表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
634/1158

番外編 ジナルさんとウルさん2

「契約書まで出してくるから、相当なんだろうとは思ったがスライムが魔石を?……本当なのか?」


「本当だ。実際にスライムが魔石を生み出すところを見てるしな」


生み出すというより、吐き出したところかな?


「スライムという事はテイムされているのか?」


「あぁ」


「それは、どんな人物なんだ?」


「名前はアイビーで、保護者のドルイドと一緒に旅をしているんだ。俺たちとはハタカ村で出会って、一緒に問題を解決した仲だ。不思議な縁があって、今も一緒に旅をしている。アイビーの性格は、一生懸命で可愛いんだ」


アイビーは恐らく、一般的に可愛いと思われる見た目だ。

でも、見た目だけじゃなくて性格も可愛いんだよな。

人に甘える事が少し苦手みたいだけど、それも可愛いし。

何事にも一生懸命なところも可愛い。


「保護者? まだ、子供なのか?」


「あぁ、今は9歳だ」


あれ?

アイビーは確か、7月の終わりが誕生日だと言っていたよな?

今は8月だ。

えっ?

あれ?

まさかドルイドが、大切にしているアイビーの誕生日を忘れてる?

知らない所で祝ってた?

それとも聞き間違いで8月の終わりだったとか?


「どうしたんだ?」


ウルの言葉に首を横に振る。


「いや、アイビーの年齢が9歳か10歳なのか、ちょっとあやふやで……」


「9歳でも10歳でも、どっちでもいいだろう」


「よくない! もし10歳なら、お祝いしていない。『生まれてきてくれてありがとう』と伝える大切な日なのに」


やっぱりアイビーの誕生日は7月の終わりだよな。

ドルイドが忘れているという事になるよなぁ。


「ジナル、悩むのはいいが話が脱線してないか?」


……確かに今は必要ないな。

ドルイドに会った時に、確かめよう。


「えっと、なんの話だったかな?」


「アイビーについてだろ?」


ウルの呆れた表情に苦笑が浮かぶ。


「そうだったな」


「なぁ、ジナル。子供だから警戒心が大人よりも無いのは分かるが、少し信用し過ぎじゃないか?」


ウルを見ると、心配そうに俺を見ている事に気付く。


「確かにそう見えるだろうな。実際、俺はアイビーを信用してる。アイビーだけじゃなくドルイドも」


俺がここまで他人を信用するのは珍しい。

調査員なんてモノをしていると、人を信用することが出来なくなるからな。


「アイビーには、洗脳状態から2回も助けられているからさ」


「はっ?」


「ハタカ村でも俺は洗脳されてるんだ。それを、アイビーが助けてくれたんだ」


洗脳を解く方法はちょっと過激だったけどな。

でも、本当に感謝してもしきれないほどだ。

ハタカ村の洗脳の最後は「死」だからな。


「そうなのか?」


「そうなんだよ。しかも見返りを求める事なく『出来る事をしただけ』だって。そんな彼女だから信用しているんだ。ドルイドも俺の力を頼った事は1回もないからな」


調査員だと知っているのに、それを気にした様子がない。

恐れる事も無いし、利用する事も無い。

ただ、「そうか」という感じ。


「なるほど。それにしても、ハタカ村でも洗脳があったんだな。知らなかった」


ウルの言葉に首を傾げる。

上に情報は流しておいたが、知らない?


「あぁ、魔法陣を使った洗脳で核が傷つくから、最悪な洗脳と言えるだろうな」


「そうだったのか。なぜその情報が、流れてこなかったんだ?」


洗脳に警戒させる必要があるのに、隠した?

なんだかおかしいな。


「ウル。ハタカ村についての記憶がなくなっている可能性は?」


「それは無いと思う。昨日、思い出せるだけ時系列にそって思い出してみたが、特に違和感を覚える事は無かった。仲間とも確認したが、同じだったしな」


それだったら、大丈夫か?


「ハタカ村については、『村を教会が乗っ取ろうとして両ギルドのトップ達に罠を仕掛けて大怪我させ、身動きできない間に着々と仲間を増やしていった』と聞いたが……」


大まかだけ伝えて、細かい部分を全て伝えていないんだな。

上の方で何かあったのか?

