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589話 失敗した。

テーブルの上には、一口大に切られたジャージ肉の山。

お父さんがお皿を見て首を傾げたけど、気にしない。


「これ、もしかしてジャージ肉? 俺が一番好きな肉なんだよ」


ウルさんが、嬉しそうにジャージ肉を口に入れるのを見る。

味付けしたあとに味見をしたけど、確かに美味しかった。

でも、目指したのはこれじゃないんだよね。


「どうしたんだ?」


そっとお父さんに訊かれたので肩を竦める。


「完全に火が通ってしまったから……」


記憶では薄っすらピンク色。

ドキドキしながら切ってみたら、完全に火が通ってしまっていた。

焼き過ぎたのか、肉の性質で火が通りやすいのか……。


「まぁ、これはこれでうまいよ」


お父さんが食べるのを見て、私もお肉に手を伸ばす。

確かに美味しい。

今日は、この村のソースを使って味付けをしている。

この村のソースは、沢山の果物で作られているため果物の風味が強い。

しかも程よい酸味で、夏場にはお薦めの味だ。


「おい、少しは遠慮しろ」


ジナルさんの声に視線を向けると、ウルさんの手を叩いていた。

ウルさんを見ると、彼の前のお皿に積まれた肉の山。

かなり気に入ってくれたようだ。


「これって、この村のソースだよな? ちょっと何かを足しているのか?」


「はい。ポン酢を少し」


ウルさんが頷きながら、お肉を口に入れる。


「うまいな」


この村のソースだけでは少し物足りなさを感じたので醤油、この世界ではポン酢を少し足した。

それだけでぐっと美味しくなったような気がする。


「おい、ウル。野菜も食え! 肉ばっかり食うな。食べ過ぎだ!」


「あっ、俺の肉! ジナルもだろうが」


ジナルさんとウルさんの攻防を見ながら、食事をする。

この2人、かなり仲がいいようだ。

でも、2人ともよく見て欲しい。

一番お肉を食べているのは、お父さんだから。


食事が終わり、後片付けをウルさんとジナルさんに任せてお茶とお菓子の準備をする。


「どこの店のだろうな?」


お父さんがウルさんが持ってきた甘味を見る。

ふんわり焼いた生地の上に、大きな果物が載っている。

食後のおやつにしては、ちょっと大きめだ。


「悪い、待たせた」


食事をしている部屋にジナルさん達がやって来て、目の前に座った。

全員が揃ったので、お茶を飲みお菓子を口いっぱいに頬張る。

甘い果物の味が口に広がる。

夕飯をちょっと食べ過ぎたけど、美味しい。


「久しぶりに食べたが、美味いな」


「そういえば、ウルはあまり甘い物は口にしないな」


ジナルさんの指摘にウルさんが頷く。


「そういえば、そうだな。ジナルはよく食べてるよな」


「甘味がない生活なんて耐えられない」


ジナルさんが真剣に言うので、笑ってしまう。

でも確かに、ジナルさんはよく甘味を口にしているな。


「アイビー。ギルマスや補佐達の怪我と中毒症状は問題なく解決したから。それと魔石なんだが……」


ちょっと躊躇したジナルさんが、ポケットから白く濁ってしまった魔石を出す。

最初の頃とはかなり見た目が変わっている。


「すまない。こんな感じになってしまった」


「それは構いません。役に立ったのならよかったです」


怪我も治って中毒症状も落ち着いたなら、魔石が濁るぐらい大したことではない。


「てっりゅりゅ~」


フレムの声が聞こえたと思ったら、ぴょんとテーブルの上に乗ってくる。


「フレム?」


どうしたのかと思ったら、パクリと白く濁った魔石を食べてしまう。


「うわっ。本当だったのか」


ウルさんが、フレムが魔石を食べた事を驚きながらも感動したように見つめている。

驚き方から、ジナルさんがある程度の事は説明してくれているようだ。


「凄いな。ジナルが嘘をついていない事は分かっていたが、スライムが魔石を生みだすなんて信じられなくて。あれ? 使用した魔石を食べたという事は、復活の方か?」


魔石を口の中に入れているフレムを、右から左から上から見るウルさん。

その行動にジナルさんの肩がさっきから揺れている。

あっ、お父さんもだ。

まぁでも、それは仕方ないかも。

ウルさんはフレムに夢中で気付いていないけど、かなり面白い行動をとっている。


ポンッ。


「あっ、出てきた。すごい……元通り以上になってる」


元通り以上?

