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588話 いつの間に!

「ただいま」


「えっ?」


玄関からジナルさんの声が聞こえたので、調理場から顔を出す。

帰って来るのは明日だと言っていたけど、用事は終わったのかな?


「ジナルさん、お帰りなさい。夕飯は、食べますか?」


今は旅に持って行く料理を作りながら、夕飯用のお肉を調理中。

前世の私が何度も作ったらしい「ローストビーフ」。

かなり火加減が難しいみたいで、失敗を繰り返している記憶がある。

それでも作ってみたかった。

失敗したら、一口大に切って焼いて味をつけ誤魔化す予定。


「ありがとう。2人分頼むよ」


2人分?

よく見ると、玄関にはジナルさんの他にもう1人男性がいた。


「えっ!」


うそっ、気配を感じなかった。

ジナルさんが連れて来るという事は、大丈夫な人なんだろうけど。

そういえば、紹介したい仲間がいると言っていたな。

彼がそうなのかな?

あっ、ご飯を食べてる部屋でソラ達が遊んでいるんだった。

どうしよう。


「ジナルさん、いつもの部屋は今ちょっと……」


「アイビー、俺が行って来るよ」


外で洗濯物を取り込んでいたお父さんが、慌てている私の肩をポンと叩くと玄関へ向かってくれた。

まだ玄関にいるみたいだから、きっと大丈夫だね。

ん?

あっ、肉が焦げる!


「良かった。大丈夫だ」


全面を強火で焼いて……。


ドタドタドタ。


「ん?」


廊下を走る足音に、お肉を気にしながら視線を向ける。


「アイビー!」


お父さんが調理場に入ってくる。

今の足音がお父さんという事に驚きだ。

何かあったのだろうか?


「どうしたの?」


やっぱり何かあったんだ。

かなり焦っているというか、困っている表情をしている。


「……いや、8月だな」


えっ?

8月?


「そうだね」


今さら?

8月だからどうしたんだろう?


「お父さん、大丈夫?」


お父さんの困っていた表情が、どんどん怖い表情になっていく。

それに驚きながら、お肉をひっくり返す。

あと少し焼いたら、保温するために紙と布で包んでじっくり火が通るのを待つんだよね。

うわ~、成功するかな。


「はぁ」


ん?

お父さんのため息に視線を向けると、調理場に置いてある椅子に座って項垂れていた。

落ち込んでいる?

一体全体、お父さんに何が起こっているんだろう?

この原因は……ジナルさんかな?

それとも、ジナルさんが連れてきた男性?

知り合いだったとか?

でも知り合いだとしても、お父さんが落ち込む理由って何だろう?


「うわっ、凄い量のパンだな」


声に視線を向けると、調理場に入ってきたジナルさんとジナルさんが連れてきた男性の姿があった。

ジナルさんの視線の先には、机の上に山となっている大量の調理パン。

ちょっと、作り過ぎたかな?

でも、それよりも……。


「ジナルさん、あの……」


ジナルさんの腕の中が気になる。

なぜなら、彼の腕の中にはフレムがいた。

そしてなぜか、男性の頭の上にソラが……。


「アイビー、彼はウルアル。ウルと呼んでやって。それと契約書を交わしているから、心配しなくても大丈夫だ」


契約書。

また、知らない間に増えているな。


「分かりました」


ジナルさんの事だから、必要な事なんだろう。

それにしても、ソラをどうしよう。

ウルさんと言う男性を見ると、ちょっと緊張した様子で頭の上を気にしている。

きっと落とさないか心配なんだろうな。

……この状態で挨拶してもいいかな?


