585話 どうやって?
夕飯を作り、ジナルさんたちの分は調理場にあったマジックボックスに入れておく。
起きている間に帰って来ない場合を考えて、メモを張り付けておく。
「さて、食べるか。さっきの部屋でいいか?」
「うん」
お父さんが料理を乗せた盆を持ってくれたので、お茶を持って行く。
「「いただきます」」
今日のメインはトトムさんが一押しした肉「ジャージ」!
焼いた時も思ったけど、柔らかい。
「おいしい~」
塩と胡椒だけにしてよかった。
まずはお肉本来の美味しさを楽しみたい。
「これは、うまいな」
お父さんも気に入ったのか、次々口に入れていく。
お肉以外は、サラダと野菜の煮込み。
どの野菜も美味しい。
「トトムの店は正解だな」
「うん。野菜がどれも新鮮だし、美味しいね」
だから、どんどん食べれちゃう。
おかしいな、結構おやつを食べたのに。
「「ごちそうさまでした」」
後片付けをするため立ち上がると、お父さんも立った。
「お皿だけだから、ゆっくりしてていいよ」
「アイビーがお皿を洗っている間にお茶の用意をしておくよ。お茶でいいか?」
「今日は果実水にしようかな」
「分かった。この村の果実を絞っておくよ」
「ありがとう」
お父さんと一緒に部屋を出ようとすると、シエルが視界に入った。
シエルのお腹のあたりには、ソラたちの姿もある。
遊び疲れたのか、夕飯を作っている間に皆は寝てしまった。
「どうした?」
お父さんの言葉に、少し考えを巡らせながら調理場へ向かう。
「えっ? ん~、どうやってソラやフレムは今の状況を理解するのかなと思って」
欲しい魔石を作ってくれるフレム。
今日はソルも活躍した。
いつも不思議に思っていたけど、シエルが魔石を持ってきた姿を見て知りたいと強く思った。
でも、私が知っている知識で考えても答えが出ない。
「その事か……」
洗い場にお皿を置くと、タオルに石鹸をつけて洗っていく。
「うん。お父さんは分かる?」
私の質問に首を横に振るお父さん。
「分からないが、もしかしたらと思っている事はある」
「何?」
「証拠はないが、『魔力の残骸』に反応しているのではないかと思ってる」
魔力の残骸?
聞いた事は無いな。
「一部の研究者に信じられている事だよ」
研究者か。
「彼らは、『魔力を使って何かすると全ての魔力を使い切っているように感じるが、実際はほんの少し残る』と考えているそうだ。そして、それを「魔力の残骸」と彼らは呼んでいるんだ」
残骸か。
魔法の痕跡は、煤とか濡れた跡など目に見える形跡を指すから、これとは別の物だよね。
「そしてその魔力の残骸は、『一定時間その場にとどまってから、周りに混ざる』そうだ。俺は、ソラたちはその残った残骸に反応している可能性があるんじゃないかと思ってる」
「ほんの少しなんだよね?」
「そう聞いたが、実際はどれくらいなのか不明だな。まぁ、魔力の残骸自体が実証することが出来ていないからな」
そうだよね。
そうじゃない可能性もあるんだよね。
「俺がこの話を聞いたのは8年ぐらい前だからな、今ならもう少し研究が進んでいるかもしれないな」
ほんの少しの残った魔力か。
そんなのを感じ取れるかな?
