動する。

かなり気分が高揚しているようだ。

そんなに、あの魔法陣に使われている魔力は美味しいのだろうか?


「ぺっふっふ~」


音程のずれた鳴き声が聞こえてくる。

それについ笑ってしまう。


「相当機嫌がいいな」


最後の魔法陣の上に乗って、踊るように飛び跳ねるソル。

あそこまで、高揚しているソルは初めてだ。

その状態のまま、魔法陣の魔力を食べきり、5個目の魔石を吐き出した。

檻の中の魔石が、どんどんラビネラを洗脳から解いていく。


「ちょっと……うるさすぎないか?」


洗脳から解放されてある程度落ち着くと檻から出ていくが、落ち着くまで少し時間がかかる。

その間、不安からなのかよく鳴く。

しかも洞窟なので、鳴き声が反響してしまう。


「あっ、1個目の檻からラビネラが居なくなったみたい」


最初に魔法陣を無効化した檻から、最後のラビネラが森へ走っていくのが見えた。

2個目の檻を見る。

あと、10匹か。


「お疲れさん」


お父さんの声に視線を向けると、奥から箱を持って出てきたウルさんがいた。


「どうだった?」


「ドルイドが怪しいと言った場所に棚があっただろう? その棚の裏から、この箱が出てきた。中は、ここで行われた実験を詳しく書いたものだ。かなり酷い実験が行われていたみたいだ」


「そうか。関わった者達については?」


お父さんが、箱を受け取り蓋を開けると、乱雑に詰め込まれた紙が見えた。


「全員ではないだろうが、関わった者達の名前もあった」


ウルさんの言葉に、頷くお父さん。


「役に立ちそうだな」


「あぁ。このまま、ジナルに渡すよ」


ジナルさん、大丈夫かな?


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― 新着の感想 ―
それぞれがそれぞれに丸投げするよねw
[良い点] すごくおもしろいです(ノ◕ヮ◕)ノ*.✧ アニメ絶対見ます(人*´∀`)。*゜+
[一言] 自動追尾して洗脳を解いていくソルの魔石が便利すぎて凄いですね。まるでマジックアイテムみたいですね。
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