後で仲間に連絡して、確認した方がよさそうだ。


「確認が必要になりそうか?」


俺が頷くと、ウルが険しい表情でため息を吐いた。


「そうか。これについてはジナルに一任するよ。俺が何かおかしいのかもしれないからな」


「記憶がなくなっていない」と言っても、本当なのか確かめる方法が無いからな。

思い出した記憶が、本物なのか分からないし。


「洗脳か……。厄介だな」


ウルの言葉に頷く。

かなり厄介だ。

方法が分かれば対処も出来るが、この村の洗脳方法が掴めていない。

ハタカ村とは明らかに違うが、何が違うのか。

仲間が何か情報を掴んでくるといいが。


「ところでもう1つ気になる事があるんだが」


「なんだ?」


「ドルイドって、もしかして『オール町の隠し玉』の事か?」


やっぱり分かったか。

本人はすごく嫌がっているけど、有名だからな。


「正解」


「聞いた事がある名前だと思ったよ。そうか、あいつか」


ウルが、嬉しそうに笑うのを首を傾げて見つめる。


「知っているのか?」


「表だけど、一緒に仕事をした事があるんだ。勘がよくて、容赦がなくて、仕事は早かったな」


表という事は、普通の冒険者として関わった事があるのか。

ドルイドが覚えていたら、驚くだろうな。


「そうか。ドルイドが保護者か……。あのさ、アイビーは大丈夫なのか? 彼が保護者で」


心配そうに俺を見るウルに噴き出す。


「ぷっ、くくくっ」


「笑うなって、だってあのドルイドだろ? あいつが戦っている姿を見た時は、寒気がしたんだからな」


確かにオール町の隠し玉の時のドルイドしか知らなかったら、心配になるよな。

冷血漢とも呼ばれていた男だからな。

今のドルイドは、昔を思い出せないほど優しい……いや、アイビーに害があるかもしれないと分かったらすぐに昔に戻るな。

それに優しいのはアイビーにだけじゃないか?


「アイビーにはいい父親だよ。まぁ、自分の目で確かめた方がいいだろうな」


口で説明しても、信じられないだろうから。

今も疑わしそうな表情で俺を見ているし。

スライムの時以上に驚くんだろうな。

楽しみだ。


「それより、昨日は洗脳の混乱があったから何も聞かなかったが、薬物について調べていたのか?」


両ギルマスが調べていた以上、ウルたちも調べていると思うが。


「もちろん」


「そうか、よかった。それで?」


「この村の教会が中心になって、カリョから取れる薬物を広めているのは間違いない。この村だけでなく隣の村でも徐々に中毒者が増えていると報告が来ている」


「証拠は?」


「仲間の2人が数年前から教会に入り込んでいる。彼らが持ってきた書類が証拠となるだろうが、相手は教会だからな。それだけでは、おそらく不十分だろうな」


書類か。

「偽造だ」と騒ぎ立てて逃げるだろうな。


「そうだ。ここに来る前に、冒険者ギルドに探りを入れたんだが、大量のカリョを処分したという噂を聞いたが、なにか知らないか? なんでも王都の騎士が関わっているらしいんだが」


「あぁ、その噂か。半分本当で半分嘘だ」


「ん? 半分?」


不思議そうな表情で俺を見るウルに、笑みを返す。


「大量のカリョの花が処理されたのは本当だ。ただし、それは王都の騎士ではなくアイビーがテイムしている木の魔物がした事だから。すごかったぞ。一面のカリョの花畑が数秒で枯れた姿に変わるのは」


「ん? 木の魔物? 木の魔物ってあの……人を襲う木の魔物?」


「そう。その木の魔物」


ウルを見ると、眉間に皺を寄せている。

木の魔物がテイム出来るなんて聞いた事が無いからな。


「アイビーは何をテイムしているんだ?」


「スライム3匹と、スライムもどきが1匹。木の魔物の子供だな」


「もどき? 子供?」


「アイビーの許可が出たら、全部見せてもらえるさ」


戸惑いながら頷くウル。

見せてもらう時は、絶対に傍で様子を見てよう。


「でも良かったよ。教会にいる仲間から、今度のクスリは全て王都用だと聞いていたからな」


王都用か。

あんな量が出回ったら、かなりの被害が予想される。

本当に、見つける事が出来てよかった。

あの場所に導いたシエルのお陰だな。


「ウル。アイビーやスライムの情報を話したから気付いていると思うが、彼女らを守って欲しい」


「やっぱりそういう事か」


ウルの「認識阻害スキル」が、もしもの時にアイビー達に役立つはずだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
誕生日忘れてたら絶望しそう…
そうそうアイビーの誕生日気になってた! もし忘れてたんだとしたらドルイド落ち込みそうだな
トロンはテイムされていましたっけ?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