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592話 おかしい。

「ジナルの奴、この前の仕返しだな」


ウルさんがポツリとこぼした言葉に首を傾げる。

それに気付いたウルさんが、ちょっと気まずそうな表情を見せる。


「もしかして、ジナルさんに仕返しされるような事をしたんですか?」


話していなかったジナルさんに、注意をするつもりだったんだけど……。

ウルさんをじっと見ていると、すっと視線を逸らされてしまう。

どうやら、当たりみたい。


「でも、その前に悪戯を仕掛けたのはジナルだぞ」


ちょっと拗ねた口調で話すウルさんに、呆れてしまう。

これってもしかして……。


「で、ジナルの前に悪戯を仕掛けたのは、ウルという訳か?」


お父さんが呆れた表情でウルさんを見ると、彼は肩を竦めた。

やっぱり。


「ははっ、その通り」


つまり交互に何か悪戯を仕掛けているのか。


「アイビー、ごめん」


立ち上がったウルさんが謝るので、首を横に振る。

ちょっと驚いたけど面白かったからね、ウルさんの態度とか表情が。

それに怪我をするような悪戯ではないしね。


「で、シエルはどうして森に来たがったんだ?」


「たぶんお腹が空いたんだと思います」


「お腹?」


ウルさんが首を傾げてシエルを見る。


「にゃうん」


皆に見られたシエルが、1つ頷くと森の奥へと視線を向ける。


「暴走した魔物がいるから、気を付けてね」


「にゃうん」


スリっと私の手に顔をこすり付けると、さっと走り去るシエル。

その速さを初めて見たウルさんが、「すごい」と感動している。


「アダンダラって、あんなに速く走れるんだな。しかも走る姿がかっこいい」


ちょっと興奮したウルさんに笑みが浮かぶ。

颯爽と走るシエルは、本当にかっこいいからね。


「さて、俺達は捨て場に行って必要な物を拾うか」


「うん」


不法な捨て場で拾った物がかなり残っているが、村の状態が不穏なため拾える時に拾っておこうという事になった。

そのため、空のマジックバッグを2つ持参している。

急に村から出る事になっても、これなら安心だ。


「なぁ、ソラたちは本当に劣化版のポーションを瓶ごと食べるのか?」


「食べるぞ。その辺りの事は、ジナルに聞いているんだろ?」


頷くウルさんが、ソラたちを見る。


「聞いた時は、ジナルがふざけているのかと思ったけどな。有機物と無機物を一緒に食べるなんて、聞いた事が無かったから。そういえば、『食べているところを見たら驚くぞ』と言われたんだが、なにがあるんだ?」


食べているところを見たら驚く?

何か特別な事でもあったかな。

ソラやフレムがポーションを食べているところを思い出したけど、特に変わった事は無いよね?