……ソラ達なら出来そうって思っちゃうな。
「よしっ、お終い」
明日もここを使うので、洗ったお皿はカゴに並べておく。
私は果実水をお父さんはお茶を持って食事をした部屋に戻ると、シエルがお腹を出して寝ていた。
「えっ」
「いや、くつろぎ過ぎだろう」
しかも上を向いたお腹の上に、ソラとソルが寝ている。
フレムは……シエルの腕の下でちょっと押しつぶされているように見えるが、寝ている。
「そういえば、ガルス達も帰って来ないな」
「そうだね。みんな、部屋に戻るよ~。起きて~」
「にっ……」
シエルが目を覚ましてじっと私を見る。
ただし仰向け。
そして、シエルの視線が下を見る。
ソラとソルは起きる気配がない。
「仕方ないな。ほらソラ、ソル。ちょっと抱き上げるぞ。お茶を持ってもらっていいか?」
「うん」
お父さんは、お茶を私に渡すとソラとソル、シエルの腕の下からフレムを抱き上げる。
「ぷっ?」
「てりゅ?」
「……」
ソラとフレムはお父さんを確認すると、すぐにまた寝始める。
ソルに至っては、起きる気配すらない。
「ここは安全みたいだな」
「そうだね。シエル、部屋に戻ろうか」
「にゃうん」
マジックアイテムの灯りを消して、借りた部屋に戻る。
お父さんが部屋に入るので一緒に入ろうとして止まる。
「あっ、今日は別々だったな」
「うん」
いつもの癖って怖いな。
私の部屋にソラたちを運んでくれたお父さんが「お休み」と言って部屋を出る。
何だろう、すごい違和感。
「慣れってすごいわ」
まさか別々の部屋にいるだけで違和感を覚えるなんて。
まだ数ヶ月なのに。
……そうか、お父さんと一緒にいるのはまだ数ヶ月なんだ。
「なんだか不思議」
「にゃうん?」
シエルが私を不思議そうに見る。
「お父さんとはまだ1年も一緒にいないのに、ずっと一緒にいたような気がして……不思議だよね?」
「にゃうん」
シエルもこの感覚を、分かってくれるのかな?
そういえば、シエルともなんだかずっと一緒にいる感覚だな。
「ソラやシエルとも、出会ってからまだ2年にもなってないんだよね」
「にゃうん」
「もっとずっと一緒にいる感覚だなぁ」
「ぐるぐるぐる」
シエルの喉の音が聞こえる。
そっと喉に手を伸ばして、撫でると音が大きくなった。
尻尾も嬉しそうに、でも優しく揺れている。
尻尾の加減が出来るようになったのは、いつだったかな?
「そろそろ寝ようか。明日もきっと大変だろうから」
ベッドに入ると、シエルがそっと隣に寄り添ってくれる。
ちょっと寂しかったので、嬉しい。
「ありがとう。お休み」
ジナルさん達の仲間は、大丈夫だったかな?
そういえば、ギルマスさん達の事もあったな。
「ギルマスさん達を助けられたらいいのにな」
「ぷっぷ」
ん?
ソラが寝ている足元を見る。
起きた様子はない。
「寝言?」
まぁいいか。
お休み。
何だろう。
騒がしい?
「にゅうん」
「ぷっぷ~」
ん?
なんだかすごく近くでシエルとソラの声が聞こえたような……眠い。
「にゅうん」
「ぷっぷぷ~」
頬っぺたを何かが触れている事に気付く。
突かれているような……ん?
「なに……うっ」
目を開けると、目の前にシエルとソラの顔。
いや、近すぎるよ。
「おはよう。どうしたの?」
私の質問に、2匹が廊下に続く扉を見る。
こんこん、こんこん。
「…………あっ、はい!」
誰かが扉を叩いてたのか、気付かなかったな。
今は何時だろう?
えっ、お昼!
「すぐ開けます」
「ごめん、アイビー」
お父さんだ。
扉を開けると、申し訳なさそうな表情をしていた。
「寝過ごしちゃった」
「それはいいんだ。ちょっとジナルがアイビーに許可を取りたいと言ってきて」
許可?
「着替えたら、すぐに降りるね」
「あぁ、頼む」
部屋の扉を閉めると、急いでソラたちのポーションをバッグから取り出し並べていく。
ソルのマジックアイテムでちょっと手間取ったけど、問題なし。
あとは……あっ、自分の着替え。
えっと、なんでもいいか。
目に付いた服を着て、髪をブラシでとかす。
「顔、洗ってない!」
……とりあえず、落ち着こう。
慌て過ぎだ。
深呼吸して、顔を洗う。
順番を間違えたので、ちょっと襟元が濡れてしまった。
軽くふいて、よしっ。
「下に行って来るね。誰がいるか分からないから、今日は部屋にいてね」
扉を閉めて鍵を閉める。
あれ?
昨日も鍵を閉めてから部屋を出たよね?
……シエルたちはどうやって部屋を出たんだろう?
「後で考えればいいか。今は、待たせているから急がないと」