ウルさんの言葉の意味が分からず首を傾げる。

フレムから出てきた魔石は、一番最初に見た時のように透明で真ん中が青い。

元通りだけど。


「ウルは、冒険者ギルドのギルマスの治療後の魔石しか見てないからな」


それだったら、この透明状態の魔石を見るのは初めてか。


転がった魔石を手に取り私に渡すジナルさん。

それを受け取り、翳して見る。

中心部分もよく見ると、青いけど透き通っている事に気付く。


「てりゅ?」


「ありがとう、元に戻してくれて」


フレムの頭を撫でると、嬉しそうに体を揺らす。

あ~でも……この魔石を元に戻したという事は、もしかしてまだ必要って事なのかな?

……その時は、その時だね。


「それでギルマスから提示された、魔石の使用金額なんだが」


「はい。どうなりましたか?」


やっぱり有償になったのか。

まぁ、お金は必要だからね。


「金板10枚で100ラダルになったから」


「はっ?」


今、金板という言葉を聞いた気がする。

ジナルさんを見ると、深く頷かれてしまった。

聞き間違いじゃないのか。


「言っておくが、値下げ交渉はしたからな」


してくれたのか。

それで100ラダル?

最初は……訊かないほうがいいね。


「ありがとうございます」


オグト隊長さんが、「お金があっても無駄にならないから貰っておけ」と教えてくれた。

それにまだ旅は続くしね。


「ギルマス達とは話せたのか?」


「いや、今日は挨拶と金額交渉だけだった」


ジナルさんの言葉に、お父さんが首を傾げる。


「それだけか?」


お父さんが不審気に、ジナルさんとウルさんを見る。

確かに、それだけというのはちょっと変だ。


「あぁ、ちょっと問題が起きてな」


問題?

でも、皆の怪我や中毒症状は治ったんだよね?


「何があった?」


お父さんの質問に、ジナルさんがため息を吐く。


「ギルマス補佐の代理が、隠れ家に押しかけてきやがった」


補佐の人の代理?


「たぶん俺やウルが出入りした事で、ギルマス達に変化があったと思って慌てて確認に来たんだろうな」


あれ?

今の言い方は味方ではないのかな?

ジナルさんをみると、馬鹿にしたような表情を見せた。


「両ギルマスが起きているのを見て、顔色が一気に悪くなったからな。『まさか死んだんじゃなくて、治ったなんて!』ってところだろうな。いい気味だ」


あっ、ジナルさんが本気で補佐の代理の人に怒ってる。

仲間を裏切る人、嫌いだもんね。


「分かりやすい敵だな」


お父さんが苦笑を漏らす。

確かに。

予想外の事とはいえ、顔に出すなんて。

見張りも中途半端な人だったし、人員不足なのかな?


「奴の事があったから、すぐに解散することにしたんだ」


「そうだったのか。それで、ギルマス達とはいつ話をするんだ?」


ジナルさんが少し思案した表情をした。


「それが奴が傍にいたからな」


それは話せないよね。

つまり、これからの事は決まっていないのか。


「たぶん、プラフがトルラフギルマスから何か伝言を預かってくるだろう」


それが妥当かな。


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― 新着の感想 ―
[良い点] アイビーやソラたちが可愛くて可愛くて… 特にお肉を売りに行くアイビーとか、出会いのシーンのとろーんと岩から零れ落ちそうなソラとか、そのソラを一生懸命掬い上げようとするアイビーとか…可愛かっ…
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