「ウルさん、初めましてアイビーです」


「あぁ、えっとウルアルと言います。ジナルが言ったようにウルでいいので。あのさ、頭の上の子だけど、落ちそうじゃない? 大丈夫?」


ウルさんの手が頭の周りでうろうろする。

ソラが落ちそうになっていたら、助けようとしているのだろうけど……。

ソラは安定しているのか、寛いでいる。


「それは大丈夫です、安定しているので。それに落ちても問題ないです」


お父さんの頭の上から、何度も落ちても問題なかったからね。

きっと大丈夫だろう。


「いや、落とすのはちょっと可哀想かと」


そう思ってくれるのは嬉しいけど。

ソラを見る。

……居心地がいいのか、眠たそうにしている。


「ソラを引き取るので、ちょっと頭を下げてもらっていいですか?」


「ありがとう」


ウルさんが膝を折ってくれたので、ソラに手を伸ばす。

そっと抱き上げると、ちらりと私を見て大あくびをした。


「あくび……。個性的なスライムだね」


あははっ。

私もそう思う。


「改めて、よろしく」


「はい、よろしくお願いいたします」


宜しくという事は、これからある程度は一緒に行動するのかな?

それとも、お父さんに何か依頼でもしたのかな?

お父さんを見ると、落ち込んでいるけど復活したようだ。


「アイビー、ウルは今日からここで一緒に生活をする事になったから。あと、契約書はしっかり結ばれているから安心していい」


「分かった。ウルさんは、食べられない物がありますか?」


夕飯で出してしまうかもしれないからね。


「いや、問題ないよ。それにしても、そのパンは珍しいな」


ウルさんの視線の先には山となった調理パン。

今日はパン生地の上に色々な具材を乗せて焼いてみた。

主に、お父さんの希望で味のついた肉だけど。


「食べますか? 少しぐらいならいいですよ」


まだ夕飯までには時間があるしね。

小腹が空いているなら2個ずつぐらいなら、問題ない。


「いいのか? これだけ焼くのは大変だっただろう?」


ウルさんを見る。

パンを見ているように見えるけど、外に出る扉や窓、ナイフの場所などしっかり見てる。

うん。

この人は間違いなく、ジナルさんの仲間だね。


「大丈夫です。パン作りは楽しいので」


「そう?」


「はい」


じっとウルさんを見ると、ちょっと視線をずらされてしまった。

それに首を傾げる。


「アイビー、洗濯物は部屋に置いとくな」


いつの間にか、洗濯物を取り込む作業に戻っていたお父さんが、洗濯物を入れたカゴを持って調理場に入ってくる。


「ありがとう」


お父さんは、ちらりとジナルさんとウルさんを見ると、調理場から出ていった。


「あのドルイドだよな」


ん?

ウルさんの声に視線を向けると、ちょっと困惑した表情でお父さんが出ていった扉を見ている。

この反応は、やはり知り合いなんだろうか?

それにしては、ちょっと反応がおかしい。


「お父さんが、どうかしたんですか?」


「えっ? いや、彼はいつもあんな感じ?」


あんな感じとは?


「えっと、優しいですよ」


私が料理に集中できるように、色々手伝ってくれるし。


「隠し玉が、優しい?」


ん?

……あっ、そうか!

お父さんの昔を知っているから、今のお父さんに違和感があるのかも。


「昔のお父さんを、知っているんですか?」


「そうそう。だから、今のドルイドを見て他人の空似か兄弟かと思った」


そこまで?

あ~、でも似たような事を言われた事があったな。


「本物ですよ。本物のオール町出身のドルイドです」


私の言葉に、頷くウルさん。

でもまだどこか、納得しきれていない様子だ。


「ぷっ。くくくっ」


ジナルさんの笑い声にため息が出る。


「昔と変わった事を、説明しなかったんですか?」


ちょっと責めるように言うと、首を横に振られた。

言ったの?


「『アイビーにはいい父親』だと言ったぞ? でも反応から、自分の目で見ないと信じないと思ったから、詳しくは話さなかっただけだ」


それなら仕方ないのかな。

それにしても、そんなに困惑するほど違うのかな?

今のお父さんしか知らないからなぁ。


587話で木の魔物のトロンをスライムと表現している部分がありました。

ご指摘、ありがとうございます。

これからも宜しくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
お父さん、ちゃんと絶望してる。 完全に忘れてたんだな
[一言] そう言えば、2日後にトトムさんに、こめ料理を教える約束はどうなりましたか?
[気になる点] 少々話のテンポが悪くなっているように思います [一言] とはいえ今読んでる中で一番面白いので頑張ってください〜
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