普通に食べて消化しているぐらいで。


「たぶん、食べる速さの事だろう」


「速さ?」


私が首を傾げると、お父さんが苦笑する。


「ソラ達を見ていると、いつもの事だから忘れがちだが、通常のスライムはもっと消化に時間がかかるからな」


あっ、そうだった。

ソラたちの食事って、通常のスライムとは比べ物にならないほど速いんだった。

私のスライムの基本はソラ達だから、食べる速さが異常な事とか忘れちゃうんだよね。


「そんなに速いのか?」


「見たら驚くだろうな」


お父さんの楽しそうな表情に、ウルさんがソラ達を見る。


「楽しみだな」


「ぷっぷぷ~」


ウルさんに見られたソラが、楽しそうにウルさんに向かって飛び上がる。


「うわっ」


慌てて手を前に出してソラを受け止めるウルさん。


「ぷ~」


満足そうなソラの鳴き声に、お父さんが苦笑する。


「ソラは、ウルの反応が気に入ったみたいだな」


あ~、あの慌てっぷりを確かに気に入っているね。

一時期、私もされたなぁ。


「あそこだな。ゴミの整理はされていないようだな」


「ははっ、見事にゴミが積みあがっているなぁ」


お父さんが少し呆れたように言うと、ウルさんが小さく笑った。

捨て場を見ると、その村の状態が少しわかる。

整理整頓されていないのは、人手が足りていなかったり、管理している者に余裕が無かったり。

つまり、大なり小なり問題があるところ、という事になる。


捨て場に着くと、ソラはウルさんの腕の中から飛び降りて捨て場に入っていく。

フレムとソルも、すぐにその後を追う。


「気を付けてね」


「ぷっぷぷ~」


「てっりゅりゅ~」


「ぺふっ」


鳴きながら周りを見るソラたちは、目的の物を見つけたのか脇目も振らずに向かう。


「皆、元気だな。……いや、さすがに速すぎないか?」


ウルさんの視線の先を見ると、ソラが大きな剣を食べているところだった。

確かに、速いよね。

あっ、2本目を食べ始めた。


「アイビー、近くで見ても大丈夫かな?」


「はい。大丈夫ですよ」


私の答えに嬉しそうに笑うと、喜々としてソラの下へ向かうウルさん。


「楽しそうだな」


「そうだね」


ウルさんを見ていると、ソラが食べ終わると次の剣を渡している。

あれは見ているのではなく、手伝いだろう。


「あれ?」


感じていた動物達の気配が薄くなったような……?

それに、微かに動物達の怯えが伝わってくる。


「どうした? ん? 風の流れが変わったか?」


お父さんの言う通り、動いていた動物や魔物たちが隠れたので風の動きが変わった。

気配が読めないのに、凄いよね。

というか、動物たちがここまで怯えるのって……。


「暴走した魔物だな」


やっぱり。


お父さんの言葉にウルさんが、剣を手に持ち捨て場から出てくる。

お父さんも同じように、剣を持ち周りを警戒する。


「あれ? 魔物がこちらに走ってきているな。かなり強い魔物のようだが……」


ウルさんが言うように、魔物がこちらに向かって来ているのが気配でわかる。

でも、この気配は大丈夫。


「これはシエルです。戦う時以外はかなり魔力を抑えているので、別の魔力に感じるけど同じなんですよ」


「そうなのか? 印象が全く違うから……。まぁ、シエルなら大丈夫だな」


ウルさんが納得してくれてよかった。

後は、もしもの事があるから、ソラ達にはバッグに戻ってもらった方がいいよね。


「ソラ、フレム、ソル。帰って来て」


「ぷっぷぷ~」


「てっりゅりゅ~」


「ぺふっ」


森の異常な雰囲気に気付いているようで、いつもより早く集まると体を縦に伸ばして、抱き上げやすい格好をしてくれる。

ソラたちを専用のバッグに入れると、森の中で大きく気配が揺れた。


「シエルと暴走した魔物が戦っているみたいだな」


ウルさんが視線を向ける方を見ると、森の木々が大きく揺れている。

シエルは強いけど、暴走した魔物の数が分からない。

大丈夫かな?


「ここから近い場所だな。移動した方がいいのか?」


「いや、動かないほうがいいだろう。下手に動くと、シエルがこちらの気配に気を取られるかもしれない」


シエルの邪魔にだけは、ならないようにしないと。


「きゅっ」


ん?

可愛い鳴き声が聞こえたような気がするけど……。

周りを見回すが、鳴き声の主はいない。

気のせいかな?


「きゅっ」


やっぱり聞こえる。


「ラビネラ」


ウルさんの視線を追うと、少し離れた木の後ろに小型の動物が見えた。

野兎に見えるけど、ウルさんは「ラビネラ」と言ったよね?

でも、私には野兎に見える。


「あっ、野兎に羽がある」


「ははっ。確かに羽が無かったら野兎にしか見えないだろうな。でも、あれはラビネラと言って幸運を運ぶと言われている小型動物だよ」


幸運を運ぶか。

本当かどうかは分からないけど、見た目は可愛いな。


「きゅっ」


あれ?

シエルの気配がある方へ視線を向ける。

かなり激しく戦っているのが分かる。

木々も大きく揺れ、森の中に音が響いている。


ラビネラを見る。

うん、おかしい。

これだけ魔物が暴れている時に、小型の動物が安全な巣穴や隠れ場所から出てくるわけがない。

お父さんとウルさんも気付いたようで、ラビネラに剣先を向けた。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 実はここが安全だとわかってるパターンかなー
[一言] ソラがソルになっている所があるよ ウルに飛び上がる辺り
[良い点] おもしろい! [気になる点] 今回、捨て場でトロンが出て来なかった。
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