62話 不快感
朝食の後片付けをしながら、お茶の説明をどうしようかと考える。
ラトミ村では、皆が飲んでいる事にしたらどうだろう?
あっ、駄目だ。
ラトミ村を知っている人がいたら、すぐにばれてしまう。
誰かに教わった事にしようかな?
でも誰に?
占い師?
……大切な人を利用するのは嫌だな。
それに、あまり嘘はつきたくない。
何処かでぼろが出てしまいそうで、不安になる。
ん~、たまたま森の中で香りが気になって見つけた事にしようかな。
正確には知っている香りが気になって、見つけたのだけど。
うん、嘘は言っていない。
ただ、色々省いただけだ。
……よし、誰かに訊かれたらこれで押し通そう。
冒険者たちが一ヶ所に集まっている。
どうやら本格的な討伐を開始するらしい。
私はどうしようかな?
この場所で、待機した方がいいのかな?
それとも旅を続けても問題ないかな?
「セイゼルクさん」
冒険者たちの話し合いが終わって、戻って来たセイゼルクさんに声をかける。
「どうした?」
「旅を続けても大丈夫そうですか?」
「やめた方がいい。昨日の夜の目撃情報などを考えると、オーガの数が予想より多い」
「10匹以上いるという事ですか?」
「それ以上かな。討伐隊のリーダーの予測では、30匹ぐらいだと言っていた」
「それは多いですね」
「あぁ、なのでここからは離れないほうがいいだろう」
「わかりました。移動は討伐が終わるまで待ちます」
「悪いな。速攻で仕留めて来るからな」
「怪我などしない様に、気を付けてくださいね」
「……おぅ、なんかいいな。その言葉」
言葉?
気を付けてくださいかな?
どういいのかは不明だが、気に入ってくれたようだ。
「アイビー、ちょっと手伝ってもらえないか?」
ヌーガさんが、手招きする。
近付くと、彼らのテントの前にゴミが集められていた。
「はい、手伝えることがあったら何でも手伝います」
「広場の中心部分でゴミを処理しているのだが、このゴミを持って行ってくれないか?」
ゴミの処理という事は、スライムに会えるだろうか?
処理する所を見たかったので、ありがたい。
「わかりました」
「悪いが、周りの冒険者たちのゴミも頼んでいいか?」
「はい。大丈夫です」
「ごめんね。ありがとう」
知らない人から声がかかる。
そちらに視線を向けると、女性冒険者のグループの様だ。
他にもこちらに手を振ってアピールしているグループがいる。
皆、討伐に向かうので忙しいのだろう。
冒険者たちを見送ったあと、ゴミを集めながら中心部分へ向かう。
テントとテントの間を抜けると、スライムがゴミの処理を行っている場所に出た。
スライムの数は全部で14匹。
冒険者は4人、男性3人、女性1人。
全員がテイマーだろうか?
「すみません。此処に置いても良いですか?」
「おっ、もしかして炎の剣が連れてきた坊主か?」
近くにいた男性が私を見て少し驚いた後、何か納得するように頷く。
「はい、お世話になっています」
「ハハハ、律儀だな。ゴミはそこでいいぞ」
ゴミを置くと、1匹のスライムが近づいて来る。
集めてきたゴミには、汚れた布や空になったポーションのビン、折れた短剣もある。
どれを渡せばいいのかな?
「あれ? もしかして剣がある?」
女性から声がかけられる。
「はい。折れていますが」
「それ、この子が処理するから持って来てもらえる?」
「はい」
折れた短剣を持って、女性のそばに居るスライムの前に置く。
剣を食べるスライムはレアスライムでとても珍しい。
スライムの様子を見ていると、短剣の上に乗ってじっとしている。
変化が無いので、不思議に思いながら見つめる。
「ふふふ、見ていても分からないと思うわよ」
「え?」
「剣は、ものすごく時間がかかるから」
「そうなのですか……知らなかった」
ゴミを置いた場所に戻ると、数匹のスライムが処理をしてくれていた。
空のビンを処理できるスライムもいるようだ。
見ていると、違和感を感じた。
1本のビンを処理する時間が長い。
……ソラだと、あっという間なのに。
消化中だと思われるスライムを見ていると、ぞくっとした不快感を感じた。
体がビクつく。
急いで周りを確認するが、誰の姿も確認できない。
何だろう、朝の感じに似ている。
気持ち悪いな。
「大丈夫? ちょっと顔色が悪いけど」
「えっ。……大丈夫です。ありがとうございます」
先ほど話した女性が心配そうに声をかけてくれたのに、ビクついてしまった。
女性は少し驚いた顔をしたが、すぐに柔らかく笑うと手を差し出した。
「私は緑の風のメンバーで、テイマーのミーラ。よろしくね」
「あっ、私は1人で旅をしています。アイビーです」
「1人なんだ。まだ未成年だよね?」
「はい」
「何か心配事があるなら話してね。冒険者の先輩として役立つわよ!」
「ありがとうございます」
首のあたりにちりっとした不快感が走る。
まただ。
さっと、周りに視線を走らせるが、何も捕らえることが出来ない。
何だろう本当に、気持ちが悪い。
「何か感じるの?」
「えっ…あっ」
不快感に気を取られて、話していたミーラさんを忘れてしまった。
静かに首を横にふるが、頭にポンと手が置かれる。
「こう見えて私、けっこう名の知れた中位冒険者グループのメンバーなの。話だけでも聞かせて?」
話して大丈夫かな?
でも、どう言えばいいのだろう?
「なんでもいいのよ?」
「あの……不快感を感じて。首の辺りがちりって……」
こんな事言われても困るよね。
でも、どう説明して良いのかが分からない。
ミーラさんは、少し険しい顔をする。
「不快感を感じるのは大切な事よ。身を守る事に繋がるのだから」
「身を守る?」
「そう。視線に不穏な何かを感じたのだと思う。不快感はいつから?」
「今日の朝からです」
「という事は、この討伐メンバーの中に問題があるのね」
信じてくれたのだろうか?
「討伐メンバーで信頼している者達に言っておくわ。アイビーは1人にならない様に注意して」
「……はい。でも間違いだったら」
「間違いだったら笑い話にすればいいの。でも本当だった場合、狙われてる可能性があるという事。不快感や嫌悪感は身を守る大切な感覚よ。けして疎かにしてはいけないわ」
怖いな。
不快感は確かに感じている。
誰かに狙われているっていう事なのだろうか?
体がぶるっと震える。
「大丈夫。炎の剣のメンバーにも話しておくわ。彼らは上位冒険者だから」
「えっ!」
それはそれで驚きです。